その男、繊細につき

慶之助

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1-23 無茶苦茶

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昨日帰り際に大志は矢部のテーブルまで行きわざわざ
「ゆっくり休んでください」
と、言って帰った。そこには、何んとか問題を起こして欲しくない、という願いがこもっていた。

果たしてその願いは裏切られることになった。

雫ママも初参加の矢部を気にかけて、勝彦と大志が出す車2台をメモリーズが入っているビルの下にある駐車場を待ち合わせの場所にしていた。

日頃の粗野な言動から矢部と同乗することに抵抗感を持つ参加者が多く、結局はお目付け役の達治の車に、矢部、啓太、優子が同乗することになっていたのだが集合時間の6時半になっても矢部は駐車場に現れない。

5分過ぎたところで、大志の車に同乗予定で既に乗り込んでいた悠一と雫ママ、遥が一旦外に出てきた。

勝彦もエンジンを止めて降りてきた。

「矢部さん、店で寝ているんですよね。僕迎えに行ってきます」
啓太が口を開いた。

皆、異論は無く、雫ママから店の鍵を受け取り足早に啓太は5階のメモリーズへ向かった。

ドアを開けた啓太は、一瞬で吐き気を覚えた。どうしたら一晩でこんなに臭くなるんだ、というくらいに悪臭が充満していた。

更に目に飛び込んできたのは、カウンター後ろの扉が開いており、キープボトルのしかも高級なブランデー、ウイスキーの瓶が転がっている光景だった。

冷蔵庫の扉も開けっぱなしのようだ。

やってるなぁ、この人。啓太は動揺することは無く普通に呆れていた。
「矢部さん、行きますよ。起きてください」

啓太は店の片付けは後回しにして、取り敢えずコンペを優先すべきと判断し、ヨレヨレの矢部を連れ出すことにした。

自分の悪行に対して何も触れずやや緊張感のある声で同行を促す啓太の声に、矢部もその場の自分の立ち位置を理解したようで、何とかしっかりした雰囲気をつくって駐車場に到着した。

「みなさん、もうしわけなかった。」
矢部が珍しく自ら頭をさげた。

「時間もあれなんで、出発しましょう」
勝彦が声を掛けてそろりと車は駐車場を後にした。

この間、大志はずっと車の中にいて、あーあ店の中、無茶苦茶になってなければいいけど、、、イライラしながら矢部を何とかしないと、と考えていた。

大志は矢部の日頃の素行からある程度のことを予想して、自分のブチ切れ行動を抑える為にずっと車の中にいたのだった。

啓太は後部座席に乗り込むと雫ママに店の状況を説明する為に携帯を取り出してメールを書き始めた。

この時既に相当程度矢部に振り回されている事実を皆が感じていた。
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