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感謝と感動
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さくらは橋の上で悔しくて涙ぐんだのとは違う、そう、有難さ、が込み上げ目頭を熱くした。
サラリーマンとして大事な時期、課長昇進を目の前にした新井さんが新人の私なんかの為に、立ち位置を顧みず私の気持ちを代弁してくれた。
熱くなった目頭からは、ぽとぽとと感謝の粒が流れ落ちた。
植草はそんなさくらをみながら
「東山、新井さんみたいな人がいるから俺たちは頑張れるし、落ち込んだり、腐ったりしてる暇なんてないんだよな。」
さくらは頷きながら
「頑張ったらいいことある。」と小さな声で呟いた。
「明日、何らかの結論が出されると思うけど、
大丈夫だよな。東山。」
「はい、どんな結論でも今まで以上に頑張れます。」
さくらは新井課長代理に感謝しながら、もう無理しないで欲しいと、素直に思った。
「新井さん、カッコよかったな。俺たち幸せだよ。」
植草の子供のような笑顔につられ、いつしかさくらも柔和な表情になり、自然に前向きな明るい気持ちになっていた。
そんなさくらは、翌日NS商事の担当に関して部長の樋口から直々に呼び出されることになるのだ。
翌日、本店営業部にはいつものように誰よりも早く出社し、情報収集するさくらの姿があった。
植草も割と早い出社であり、さくらは植草の姿を見つけると
「主任、昨日は色々とありがとうございました。」
と丁寧にお礼を言った。
植草は右の掌をさくらに向け、いいよ、と合図。
続けて課長代理の新井が出社してきた。
さくらは一瞬躊躇したものの、新井の元へ歩を進め
「昨日は私のことで大変ご迷惑をお掛けしました。」
と、深々と頭を下げ、
「生意気ですが昨日のことはもう自分の中で整理しました。ですから、あまり無理しないでください。お願いします。」
と、感謝と素直な気持ちを伝えた。
新井は少し困惑した表情で
「東山さんの気持ちは有難く受け止める。けれど自分の意見は意見として伝える必要があるんだ。理不尽なことを普通にされては良くないだろ?」
そう言って優しく微笑む新井に、さくらは何の飾りもなく
「課長昇格目前の時期ですから。」
すると新井は
「分かってるよ。間違っていることを見過ごして課長に昇格しても気持ち悪いだけだろ。
だから、昨日にことはいいんだ。しかし、最後、部長が引き取られた。だから、俺の意見は昨日の発言が最後だよ。部長の決定には従うしかないからね。」
さくらは何かほっとした気持ちになり重ねて
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げ自席に戻った。
一通り情報収集が終わった頃には課長の久保田も含め課員全員が揃っていた。
そこへ樋口部長から内線がさくらの元に入った。
さくらは少し動揺しながら
「分かりました。」
そして、受話器を置き直ぐに久保田課長の元へ行った。
さくらは、自分ではなく無機質な誰か違う人が話しているような錯覚の中
「今、樋口部長から電話があり、NS商事の件については久保田課長の意向に従うようにと指示を受けました。」
と、報告した。
「えっ、ウソだろ」
植草がうっかり声を出した。
事情を知る課員は皆同じ思いだったが、聞こえていないフリをするのが会社人として精一杯の自己防衛だった。
皆が動きを止め、固まった空気の中、ただ一人だけスクッと立ち上がり、課長席に向かう奴がいた。
新井だ。
さくらが新井の動きを捉えた時は既に課長の久保田、さくら、そして新井の3人がトライアングルの陣容で対峙する位置取りになっていた。
さくらは新井に視線を向け
「ダメっ、ダメっ」
と、メッセージを送り、
なんで?部長の決定には口を挟まないと言ったのに本当に昇進出来なくなっちゃう
さくらの中は既に自分の担当問題より新井の処遇に対する心配で一杯になっていた。
そんなさくらの思いとは裏腹に、新井は何の躊躇いもなく
「久保田課長、おかしいですよ。」
植草は半分涙ぐんで
「新井さん」
と小さな声で呟きながら自席を立った。
普段は非常に大人しく調和を重んじる植草が
新井の声に続けて
「私もおかしいと思います。東山の毎日の努力を隣で見ている私には今回の決定には異議があります。」
すると久保田は
「お前ら東山の話聞こえてただろ。樋口部長の決定だぞ。」
と、高圧気味に反撃した。
久保田は課長である為、当然、課全体の成績に責任を負っているのと同時に、プレイイングマネージャーであるが故に個人の成績にも拘る必要があったのだ。
早期にもう一段上を目指すには個人的な成績にインパクトが欲しいと常々思っていたところだった。
そう、NS商事との取引担当になることはインパクト以上のものを手中にすることを意味することくらい誰でも想像できた。
それに、今回の担当者変更には大義名分がある。
東山さくらの知識不足、提案能力不足だ。
久保田は頭の中でゆっくり整理したあと、もう一度
「樋口部長の決定だぞ。部長に逆らうのか。」
と、この議論の幕引きを狙った。
しかし、新井はすかさず
「樋口部長は久保田課長の意向に沿うように、と東山に指示を出しました。課長として担当者変更など極めて理不尽な意向をお持ちであるのであれば撤回すべきです。」
新井は明らかに久保田の上を行っていた。
さくらは無意識のまま、涙を一つこぼした。頑張ればこんなにいいことがあるんだ、と先輩達に感謝しつつ
