超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 目が覚めると辺りは明るくなりかけていた。

 Tは外来者駐車場の地面の上に横たわっていた。

 ……なんだ、何があった……そうだ、オレは確か隕石? の直撃を受けて……

 顔をゆっくり、少しだけ左右に動かす。

 指先を動かしてみる。

 普通に体は動く。

 腕時計の蛍光の針を見る。

 午前四時五分だった。

 体を左に捻りながら慎重に、静かに立ち上がった。
 
 地面を見てぎょっとした。

 Tが倒れていた辺りに何かがめり込んでいた。

 なんだ? これは……やはり隕石か? 

 周囲の砂利土を掘り起こしその正体を確認する。

 にぎ拳大こぶしだいの黒く鉄っぽい石だった。

 かなり重い。

 やはり隕石っぽいな。すげえ、本物かよ! でも黒いな。緑色に光っていたはずだが……て待てよ? 

 気を失う直前のことを思い出した。

 ヤバい! ヤバいヤバいヤバいぃぃぃ! 

 額に手を当てようとして止めた。

 痛みはないが傷口に砂利土のついた手で触るのはまずい。

 そんなレベルの話じゃねぇ! 

 とにかくここじゃ何がどうなっているかわからない。

 直ちに守衛室に戻ることにした。

 とは言え、傷口に響かぬよう、転ばぬよう、慎重に歩き出したのだが――

「?」

 体が軽い。

 おいおい何でこんなに体が軽いんだ? 

 まるで雲の上を歩いているようだった。

 両足にローラースケートならぬ筋斗雲を履いているようだった。

 風に運ばれるように守衛室に戻っていた――いつも五分かかるところが一分もかからなかった。

 ひったくるようにデスクの上の手鏡を取る。

 気絶しないように覚悟を決めておそるおそる覗く。

 なにぃ~っ! 

 信じられなかった。

 額はおろか頭のどこにも傷一つついていない。

 そんな馬鹿な……! いや無事なのはいいんだが! そうするとあれは夢だったのか? あんなリアルな夢があるのか? いや、断じてあれは夢ではない! 

 もしあれが幻覚だったなら、いよいよ自分はヤバい、とTは思った。

 宗教家が見る幻覚みたいなもんか? ユタの神憑かみがかりみたいなもんか? それとも禅の魔境みたいなもんか? 

 魔境だけはないと思った。

 ただ、夜空を眺めていただけだ。

 あのときのTが禅の境地だったとは思えなかった。

 どれだけ頭をひねったところで答えが出るはずもなかった。

 ……まぁいいや。いや全然よくねえけど! オレにはもう何がなんだかわからん。考えたって無駄だ。

 急に何もかも面倒臭くなり、Tはそれ以上そのことについて考えるのをやめた。

 午前五時からの最後の巡回を終えると守衛室で時間まで固定監視を続け、午前八時にもう一人の警備員と交替し帰宅した。

 実際はそういうことだったが、Tはそれを山で倒れていて目が覚めてから小屋に帰ったというふうに話した。 
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