36 / 58
終わらない仕事と待ち合わせ side A
しおりを挟む「今日は仕事のあと婚約者とディナーなんです」
仕事中なのにセスさんから微笑ましいものを見る眼差しで「今日は何かあるの?」と聞かれた私はそうこたえた。赤茶色の髪のアントンさんも「よかったね」と笑っている。そんなに顔に出ていたかしら……。
王宮での仕事が始まって2ヶ月が過ぎた。まだまだ覚えることばかりだけど、働くことに少し慣れてきた。セスさんとアントンさんは既婚者でよく家族の話をしてるから、彼についても話しやすい。
「いつも会うのは休日なんですけど、今日は婚約してからちょうど3ヶ月なので、レストランで食事です」
「なら早めに上がったほうがいいかな?」
「いえ、着替える時間も考えても定時に帰れたら大丈夫です」
楽しみだねって笑いあってると、室長が部屋に戻ってきた。小さなメモを渡される。
「そこある家の資料を用意してくれ。王太子からの依頼だ」
室長、王太子殿下と会われてたのね。切れ者と名高い王太子の顔を思い浮かべる。そう言えば第三王子はどうしてるかしら……?
考えながらも続き部屋の資料室に向かい、メモにある家名の書かれた箱を探してせっせと運び出した。執務室の大机に十箱程重ねる。……これは初めての仕事かもしれないわ。
「ここにある家は密輸に関わってるの疑いがある。それぞれの家の繋がりを含めて、密輸密売に繋がりそうな情報をとにかく探して纏めろ」
……そんなこと私にできるのでしょうか?
セスさんとアントンさんは即座に動き出した。私もとにかく一番近くにある箱を開ける。
「ノーステリアは使用人のリストをあたれ。共通することや気づいたことを纏めればいい」
「わかりました」
室長が指示をくれたので、喜んで~とばかりに仕事に取りかかる。けど生まれながらの貴族ならともかく、使用人の背景を調べるのは複雑で、気がつけば昼ご飯を食べることもなく夕方になっていた。
「……あれ?今日はアリシアさん婚約者と約束してたよね。大丈夫?」
セスさんの言葉を聞いた室長が近づいてきた。
「そういうことは早く言え。もう上がっていいぞ」
「ありがとうございます。……けどまだ纏まっていないので……」
「わかっている所まで説明しろ」
「……各家の使用人に採用前に養子縁組をしている者が複数いました。その中で縁組前の姓が隣国由来の者を調べると、養子先がある商人の関係者ではないか、という予測までは辿り着いたのですが……」
私は目の前に散らかった資料をそのままに指を指しながら話す。予測はできるけど決定打が見つけられない……。室長はそれを考え事をするように聞いていたけど、小さく「そうか」と呟いた。
「よくやった、ノーステリア。今日のところは任せろ」
ニヤリと笑った室長に、そのままぽいっと廊下に出されてしまった。
「ひどい…………」
口ではそう言ったけど、耳には室長の「よくやった」という声が残っていて、じんわりと胸が熱くなった。
それから急いで髪やメイクを整えて、彼との約束の場所に向かった。服を着替えてる時間はないけど、それなりに上質な白のブラウスにレースのロングスカート。店のドレスコード的には問題ないはず。
待ち合わせ場所の広場で馬車を降りて、彼の姿を探す。噴水の近くに立つ彼を見つけ、小走りで近づいていくと、彼の周りにたくさんの女性達がいるのに気づいた。皆、華やかな服を着ていて大人っぽい。
私に気づいた彼がその輪から離れて近づいてきた。背後に見える女性と目があうと、面白くなさそうに睨まれた。
彼は側まで来ると、何も言わずに私の手をとって歩きだす。時間に遅れてしまったから怒らせた?歩いている彼の横顔に話しかける。
「ごめんなさい。遅れてしまって」
「……どうして僕が贈ったドレスを着てくれなかったの?」
「え?あ、ごめんなさい。そう思っていたのだけど、仕事が長引いて着替える時間がなくなってしまって……」
「そう……」
彼はその後は私を叱ったりはしなかったけど、ずっと不機嫌だった。楽しみにしてたのに……。私は泣きたくなる気持ちを隠して、必死に笑顔をつくった。
10
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
ピンク頭で男爵令嬢だからと言って勝手にお花畑ヒロインだと決めつけないで下さい
まゆら
恋愛
私は、王立学園に通い出したところの男爵令嬢アイラ。
同学年に王太子とその婚約者がいるらしいが、私は全く興味がない。
しかし、王太子の婚約者の取り巻きである高位貴族令嬢たちや学園は自由恋愛だと勘違いしている下位貴族令嬢から王太子には近づくなと釘を刺されたり、行動を監視される毎日である…というような王道展開は多分ないので安心して下さい。
私がピンク頭の男爵令嬢だからって、勝手に脳内お花畑の恋愛至上主義だと決めつけないで頂けますか?
私はおバカヒロインではないですし、転生してきた聖女でもないですから!!
どちらかと言えば、真実の愛に目覚めたのですとかいうバカ女は苦手なので、近づいてきたら排除します!
私は、父から任せられた商会を大きくする為に王都に来たのですから…
皆様は、もれなくうちの商会の顧客になって頂きますからね?
私…色恋よりもお金が大好きなんです!
恋愛には全く興味が無いアイラだが、いとこから溺愛されていたり、隣国の王子から求愛されたり…色々と周囲は騒がしいのだ。
アイラの魔力と魔法については、とりあえずチートなのであまり気にしないで下さい。
ご都合主義に物事が流れていきます。
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる