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第2章

第21話 あ、それ良いですね

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 地上での生活を始めて1時間も経たずに自殺するのも嫌なので、川辺を探して移動し始めた。それから30分ほど歩いているけど未だ街道も川辺も見つかっていなかった。獣や魔物にも出会っていないことは幸いなことだったけど。

「意識し始めたら、のどが渇いてしょうがないや。水属性の魔法が使えたら良かったんだけど」
「ご主人様、のどが渇いていたのですか?私、水出せますよ?」

 え~、言ってよ。僕も水がないと気づいて、直ぐに川辺を探そうと言って歩き出したけどさ。聞いてみたら、リナは火水地風の四属性と光と闇の全ての属性魔法が使えるらしい。

 魔物を従える召喚魔法など属性魔法以外は使えないが、天女としての固有スキルとして天界通話やトゥルーサイト、不老不死のスキルを持っているそうだ。また武器の扱いなども、剣術・槍術・弓術・双剣術など一通り覚えているらしい。

 僕が貰ったスキルはチート過ぎるかなと思っていたけど、リナはそれに輪を掛けてチートを授かっていた。

「じゃあ、リナ。何か受け皿になるような物を見つけたら、そこに水を出してくれる?」
「畏まりました、お任せ下さい」

 少し歩くと竹のような植物を見つけたので、それを器にしようと思ったが次にこれをどう切断しようかと考えていたら、リナに何か悩み事ですかと聞かれ答えたら手刀でスパンスパン切断し始めた。

 僕が発狂したり自殺を希望してたら、あの竹のように真っ二つになっていたかもしれないのか。今更ながら怖くなってきた。竹を切ってくれた後、水の生成魔法で竹筒に水を注いで僕に渡してくれた。

「ありがとう。あ~美味しい、生き返る~!」

 受け取った水を一気に飲んで喉の渇きを潤したら、リナが竹筒におかわりを注いでくれた。

「リナは飲まないの?」
「では、頂きます」

 リナは僕の使っていた竹筒を受け取りごくごくと水を飲んだ。女性の首が反って喉仏が動くのって何だから色っぽい感じがするな。

「何か?」
「いや、何でも無いよ。水は解決出来たけど、それ以外はまだだからどうしたものかなって考えていただけ。あ、そうだ。リナ、竹筒の節を1カ所だけ指くらいの太さの穴を空けられたりする?」
「はい、水属性魔法の水流操作系で可能かと思います」

 出来ると言うことなので、リナに毎回水を出して貰うのも悪いので水筒を作ることにした。リナが切り落とした竹の中から水筒代わりに出来る物を2つ見つけてリナに穴を開けて貰った。

 レーザーカッターというかメスというか一瞬で穴が空いた。殺傷力が高すぎる。まぁ、それはそれとして竹筒水筒に水を入れて貰い、木の枝もカットして栓にした。あとで蔦などを見つけたら腰に取り付けよう。
 とりあえず今はリナのアイテムボックスに仕舞ってもらった。

「水は私が用意するとして、これからどうなさいますか?」
「とりあえずやっぱり水辺を探そう。そこから川を下って街道を探そうと思う。食料もリナなら魚を捕まえられるんじゃないかな?」
「私も初めて地上に降りたので実際に出来るかは分かりませんが、出来る限り頑張ります」
「ごめん、お願い。リナにばかり負担掛けるけど、よろしくね」
「お任せ下さい」

 一応何があるか分からないので、またリナに頼んで細めの竹を切って貰い竹槍にした。魔物や獣対策でもあるけど、今のステータスなら魚も銛みたいに竹槍で捕まえられるかなと思ったからだ。

 しかし、唯一の職業スキルが魔王なのに竹槍装備とかどうなんだろうか。まぁ、リナも「あ、それ良いですね」って言って同じように竹槍装備したメイドになってるけど。リナは属性魔法使えるし素手でも戦えるんだから竹槍要らないんじゃないかな。

 小一時間ほど歩いただろうか、リナが立ち止まり音を立てるなというジェスチャーをしてきた。リナが何を感じたのか僕も耳を澄ませ周りの音を拾う。森の木々の間を抜ける風の音とは違うガサガサという音が聞こえた。

 音を出来るだけ立てずにリナの反対側に移動して、どこから聞こえるのか耳を澄ませながら、今度は目視で確認するために草が風ではない揺れ方をしていないか目を凝らして探す。また枝葉からの音かもしれないので、木の上なども注意する。
 
