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最初の顧客

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 さくらには尊敬する先生がいた。寿村商店の寿村寿という社長さんだ。

 さくらにとって忘れられない初めてお客様なのだが、学ぶべきことが多く、その人柄も合わせて、さくらは大好きな社長さんだった。

 休み明けの月曜日は寿村社長と面談することなっていて楽しみで仕方ないのだ。

「そうだ。寿村社長に相談してみようかな。」
 大きな声の独り言を言うと、お客様だけど私にとっては先生だから、相談してもいいよね。一般的な話として相談すれば平気だよね。

 独り言を交えながらさくらは自問自答を繰り返した。

 寿村は経営者でありながら、プロ級の投資技術を持つ投資家でもあった。したがって経済や金融市場についてはかなり精通しており、入社したばかりのさくらとは知識レベルにおいて雲泥の差があった。

 寿村の事務所には新規獲得狙いも含め多くの業者が訪れる。そんな日常が影響してか金融機関関係者に対しての要求水準は高い。

 兎にも角にも金融市場のことは何でも知ってるいるというレベルである為、並の営業マンではお相手は相当難しい。

 そんな中、どうして新人のさくらと取引をしてくれたのだろうか。

 課長の久保田や新井課長代理、寿村社長を知っている者は皆不思議がっていた。

 寿村社長はさくらの直向きさを感じとっていたのだ。

最初から万能な人間なんていない。疑問を放置することなく調べる。アンテナを高くして情報に敏感になり、その情報がどのように影響するのかの解析を繰り返し行うことで、マーケットや個別企業の業績の趨勢を見通せるようになる。


寿村社長のさくらへの眼差しはとても優しいものだった。何故なら、さくらが寿村が考えるプロセスを毎日実行していることを初回面談で感じることができたからだ。



寧ろ一流のバンカーに成長する姿を見守りたい、そう思うようになっていた。


「おはようございます。社長、東山です。」
月曜日の朝、さくらは先生の事務所を訪れた。
「おう、来たか。」そこには、柔和な表情で入社1年目のさくらを出迎える寿村がいた。

「今日は何を持ってきたのかな?」
と、嬉しそうにさくらに問う寿村。他の金融機関の者が見たら嫉妬するであろうその態度に、
「何時も何か買って下さい、なんて営業はいたしておりません。かといって、いつものお土産以外に有用な情報をお持ちしたわけでもありません。」


「いつものお土産、今日もあるんだ。」
「はい、勿論です。」
さくらは営業鞄から新聞やネットから切り出した寿村商店の業容に関係する記事をまとめたノートを手渡した。
     
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