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第2章

第31話 大きな声を出さなくても聞こえてるよ!

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 何事もなくリリーフ村に辿り着いた。地上に降りてから起きたトラブルの大半は自分たちのせいじゃないかなと、いい加減気がついた。というより現実を見つめ直したというべきかもしれない。

 そして冒険者をやっていくのならリナの美貌とメイド服に誘われてトラブルが起きる可能性が今後は多くなると予想している。これはリナが一緒に居る限りずっと続くだろう。そして今までのような対処をしていたら、いずれは恨みばかり買ってしまうことになりかねない。ただでさえうっかりでトラブルを引き起こす僕とリナだから少しでもトラブルの芽を刈りたいと思っている。

 そこで今僕とリナはアラディンさんと共に宿を取った後に冒険者ギルドへ申請に来ていた。最初は最低ランクの赤からスタートだけど上に上がるに連れて名声を得ていき、いずれは畏怖され絡まれる事は無くなるはずだ。

 それまでは絡まれる可能性はあるけれど、力に訴えるが暴力ではない方法を思いついたので次にトラブルが起きたときに実践しようと思う。それまでに一度猪や鹿などで問題が無いか確認をしてみたいところだけど。

 このリリーフ村はアルゴリズモ村より少し規模が小さく、狩猟と農業で成り立っている村だ。中継地点としては街に近く、周りの森にはあまり魔獣やモンスターが生息していない地域で、ある意味安全だけどこれといった特徴もない村だった。

 そのため行商人には好評であっても、普通の冒険者には人気の無い村だった。しかし、人気が無いということは人手が足らないということもあり、駆け出し冒険者にだけは丁度良い難易度のクエストもあって人気になっていた。

 冒険者ギルドの新しいクエスト依頼は大抵が早朝に張り出されて、依頼内容に指定されているランクより自身のランクの方が上であれば基本的には早い者順で受ける事が出来る。

 ただし自分のランクより低いクエストを受ける事はマナー違反と言われていて、駆け出し冒険者のクエストに付き添うなどの理由がない場合は白い目で見られたり笑いものにされたりする。

 冒険者ギルドに入ったところ、冒険者たちは居なくカウンターに受付の女性が一人居るだけだった。

「おおい、エディス!こいつらを冒険者ギルド入れるからギルドカード発行してくれや!」
「大きな声を出さなくても聞こえてるよ!」

 アラディンさんの大声に負けず劣らず大きな声で返事をした女性、エディスさんは若い頃は女戦士をやっていたと言われたら納得するくらいがっしりした体形をしていた。

「マサト・カナエです。お願いします」
「リナです。よろしくお願い致します」
「エディスだよ、話を聞くから椅子に座りな」

 僕たちは受付カウンターに居たエディスさんと自己紹介をした後、椅子に座った。

 ちなみにリナが名前しか言わなかったのは、この世界では名字は貴族や王族、または名字を下賜された大商人などでしか使われていないからだ。

 例外としてエルドラド王国では庶民でも名字が使われていてる。最初うっかりフルネームで言ってしまったのでイリーナさんに説明したエルドラド王国出身という嘘をそのまま利用することにした。

 エルドラド王国の方針は他の国の庶民でも非公式だけど採用されている。同じ名前だと混乱するからだ。庶民が名字を付けて名乗るときは大抵は出身地を名字として使っている。

「こっちの嬢ちゃんも登録するのかい?メイドギルドの方が良いと思うけどね」
「バカ言え。こいつら全盛期の俺らよりもつえーぞ」
「え!?」

 エディスさんは目を見開き僕とリナを見つめた。

「そんな風に見えないけどねぇ」
「襲撃してきた盗賊の集団の大半をこいつら2人で片付けた挙げ句、こことアルゴリズモ村の間にある広場で絡んできた数人の冒険者すら簡単にあしらってたからな」
「でもそれ位は昔の私たちでもやってたじゃないか」
「マサトは一人で100kg近い猪を肩に担いだり、すっげぇ魔法を放ったりしてたが、お前にそんなこと出来たのか?」
「・・・出来てたら今頃ここには居ないだろうね」

 エディスさんが少ししんみりしたら、アルディンさんは言い過ぎたって顔をして頭をガシガシ掻きむしった。話題を変えるためかアルディンさんは僕らが冒険者ギルドのギルドカードを持ってないことをエディスさんに説明した。

「まぁ、そんなわけでこいつら実力も見た目も目立つからよ。アスピラシオで冒険者ギルドに登録するって言ってたところをここで先に登録させてやろうと思ってな。
 あの街だったらある程度融通が効くとは言ってもギルドカードを持ってなかったら押し通せることも通せねぇ。まずはカードを作って、実力とランクが一致してないから何とかしろとごねてやろうと考えてるわけだ」
「全く相変わらずお節介をやいてんだねぇ」
「うるせぇよ。それにこいつらは俺らの命の恩人だからな。マサトたちが盗賊に襲われたとき助っ人に入って来なかったらヘタすりゃ全滅してたかもしれん」

 アルディンさんは、さぁ分かったらさっさとカードを作れとエディスさんに伝えると僕たちのギルドカードを発行する手続きをしてくれた。

 まず名前と現在の職業を書類に書き、書類に描かれていた魔法陣に手を当て個人を特定することが出来る霊的パターンを記録した。その後名刺サイズの赤色のカードに同じように名前と職業を書いて霊的パターンを記録した。

 これでカードを紛失した際は、書類を現地の冒険者ギルドに取り寄せてある程度の手数料を払うと再発行してもらえる。だが紛失した時が急を要する場合は転移魔法を使える魔道士が派遣されたりすることがあり、その時は膨大な手数料を支払わなければならない。

 僕は自分でもうっかりしていると思っているので、リナのアイテムボックスに仕舞って貰うつもりだ。

 そうして発行して貰った僕自身としては久しぶりに見るギルドカードが懐かしくて嬉しかった。

「ありがとうございました。エディスさん」
「ありがとうございました」
「仕事だからお礼は良いって」

 そしてアルディンさんにもお礼を言った後、アルディンさんとリナを連れてクエスト依頼が張り出されているクエストボードを見てみた。

「どうだ?ここの村のクエストは問題無く達成出来そうか?」
「そうですね。討伐クエストも大したことが無いようですし」
「・・・だろうなぁ。まぁいくらごり押しするからって一足飛びは無理だと思うから赤ランクのクエストも数回はやってもらうことになるだろうから、そこは覚悟しておけよ」
「最初からそのつもりでしたから問題ありませんよ」
「そうかい、それじゃ宿屋に戻るか。今は護衛任務中だからどうせクエストを受ける事も出来ないしな」
「そうですね」
「畏まりました」

 これで晴れて僕とリナは冒険者となった。今のところ最低ランクだけど。
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