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月の砂漠のかぐや姫 第206話
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「と、言うようなことを、ずっと考えていたのです。王柔殿。ここからでも見えますが、この広い空間から水が流れ出ている洞窟は、どちらも歩いて奥へ入っていくことができそうです。あの奥の方がどうなっているかはわかりませんが、まだ、僕たちは地中に閉じ込められたと決まったわけでは無いんですよっ」
嬉しさを隠し切れない様子で勢いよく話す羽磋を、王柔は眩しいものを見つめるときの様に目を細めて見つめました。
なぜなら、自分と羽磋の見ているものがあまりにも違っていたからです。いえ、実際に見ているものは、このほのかな青い光に照らされた砂岩の壁と天井、それに、青い水面であって、自分も羽磋も変わりはありません。でも、自分はまだ、理亜や自分たちが何とか無事であったことに心の底からほっとしているだけで、せいぜい「ここは不思議な場所だなぁ」というぐらいの感覚しか持っていませんでした。それなのに、自分よりも年若く小柄で少年と言っても差し支えないようなこの青年は、一番最後に意識を取り戻したのにもかかわらず、ここがどの様な場所であるか、ここから外へ出るにはどうしたらいいのかについて、既に考えを巡らせていたのです。
「すごいですねぇ、羽磋殿は」
王柔の口から、羽磋に感心する素直な気持ちが洩れました。それに続いて、「それに比べて僕はダメです」と言う、自分を卑下するこれも素直な気持ちが口を突いて出ようとしましたが、王柔はなんとかそれを押しとどめました。
それは、羽磋の後ろに理亜が立っているのが目に入ったからでした。
「いや、今はそんなことを言っている場合じゃないんだ。羽磋殿の言うとおり、なんとかして出口を探して、理亜を外に出してやらないといけないんだから」
以前の王柔には、自分を卑下する言葉を簡単に口に出し、それを言い訳にしてそこで努力することを止めてしまうところがありました。でも、理亜と出会ってからの王柔は、心の弱さを覚えることがあっても、そこで止まるのではなくさらに前へ一歩進む強さを、身に付けつつありました。今もそうでした。自分が強かろうと駄目だろうと、理亜をこの場所から外に出してやれるのは、その自分と羽磋だけなのです。ここで、自分の弱さを言い訳にして羽磋一人に理亜のことを任せてしまうなんて、王柔には考えられません。
王柔にとって理亜は実の妹のように大切な存在になっていましたから、「理亜の為に」と考えると、「できるかできないか」ではなくて、「してやりたい」という気持ちが前面に出てくるようになっていました。
この大空間でも、「羽磋と自分のできることを比較しても仕方がない、自分もやるしかない、そして、理亜の為にやりたい」と、前向きな気持ちに切り替えができたのでした。
王柔は下を向く代わりに羽磋が示した二つの洞窟の方を向きました。羽磋の言う通り、大きく開いた洞窟の口の中に水が流れ込んでいっていますが、その脇には乾いた地面が奥へと続いていっているのが見えるので、水の流れに沿って奥へ進んでいくことはできそうです。ただ、それは二つの洞窟のどちらも同じでした。
「羽磋殿、どちらの洞窟も奥へ入っていけそうですが、どちらに入っていきますか。いえ、すみません、判断を押し付けるわけではないのですが、僕には良くわからなくて」
二つの洞窟の入口が開いている大空間の奥の方を凝視した後で、王柔は困ったような顔をして羽磋に話しかけました。このような判断材料が乏しい場面で道を決めなければならない辛さは、ヤルダンの案内人である王柔にはよく判っていました。でも、いくら目を凝らしてみても、二つの洞窟に特徴的な差異があるようには見えず、どちらの洞窟に入っていくべきか彼には考えがつかなかったのでした。
「そうですねぇ・・・・・・。少し思いつくことはあるのですが、まずは入り口にまで行ってみて、もう少し詳しく調べてみましょう」
「わかりました、羽磋殿。理亜、大丈夫かな。疲れてないかい」
王柔は実際に洞窟の入り口にまで行って調べようという羽磋の提案に同意すると同時に、理亜に疲れがないかどうかを訪ねました。彼らは大空間の足場の悪い中でずいぶんと歩いてきていたので、理亜に対して気を配ったのでした。
「うんっ。大丈夫だヨ」
理亜は元気よく王柔に答えました。水面が発するほのかな青い光に照らされたその表情にも、特に疲れの色は浮かんでいませんでした。むしろ、一番最後に意識を取り戻した羽磋や、自分の気を奮い立たせるために肩に力が入っている王柔の方が疲れているように見えました。
「良かった。羽磋殿、理亜も大丈夫そうです。おっしゃるように、あの二つの洞窟の入り口まで行って、周囲を良く調べてみましょう」
