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新歓パーティーのドレス side A

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 ドレスを贈ってくれると言ったけど、新歓パーティーまで1か月もない。当然プレタポルテだと思ったら、採寸のために店に連れて行かれた。彼は事前にお針子を押さえていたそうだ。凄い……。

 希望を聞かれたので、動きやすくボリュームを抑えて、裏方らしく派手にならないものをお願いした。やる気に満ちたデザイナーを前に、少し申し訳ない気分になったけど、自信に満ちた笑みを返された。


 タウンハウスに戻り、自室で読書をしていた兄に、彼からドレスを贈られることを伝えると「そうか」と素っ気なく返された。
 一応、手紙で両親にも伝えたけど、「礼儀は守るように」と、要は頂いたらお礼をきちんとしなさいよと返事が来た。
 あれ?みんな案外興味ないのかしら……?
 メイドのマリだけが、いつも私の話を興味津々に聞いてくれる。


 3年生になった。いよいよ王宮事務官になるための勝負の年だ。気を抜かずに今まで通りコツコツやろう。天の助けセス様もそれでいいと言ってくれたし。

 新歓パーティー当日。私は彼から贈られたドレス姿だ。ボリュームを抑えたAライン。胸元が青く、裾に向かって白のグラデーションになっていて、金の刺繍が所々施されている。受け取ったときは驚きの声をあげてしまった。これは、彼の気持ちと取っていいのよね……?

「一年前よりも派手だな」

 エイデンは私を見るなり言った。
 確かにグラデーションの生地は珍しく、染色が得意な隣国のもののはず。彼のお母様の出身国だから伝手があるのかもしれない。

「私のことは誰も気にしないわ。だってほら、国で最も華やかな方々がいるもの」

 視線をホールに向けると、第三王子と公爵令嬢が並んで立っていた。存在が貴い。そんな貴いものを見てもエイデンの眉間のシワは深くなる。

「まあな。まぁ、今日も頼む」

 軽く手を降って離れていった。

 会場で表舞台に立つのは第三王子と公爵令嬢。おふたりは場馴れしているし心配ない。
 エイデンは警備に加えて、今年は進行も見ることになっている。騎士団長子息も警備に加わる予定だけど、「当てにならないだろ」とあっさり言い放ってた。
 私は前回に続いて、入場者数と飲食物などを管理する。宰相家子息も担当することになっているけど、……当てにしない方がいいのだろう。

 3年生のふたりだけが大変なのではと不安になるところだけど、今回はセス様が全体を補佐してくださる!心強い。
 前回はたくさん動いて、走り出したい気分だったと言ったら、「まずは人の流れを見て、何が起こってるかを見極めてから動くことだ」と教えてくれた。頑張ります。


 開場し、入場してくる中に友人達を見つけては短く声を掛ける。友人達は私の姿を見ると、皆、生暖かい目になり「後でね」と言って去っていった。

 彼が現れた。私を見るや否やキラッキラの笑顔で足早に近づいてきた。彼のタキシードのポケットにはドレスと同じ色のチーフが覗いている。

「よかった!着てくれたんだね。凄く似合うよ。綺麗だ」

「ありがとう」

 一応、生徒会としての仕事中だから控えめに応える。彼は満足そうに「頑張ってね」と会場に入っていった。

 その場に残された私は少しだけ居た堪れない気持ちになった。

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