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第1章

第2話 お疲れ様でした

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 暖かい光に包まれながら意識が浮上してくる。パチリと目を開けると大理石で出来た天井が目に入った。ここは…?

「あ、目が覚めましたか?」

 声が聞こえた方に顔を向けると、バニーガールが居た。うさ耳に蝶ネクタイ、カフスにカラー、バニーコート、網タイツにハイヒールと正統派バニーさんが笑顔で顔を覗いてきた。

「お帰りなさい。そして、お疲れ様でした。マサト・カナエさん」

 にっこりと微笑みながらこちらを労うバニーさん。段々思い出してきた。僕は神雅刀《かなえ まさと》、このバニーさんは自分の担当のリナ・フレイヘドさんだ。そして自分はベッドに横になっていて、リナさんがお辞儀したものだから張り出した胸が近づいてきてドキドキする。少しベッドの反対側に移動した後身体を起こすことにした。

「お出迎えありがとうございます、リナさん」

 まだ少し力が入らないのでベッドに腰掛けながらリナさんに頭を軽く下げる。深く下げると頭がリナさんのハイレグ部分に行くからね、しょうがないよね。

「ふふ、前回は結構長い期間でしたので流石にすぐには調子が戻りませんか?」
「あー、うん。そうみたいです。まだ立ち上がれそうにないですし」
「それはそうでしょう。期間もそうですが、担当していたことがですからね」

 そう、さっきまで僕は魔王だった。人間に災いをもたらす人間の敵だ。こちらはこちらで何やかんやと色々ストーリーの果てに人間を恨み滅ぼそうとしていた。まぁ、最後はマルギットさんにボッコボコにされて死んだけど。
 そう、死んだ。なのに何故僕が存在しているのかと言えば、ここが所謂《いわゆる》天国とか地獄みたいなところだからだ。なので存在はしていても、まぁ、死んでるよね。魂だけみたいだし。

「まぁ、魔王なんてしてましたが最後はいつも通り良いところ無しでしたけどね」
「それはしかたないです。それこそが禊ぎですから」

 なんでも世界を神々が運営するにあたって、円滑に事を運ぶために人々がやりたがらない職業や、危険を伴う職業などを罪人が担当し、それぞれの職業に定められたノルマを達成したら罪数が減るというシステムが禊ぎだ。

 そして禊ぎのために担当した職業はノルマ達成するために最後の最後で運が悪くなることがある。これが単に人気の無い職業だったら普通に生涯を終えるだけで罪数が減るが、人々に迷惑が掛かる職業、例えば僕が担当した魔王とかは上手くいきすぎたら被害が拡大してしまうために理不尽な最後を迎えるようになっているそうだ。

「ですが魔王が自然発生する前に、マサトさんが魔王を担当してくださったお陰で被害を最小限に抑えることが出来ました。ありがとうございます」
「いえ、こちらも自分の罪を減らすためですから」

 僕は以前、別の世界で異世界召喚され、戦争で劣勢に追い込まれていた国に地球の現代科学を自分の知りうる知識レベルでその世界より強い武器などを提案したら、劣勢から連戦連勝になり攻め込んでいた国に勝って属国化してしまった。

 そこから更に軍が調子に乗って他の国に攻め込んで人手不足になり属国から徴兵した兵に僕が考案した武器を渡したら属国兵の一部が敵国に武器ごと亡命し、敵国も同じ武器を持って対抗して戦線は泥沼化した。

 更に軍上層部がもっと凄い武器をと請われ、一応拒否したんだけど脅されて国の科学者と共に銃もどきを作ったら、また連戦連勝になって、だけどまた奪われてと繰り返し最終的には世界全体を巻き込んだ大戦争になってしまった。

 何でこんなことにと嘆いていたらあっさりと暗殺された。そしたらその世界の神様にやり過ぎと怒られ、禊ぎを行ってから転生するようにと言いつけられて、この世界に転送されて今に至る。

 僕の罪は不用意に知識を与えすぎて戦争を拡大する原因を作った事だ。脅されたからとはいえ、自分も銃はやり過ぎたかなと思ったが、当時担当になったばかりのリナさん曰く、誰でも利用可能にしたことが間違いだったそうだ。
 今居る世界よりは弱いとはいえ魔法などの力もあったのだから、魔法を使って使用者を限定したり解析されないようリスク管理くらいはしなさいと忠告された。ごもっともだった。

「こほん、何はともあれ無事に完遂され人間は平和を享受し、また魔族の大半を事前に国内外へ逃がしたためそれほど深刻な事にはなっていません。記憶が無い状態なのにこれはベストの結果です。これで大幅に罪数も減ったことでしょう」
「それはよかったです。・・・みんな無事で本当に良かった」

 僕が前の世界の出来事を思い出して暗くなっていたせいか、リナさんが気を利かせて僕が倒された後の後日談を教えてくれた。

 こちらの世界の神様は別に人間だけではなく、魔族やその他の種族共通の神様らしく、今回も特に人間に肩入れしたというわけではなく自然に魔族側から魔王が誕生した場合、種族の存亡を賭けた全面戦争に発展する可能性があったため、やむなく神様側が用意した代理の魔王を押し出し両者痛み分けで済むようにしたかったらしい。

 なんでも神様自身の直接介入は御法度らしく、そこで罪人に魔族や人間に魔王などの職業を与え何とか被害を抑える事くらいしか出来ないとか。まぁ、神様が何でも自由に世界の運営をしてたら、そこには人々の自由意志とかは無いのだろう。

 またその職に就くにあたっては必ず前世などの記憶は持っていけず、転生の時は赤ん坊からだから当然だとしても、その職に適した年齢の召喚だと疑似的に人生経験を与えられる。

 いくら罪人とはいえ、ある意味人生を弄ぶような事なので、特典として罪数の消化が転生よりは多い。理不尽な最後を迎える職も特典が多く、さっさと罪数を減らしたい人には人気だそうだ。

「そういえば人間の勇者にも転生した人っていたんですか?」
「いえ、あの5人は普通に育った方々ですよ。討伐軍には転生や召喚された方が混ざっていましたが、何故ですか?」
「いくら理不尽な最後を迎えるといっても、マルギットさんとか飛び抜けて凄かったので。色んな意味で」
「ああ、なるほど。確かに色々凄かったですね」

 お互いマルギットさんを思い出し苦笑しながら、僕はやっと身体の力が入るのが分かった。試しにベッドから立ち上がり身体を捻ったりしてみたが、大丈夫そうだった。

「お待たせしました、リナさん。さぁ、行きましょうか」
「もう大丈夫ですか?それでしたらご案内させていただきます」

 部屋を仕切るカーテンをリナさんが開けてお互い部屋を出て広場に向かう。そこにはカウンターに沢山のカジノスロットが並び、カジノスロットに列を作る人達がいた。

ここが天界の職業斡旋所だ。
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