王柔は理亜の予想以上に元気な様子と自分たちの少し疲れが見える様子とを見比べて、嬉しさを表すようでもあり自嘲を表すようでもある複雑な笑みを口元に浮かべながら、羽磋に答えました。
嬉しさを隠し切れない様子で勢いよく話す羽磋を、王柔は眩しいものを見つめるときの様に目を細めて見つめました。
なぜなら、自分と羽磋の見ているものがあまりにも違っていたからです。いえ、実際に見ているものは、このほのかな青い光に照らされた砂岩の壁と天井、それに、青い水面であって、自分も羽磋も変わりはありません。でも、自分はまだ、理亜や自分たちが何とか無事であったことに心の底からほっとしているだけで、せいぜい「ここは不思議な場所だなぁ」というぐらいの感覚しか持っていませんでした。それなのに、自分よりも年若く小柄で少年と言っても差し支えないようなこの青年は、一番最後に意識を取り戻したのにもかかわらず、ここがどの様な場所であるか、ここから外へ出るにはどうしたらいいのかについて、既に考えを巡らせていたのです。
「すごいですねぇ、羽磋殿は」
王柔の口から、羽磋に感心する素直な気持ちが洩れました。それに続いて、「それに比べて僕はダメです」と言う、自分を卑下するこれも素直な気持ちが口を突いて出ようとしましたが、王柔はなんとかそれを押しとどめました。
それは、羽磋の後ろに理亜が立っているのが目に入ったからでした。
「いや、今はそんなことを言っている場合じゃないんだ。羽磋殿の言うとおり、なんとかして出口を探して、理亜を外に出してやらないといけないんだから」
以前の王柔には、自分を卑下する言葉を簡単に口に出し、それを言い訳にしてそこで努力することを止めてしまうところがありました。でも、理亜と出会ってからの王柔は、心の弱さを覚えることがあっても、そこで止まるのではなくさらに前へ一歩進む強さを、身に付けつつありました。今もそうでした。自分が強かろうと駄目だろうと、理亜をこの場所から外に出してやれるのは、その自分と羽磋だけなのです。ここで、自分の弱さを言い訳にして羽磋一人に理亜のことを任せてしまうなんて、王柔には考えられません。
王柔にとって理亜は実の妹のように大切な存在になっていましたから、「理亜の為に」と考えると、「できるかできないか」ではなくて、「してやりたい」という気持ちが前面に出てくるようになっていました。
この大空間でも、「羽磋と自分のできることを比較しても仕方がない、自分もやるしかない、そして、理亜の為にやりたい」と、前向きな気持ちに切り替えができたのでした。
王柔は下を向く代わりに羽磋が示した二つの洞窟の方を向きました。羽磋の言う通り、大きく開いた洞窟の口の中に水が流れ込んでいっていますが、その脇には乾いた地面が奥へと続いていっているのが見えるので、水の流れに沿って奥へ進んでいくことはできそうです。ただ、それは二つの洞窟のどちらも同じでした。
「羽磋殿、どちらの洞窟も奥へ入っていけそうですが、どちらに入っていきますか。いえ、すみません、判断を押し付けるわけではないのですが、僕には良くわからなくて」
二つの洞窟の入口が開いている大空間の奥の方を凝視した後で、王柔は困ったような顔をして羽磋に話しかけました。このような判断材料が乏しい場面で道を決めなければならない辛さは、ヤルダンの案内人である王柔にはよく判っていました。でも、いくら目を凝らしてみても、二つの洞窟に特徴的な差異があるようには見えず、どちらの洞窟に入っていくべきか彼には考えがつかなかったのでした。
「そうですねぇ・・・・・・。少し思いつくことはあるのですが、まずは入り口にまで行ってみて、もう少し詳しく調べてみましょう」
「わかりました、羽磋殿。理亜、大丈夫かな。疲れてないかい」
王柔は実際に洞窟の入り口にまで行って調べようという羽磋の提案に同意すると同時に、理亜に疲れがないかどうかを訪ねました。彼らは大空間の足場の悪い中でずいぶんと歩いてきていたので、理亜に対して気を配ったのでした。
「うんっ。大丈夫だヨ」
理亜は元気よく王柔に答えました。水面が発するほのかな青い光に照らされたその表情にも、特に疲れの色は浮かんでいませんでした。むしろ、一番最後に意識を取り戻した羽磋や、自分の気を奮い立たせるために肩に力が入っている王柔の方が疲れているように見えました。
「良かった。羽磋殿、理亜も大丈夫そうです。おっしゃるように、あの二つの洞窟の入り口まで行って、周囲を良く調べてみましょう」
王柔は理亜の予想以上に元気な様子と自分たちの少し疲れが見える様子とを見比べて、嬉しさを表すようでもあり自嘲を表すようでもある複雑な笑みを口元に浮かべながら、羽磋に答えました。
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