「シャアアア!」

 真上から声がしてハッと上を向くと蛇が飛びかかってきていた。慌てて竹槍を穂先を上に向ける。

「やっ!」

 僕が構え直す前にリナが竹槍を真上に投げたのか、襲いかかってきた蛇の首根っこに竹槍が命中し串刺しにした。リナは蛇が刺さったまま落ちてきた竹槍を掴み取ると穂先を下に向けロングブーツのかかとで蛇の頭を踏みつけ竹槍から蛇を抜き取った。

 グチャっという音がしたが、蛇の胴体はウネウネ動いたままだった。生きているわけでは無く、反射で動いているんだろう。

「リナ、流石だね。助かったよ」
「恐れ入ります」

 一応その後も1・2分くらい注意深く周りを探知したけど、不自然な音や気配も無かったので恐らくもう大丈夫そうだった。蛇はもう完全に動かなくなっていて、リナは踏みつけたままだったかかとを蛇の頭から退かした。恐らく大丈夫だろうけど僕は注意深く蛇の様子を伺った。

「これはイバラドクヘビだね。毒持ちだから念のために、かかとと竹槍を解毒魔法で浄化しといたほうが良いかも」
「畏まりました」

 リナは光属性魔法を使って竹槍とかかとを浄化し始めた。僕は蛇を竹槍で完全に頭と胴体を切り離して胴体を掴んだ。

「胴体に毒は無いのですか?」
「あぁ、うん。無いよ。リナが綺麗に首に命中させたから胴体に毒も回ってないだろうし、食べられるよ」
「そうなのですか。覚えておきます」
「あれ?知らなかったのか。てっきり知っててそう処理したのかと思ってた」

 的確に首に命中させて毒蛇の頭を踏んづけ処理してたし。

「ある程度の地上の生物は知識として知っていますが、その生物のどこに毒があるのかもですが、食べられるのか素材になるのかなどは地上の者たち次第ですので、そこまでは把握していませんでした」
「あぁ、なるほど。それこそ開発室の人ならまだしも事務室やカジノには必要の無い知識だしね」
「はい、ですが今後はそうも言っていられないので覚えていきます」
「ありがとう、僕も知ってる事だったら教えるから頑張って」

 僕はリナに蛇の頭部を火属性魔法で焼くようにお願いしてから、蛇の胴体をアイテムボックスに仕舞って貰った。牙に含まれる毒にも使い道はあるけど、流石に袋などがない状態で無造作にアイテムボックスに仕舞うのは怖かったので破棄した。

 そしてまた川を目指して歩き出したが、10分足らずでまたリナが立ち止まるよう指示してきた。今度は何だろうと思ったら、どうやら水の流れる音が聞こえたらしく、リナの案内でとうとう川へ辿り着いた。

「リナは聴覚も凄いね。お世話になりっぱなしだ」
「恐れ入ります。風属性魔法を使って聴覚を強化してみました。初めて試してみたのですが、上手くいったようで何よりです」

 初めて試したという言葉が気になって聞いてみたら、天界で戦闘訓練などは行ったが流石にサバイバル系の訓練などは行ったことがないそうだ。

 天界での訓練は罪人の感情抑制の効果がもし無くなった場合や、とち狂った神が喧嘩を吹っ掛けてきた時用の為らしい。今のところ、この世界ではそういう事態にはなったことがないそうだけど、他の世界では過去あったそうなので戦闘訓練は欠かしていないらしい。
 
「リナが戦闘スキルは高いのにサバイバルに活かせてなかったのはそういうことか」
「面目次第もありません」
「いや、責めているわけじゃ無いよ。不思議に思っていただけで。それにリナなら直ぐにサバイバルの知識も覚えられるよ。・・・特にこのまま街道が見つからなかったら」
「そうかもしれませんね」

 まぁ、見つからなくてもここでリナと2人で生活出来ると思う。自分がヒモみたいな生活になりそうなので、それは避けたいから村や街へ行くけど。

「それにしても、結界魔法とまでは言わないけど防御魔法が使えたらシールドか防御膜くらい張ったんだけど」
「防御魔法を張ってどうなさるのですか?」
「全体を覆えば、さっきのヘビみたいに突然襲撃されても弾けるだろうからビクビクしなくていいなと」
「なるほど・・・」

 そう呟くとリナは光属性魔法を使って僕とリナを覆うように防御膜を展開した。

「出来ましたね。これでよろしいですか?」
「ああ、うん。出来たんだね・・・」

 そうだった。リナはサバイバルの知識がないから、戦闘以外への応用がまだ分からないんだった。どうせ暫くはリナに頼りっきりになるんだから、これは今のうちにある程度教えた方が良いかも知れない、僕はそう思い至った。
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