「久保田課長のご意向ですから、私、また頑張ります。」
すっきりとした笑顔を新井、植草、そして久保田に見せた。
サラリーマンとして大事な時期、課長昇進を目の前にした新井さんが新人の私なんかの為に、立ち位置を顧みず私の気持ちを代弁してくれた。
熱くなった目頭からは、ぽとぽとと感謝の粒が流れ落ちた。
植草はそんなさくらをみながら
「東山、新井さんみたいな人がいるから俺たちは頑張れるし、落ち込んだり、腐ったりしてる暇なんてないんだよな。」
さくらは頷きながら
「頑張ったらいいことある。」と小さな声で呟いた。
「明日、何らかの結論が出されると思うけど、
大丈夫だよな。東山。」
「はい、どんな結論でも今まで以上に頑張れます。」
さくらは新井課長代理に感謝しながら、もう無理しないで欲しいと、素直に思った。
「新井さん、カッコよかったな。俺たち幸せだよ。」
植草の子供のような笑顔につられ、いつしかさくらも柔和な表情になり、自然に前向きな明るい気持ちになっていた。
そんなさくらは、翌日NS商事の担当に関して部長の樋口から直々に呼び出されることになるのだ。
翌日、本店営業部にはいつものように誰よりも早く出社し、情報収集するさくらの姿があった。
植草も割と早い出社であり、さくらは植草の姿を見つけると
「主任、昨日は色々とありがとうございました。」
と丁寧にお礼を言った。
植草は右の掌をさくらに向け、いいよ、と合図。
続けて課長代理の新井が出社してきた。
さくらは一瞬躊躇したものの、新井の元へ歩を進め
「昨日は私のことで大変ご迷惑をお掛けしました。」
と、深々と頭を下げ、
「生意気ですが昨日のことはもう自分の中で整理しました。ですから、あまり無理しないでください。お願いします。」
と、感謝と素直な気持ちを伝えた。
新井は少し困惑した表情で
「東山さんの気持ちは有難く受け止める。けれど自分の意見は意見として伝える必要があるんだ。理不尽なことを普通にされては良くないだろ?」
そう言って優しく微笑む新井に、さくらは何の飾りもなく
「課長昇格目前の時期ですから。」
すると新井は
「分かってるよ。間違っていることを見過ごして課長に昇格しても気持ち悪いだけだろ。
だから、昨日にことはいいんだ。しかし、最後、部長が引き取られた。だから、俺の意見は昨日の発言が最後だよ。部長の決定には従うしかないからね。」
さくらは何かほっとした気持ちになり重ねて
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げ自席に戻った。
一通り情報収集が終わった頃には課長の久保田も含め課員全員が揃っていた。
そこへ樋口部長から内線がさくらの元に入った。
さくらは少し動揺しながら
「分かりました。」
そして、受話器を置き直ぐに久保田課長の元へ行った。
さくらは、自分ではなく無機質な誰か違う人が話しているような錯覚の中
「今、樋口部長から電話があり、NS商事の件については久保田課長の意向に従うようにと指示を受けました。」
と、報告した。
「えっ、ウソだろ」
植草がうっかり声を出した。
事情を知る課員は皆同じ思いだったが、聞こえていないフリをするのが会社人として精一杯の自己防衛だった。
皆が動きを止め、固まった空気の中、ただ一人だけスクッと立ち上がり、課長席に向かう奴がいた。
新井だ。
さくらが新井の動きを捉えた時は既に課長の久保田、さくら、そして新井の3人がトライアングルの陣容で対峙する位置取りになっていた。
さくらは新井に視線を向け
「ダメっ、ダメっ」
と、メッセージを送り、
なんで?部長の決定には口を挟まないと言ったのに本当に昇進出来なくなっちゃう
さくらの中は既に自分の担当問題より新井の処遇に対する心配で一杯になっていた。
そんなさくらの思いとは裏腹に、新井は何の躊躇いもなく
「久保田課長、おかしいですよ。」
植草は半分涙ぐんで
「新井さん」
と小さな声で呟きながら自席を立った。
普段は非常に大人しく調和を重んじる植草が
新井の声に続けて
「私もおかしいと思います。東山の毎日の努力を隣で見ている私には今回の決定には異議があります。」
すると久保田は
「お前ら東山の話聞こえてただろ。樋口部長の決定だぞ。」
と、高圧気味に反撃した。
久保田は課長である為、当然、課全体の成績に責任を負っているのと同時に、プレイイングマネージャーであるが故に個人の成績にも拘る必要があったのだ。
早期にもう一段上を目指すには個人的な成績にインパクトが欲しいと常々思っていたところだった。
そう、NS商事との取引担当になることはインパクト以上のものを手中にすることを意味することくらい誰でも想像できた。
それに、今回の担当者変更には大義名分がある。
東山さくらの知識不足、提案能力不足だ。
久保田は頭の中でゆっくり整理したあと、もう一度
「樋口部長の決定だぞ。部長に逆らうのか。」
と、この議論の幕引きを狙った。
しかし、新井はすかさず
「樋口部長は久保田課長の意向に沿うように、と東山に指示を出しました。課長として担当者変更など極めて理不尽な意向をお持ちであるのであれば撤回すべきです。」
新井は明らかに久保田の上を行っていた。
さくらは無意識のまま、涙を一つこぼした。頑張ればこんなにいいことがあるんだ、と先輩達に感謝しつつ
「久保田課長のご意向ですから、私、また頑張ります。」
すっきりとした笑顔を新井、植草、そして久保田に見せた。
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