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28.断罪
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「アーシャ、ただいま!」
ずっと教会でヴェルの無事を祈っていたときでした。私の後ろから彼の優しい言葉が聞こえたので振り返ると……教会のドアが開き、逆光で眩しく手で覆い、薄目で見ると彼の姿がありました。
「ヴェルッ!?」
嬉しくなって、駆けて彼の胸に飛び込んだのです。
「アーシャ……随分と気が早いな。もう結婚式の準備かな?」
「もう! ヴェルの無事を祈ってたんですぅ」
揶揄う彼の言葉に頬を膨らまして、拗ねてしまいました。
「今、結婚しても良い……」
そんな膨れた頬を優しく撫で、腰を抱いて見つめらます。私は目を瞑り……
ん……
口付けを交わします。彼とずっと離れていた私はヴェルの首へ腕を回して、もっと熱いキスを求めました。
「コホン……」
私達は教会ということを忘れて、淫らな口付けをしてしまったようで、神父様の咳払いが聞こえてきたのです。二人で真っ赤になりながら、教会をあとにしました。
帰り道でヴェルが手を差し出してくれたので……恋人繋ぎをしながら、歩きます。
(大きくて温かい手……)
好き……大好き……手を繋いでもらっただけで離れていたこともあり、気持ちがキュンッとなってしまいました。
「アーシャ、聞いてくれ」
「はい?」
「俺達はヘンリー殿下を拘束した。いずれ、キミに証言をするよう求められるだろう。しかし、かつての婚約者だ……どうする?」
「はっきりとヘンリーの行いを証言します!」
ヴェルは私にヘンリーに対する情が残っていないか、私を心配してくれたようです。彼に問い質したいことは山ほどある……
けど、私を捨てたことなんて、全く気になんてならなくなっていました。
何故なら、私の側にヴェルが居てくれるのですから……
彼を見詰めるとさっきよりも少し強くしっかり握ってくれます。
「そうか……分かった。そうしてもらえると助かる」
(イライザ……)
それよりもヘンリーに殺された人達のために……ヘンリーに罪を償ってもらいたい、そう思っていました。
☆
――――騎士団庁舎内の尋問室。
俺はジュール様がアランを取り調べする脇に控え、見守っていた。
「アラン、座れ。私がお前を裁くことになった」
「せめて、この手枷くらいは取ってもらいたいものだな」
「それはキチンと証言するなら、考える」
着座したアランに一言告げた。
「最初に言っておこう。ヘンリーの犯した罪を全て告白すれば、罪の一等を減じたい」
「そんなことで俺がほいほい話すと思ったか?」
アランもその程度のことで掌を返すような者でもないらしい……
「イライザ様を殺害したのは護衛隊だな?」
「俺は何も拘わっていない!」
アーシャがイライザ様の部屋へ潜入し、彼女の姿がないとの証言から、騎士団が調べたところ、蛻の殻であることは既に確認済みだった。
「そうか、証言する気はないか……だと、断頭台は免れられそうにないな……」
ジュール様は立ち上がり、アランを置いて部屋を出ようとする。
「ま、待て! さっきの話は本当だろうな?」
「私はお前達とは違う」
「分かった……全て、ヘンリー殿下のご命令に従い、行ったことだ」
「皮を剥ぎ、川に捨てたことを認めるか?」
「認める! 俺はただ、命令のままに動いただけだ。だから、命だけは助けてくれ!」
ガタッと席を立ち、ジュール様に懇願しようとするが側にいる騎士に肩を押さえられ、座らされる。結局、アランはヘンリーを売り、イライザの件の全て白状し死罪を免れ、一旦は減刑されていた。
「ああ、孤島への流罪にしよう」
「助かった……」
鬼の目にも涙ではないが、アランは罪が軽くなったことに瞼に涙を浮かべ安堵している。
しかし……
第二騎士団員が入ってきて、俺に会釈したあと、何やら数枚の紙を渡していた。
「ジュール団長」
「ん? 何だ?」
「おお~、資料がもう出来たのか、良くやった!」
ピラピラと捲り、目を通したジュール様は……
「ふむふむ……アラン、残念な知らせだ……かつて私怨で無辜の者を拷問に掛け、享楽的に殺したなんて資料が運ばれてきたぞ」
「馬鹿な……」
「加えて、村での蛮行もあるし、証人も揃っている……う~む、これは流罪にするには無理があるようだ……」
白々しさを漂わせ、ジュール様はアランに告げた。
「貴様ぁぁ!!! 騙したなぁ!!!」
それに激高するアラン。立ち上がる勢いで椅子を倒し、ジュール様を物凄い剣幕で睨み付けるが騎士数名に床に這いつくばらされていた。
「私は無辜の者ならば、騙しはしない。だが、貴様達のような悪人には容赦しない!」
ジュール様は立ち上がり、指をアランに突き刺し、宣言するのだった。副隊長級もアランと同様に断頭台送りが決定し、生き残った一般隊員には鉱山での懲役刑が決定される。
