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一学期

とある日の朝

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 受験という荒波に揉まれるのは中学校の時以来。あの時も仁が進学校を希望するかもしれないという事で3人での時間が全くと言っていいほどなかった。遥や順も受験に向けてのラストスパート……順は特に色々と重なってしまいかなり苦しい状況からのスタートだったのもあり、遊ぶことは出来なかった。思い出を作るチャンスすら巡って来なかったことを思うと……遥は今回のドドとの取引は悪いものでは無いも思っていた。奇跡的に予定が合うようになる。それはお金よりも価値がある。
 例えあと1でも好感度があがるとプロポーズしてくるかもしれない親友2人だとしても思い出作りはしたい!

「したいか? いや、したいんだけど、なんか完全にドドにのせられているような」
「遥、なんか言ったか?」
「いや、なんでもない」

 遥は仁と登校をしながら改めて自分が置かれている状況を振り返る。
 目の前にいる仁は好感度があと1あがるとプロポーズしてくるかもしれない。そんなことあるのだろうかと頭をひねりたくなる。
 仁は遥が知る限り、勉強に生きてきた男である。女の子からの告白も勉強が出来なくなるからと何度も断る程度には勉強が好きなのだ。そのクセ、友情にあつく、何日か前に遊びに誘えばその時は必ず予定を開けて遊んでくれる。更には誕生日やクリスマスにもプレゼントをお互いに送りあったりもした。貰ったお揃いのシャープペンは今でもお互いに大事に使っている。

「っスゥ~」
「どうした遥? すごい顔してるぞ? 何か忘れ物でもしたか? この位置だと取りに戻るより誰かに借りた方がいいんじゃないか?」
「あ、あぁ。うん。そうする」

 ひょっとして、女の子の告白断ってたのは俺が好きだからか?
 ひょっとして、予定を何がなんでも絶対に開けてくれたのは俺が好きだからか?
 ひょっとして、プレゼントをくれたのも?
 遥の脳内で色んなものがひとつに繋がり始める。いやいや、いくら何でもそれは無いだろうと否定出来ればよかったのだが難しい。

「なぁ、仁、俺たち友達だよな?」
「もちろんだ……お前まさか、忘れたのは弁当か? 半分は無理だが少しぐらいなら分けてやるぞ」
「だ、大丈夫。弁当は持ってきてる」

 遥は間髪入れずに仁がもちろんだと言ってくれた事にほんの少し安心しながら登校した。軽口や雑談もしたのだが、どうしてもいつも通り体当たりや肩パンも出来なかった。

 学校に到着すると仁は部室に用があるとの事で遥は1人教室に向かうことになる。教室はいつも通り順の周りに人は居ない。

「おぅ、遥、遅かったな!」
「順が早すぎるんだよ」

 遥が席に着くと順は椅子を後ろに向けてがっつり話す体制を作る。手には女性の水着姿が表紙を飾っている青年向けのマンガ雑誌だ。
 そうだ、順は女性と付き合っていたことがあるではないかと遥は急に思い出す。

「順は今、つきあってるやつとかいる?」
「あー……いらん。遥と仁とで遊んでる方が楽しいし。そういう遥は?」
「いるわけないだろ」
「なんだよ、びっくりさせんなよ。いきなりそんな話するから遥に恋人でも出来たのかと思うじゃん!」

 ごしんばしんと明らかに音がおかしいレベルで順は遥の背中を叩く。周りは大丈夫か? 先生呼ぶか? と不安そうに見ている。
 順は不良だと言われているが遥が知る限り、そこまで悪い奴ではない。勉強が嫌いで体が大きい分、運動ができてケンカが強いだけだ。そのせいで本当に悪いやつらに目をつけられて利用されるだけされて大変な目にあったらしく、その時ようやく本当の友情に気がついたと遥に熱く語ってくれたのだ。
 だから、遥はいるわけないだろと言った瞬間の順の心の底から安心した表情は気のせいだと思いたかった。いや、たぶん、友情が続くから安心したのだろう。そう思う事にした。

「なぁ、順、俺たち友達だよな?」
「おう! 今はな!」

 順の元気のよすぎる声に遥は頭を抱えることになった。
 その一言絶対にいらなかったよね。順はバカでないのだ……少し本音が出やすいやつなのだ。
 仁に続き、順にもスキンシップを見送ることになった、遥だった。
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