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7品目:執行猶予中の温やっこ(400円)

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 お猪口をぐいっと傾け、ジョーさんがしみじみとつぶやく。

「そう……ですか」

 本来なら喜ぶべきことなのだろうが、一緒にいた時間が長かったからか寂しさの方が上回っていた。受け入れる準備はできているはずなのに、いざ事実を目の当たりにすると、予想以上に自分が狼狽えていることに気づく。

 これがもしマナだったら。

 正直、今はあまり考えたくない。



「てなわけで今日は付き合ってもらうぜ」



 いつの間にかお猪口がひとつ増えていた。ビールはもう飲み干していたので、僕は素直に受け取って、透明な液体をちびりとすする。力強く、キレのある辛口だ。お通しのオクラにも合う。

 こうなると日本酒にマッチしたおつまみを頼まなくてはならない。市松模様のメニューブックを開き、熟考する。いつもなら迷わずから揚げを注文するところだが、揚げ物よりは煮物や焼き物の方が適しているだろう。

 あいにく黒板には『本日のお刺身』は載っていなかった。お店の立地上、毎日新鮮な魚を仕入れるのは難しいのかもしれない。

 思えば僕は、お盆の時以外に日本酒をベースに食事を組み立てたことがなかった。

 焼き鳥? 煮込み? ポテトサラダ? 餃子? 厚焼き玉子? 冷やしトマト?

 うんうんと唸る僕に痺れを切らしてか、ジョーさんがアイハを呼び止め、何かを注文している。ここは年上に任せておくのが最善手か。

「そういえばジョーさんって、居酒屋の店長だったんですよね」
「だな」
「好きなことを仕事にするのが嫌だって人もいるじゃないですか。純粋に楽しめなくなるからって理由で。ジョーさんは違うんですね」
「というより、俺には選択権なんてなかったからな。家族を食わせなきゃならんからよ。こう見えて前職はコールセンターだったんだぜ」
「うへえ」

 変な声が出た。この渋い声で「お電話ありがとうございます。お客様サポートセンターです」なんて言われたら、ヤクザの事務所に間違い電話をかけてしまったと、反射的に受話器を置いてしまいそうだ。

「会社がブラックだったから辞めたけどよ。十五年働いてたけど、あのままじゃメンタルがおかしくなりそうだった。その頃にゃ俺も五十手前さ。年金生活まで持つほどの貯金はなかったら、未経験者歓迎の居酒屋店長に転職したってわけだ。
 だがこっちも地獄だった。席数はここの倍以上あるのに、同じ時間帯でスタッフは多くても三人までっていう本社の決まりでな。バイトが病欠したりばっくれたりした日は最悪だぜ。二人じゃ店が機能するわけねえ。欠員が出たら店長の責任になるから、夕勤と夜勤で十二時間休憩なしでぶっ通しなんて毎週のようにあったしな。休みも月に三回あればいい方だ」

 飲食業に対して、「きつい、厳しい、帰れない」といった悪いイメージを持つ者も多い。「どんなに内定がもらえなくても、飲食だけは絶対に嫌だ」という大学の友達もいる。極端な例ばかりが注目されているだけで、すべてのお店の環境が劣悪というわけではないと信じたい。



「よく体力持ちましたね」
「持たなかったよ。だから死んだ」
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