だが、まだ最大の難題が俺達には残っていた。そう、それはヘンリー王子の処遇……
ずっと教会でヴェルの無事を祈っていたときでした。私の後ろから彼の優しい言葉が聞こえたので振り返ると……教会のドアが開き、逆光で眩しく手で覆い、薄目で見ると彼の姿がありました。
「ヴェルッ!?」
嬉しくなって、駆けて彼の胸に飛び込んだのです。
「アーシャ……随分と気が早いな。もう結婚式の準備かな?」
「もう! ヴェルの無事を祈ってたんですぅ」
揶揄う彼の言葉に頬を膨らまして、拗ねてしまいました。
「今、結婚しても良い……」
そんな膨れた頬を優しく撫で、腰を抱いて見つめらます。私は目を瞑り……
ん……
口付けを交わします。彼とずっと離れていた私はヴェルの首へ腕を回して、もっと熱いキスを求めました。
「コホン……」
私達は教会ということを忘れて、淫らな口付けをしてしまったようで、神父様の咳払いが聞こえてきたのです。二人で真っ赤になりながら、教会をあとにしました。
帰り道でヴェルが手を差し出してくれたので……恋人繋ぎをしながら、歩きます。
(大きくて温かい手……)
好き……大好き……手を繋いでもらっただけで離れていたこともあり、気持ちがキュンッとなってしまいました。
「アーシャ、聞いてくれ」
「はい?」
「俺達はヘンリー殿下を拘束した。いずれ、キミに証言をするよう求められるだろう。しかし、かつての婚約者だ……どうする?」
「はっきりとヘンリーの行いを証言します!」
ヴェルは私にヘンリーに対する情が残っていないか、私を心配してくれたようです。彼に問い質したいことは山ほどある……
けど、私を捨てたことなんて、全く気になんてならなくなっていました。
何故なら、私の側にヴェルが居てくれるのですから……
彼を見詰めるとさっきよりも少し強くしっかり握ってくれます。
「そうか……分かった。そうしてもらえると助かる」
(イライザ……)
それよりもヘンリーに殺された人達のために……ヘンリーに罪を償ってもらいたい、そう思っていました。
☆
――――騎士団庁舎内の尋問室。
俺はジュール様がアランを取り調べする脇に控え、見守っていた。
「アラン、座れ。私がお前を裁くことになった」
「せめて、この手枷くらいは取ってもらいたいものだな」
「それはキチンと証言するなら、考える」
着座したアランに一言告げた。
「最初に言っておこう。ヘンリーの犯した罪を全て告白すれば、罪の一等を減じたい」
「そんなことで俺がほいほい話すと思ったか?」
アランもその程度のことで掌を返すような者でもないらしい……
「イライザ様を殺害したのは護衛隊だな?」
「俺は何も拘わっていない!」
アーシャがイライザ様の部屋へ潜入し、彼女の姿がないとの証言から、騎士団が調べたところ、蛻の殻であることは既に確認済みだった。
「そうか、証言する気はないか……だと、断頭台は免れられそうにないな……」
ジュール様は立ち上がり、アランを置いて部屋を出ようとする。
「ま、待て! さっきの話は本当だろうな?」
「私はお前達とは違う」
「分かった……全て、ヘンリー殿下のご命令に従い、行ったことだ」
「皮を剥ぎ、川に捨てたことを認めるか?」
「認める! 俺はただ、命令のままに動いただけだ。だから、命だけは助けてくれ!」
ガタッと席を立ち、ジュール様に懇願しようとするが側にいる騎士に肩を押さえられ、座らされる。結局、アランはヘンリーを売り、イライザの件の全て白状し死罪を免れ、一旦は減刑されていた。
「ああ、孤島への流罪にしよう」
「助かった……」
鬼の目にも涙ではないが、アランは罪が軽くなったことに瞼に涙を浮かべ安堵している。
しかし……
第二騎士団員が入ってきて、俺に会釈したあと、何やら数枚の紙を渡していた。
「ジュール団長」
「ん? 何だ?」
「おお~、資料がもう出来たのか、良くやった!」
ピラピラと捲り、目を通したジュール様は……
「ふむふむ……アラン、残念な知らせだ……かつて私怨で無辜の者を拷問に掛け、享楽的に殺したなんて資料が運ばれてきたぞ」
「馬鹿な……」
「加えて、村での蛮行もあるし、証人も揃っている……う~む、これは流罪にするには無理があるようだ……」
白々しさを漂わせ、ジュール様はアランに告げた。
「貴様ぁぁ!!! 騙したなぁ!!!」
それに激高するアラン。立ち上がる勢いで椅子を倒し、ジュール様を物凄い剣幕で睨み付けるが騎士数名に床に這いつくばらされていた。
「私は無辜の者ならば、騙しはしない。だが、貴様達のような悪人には容赦しない!」
ジュール様は立ち上がり、指をアランに突き刺し、宣言するのだった。副隊長級もアランと同様に断頭台送りが決定し、生き残った一般隊員には鉱山での懲役刑が決定される。
だが、まだ最大の難題が俺達には残っていた。そう、それはヘンリー王子の処遇……
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