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19.もしかしてエイデン様って……

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 そうこうしているうちに冬休みも終わりに近づき、王都に戻る日になった。今回もエイデン様の馬車にご一緒させてもらう。

 少し気不味いわ……。

 プロポーズの小箱を突き返してしまったし、気を悪くしてはいないかと不安になったけど、エイデン様はいつも通りだった。ホッとしながらココと一緒に乗り込む。

 ギクシャクしてしまうかと思っていた道中なのに気がつけば楽しくお喋りしていた。エイデン様ってば聞き上手なんだから。王都でお出掛けする約束もできたわ。




 エイデン様とココと別れて学園の寮に入ると、廊下でアンナに会えた。嬉しくてぎゅっと抱きつく。アンナは私を抱きとめながらお祝いの言葉をくれた。

「婚約おめでとう。本当に良かったわね」

「…………ありがとう」

 私の歯切れの悪い返しに首を傾げる。

「今はエイデン様と勝負中なの」

 口を尖らせ婚約式の話をすると、アンナがプッと息を吹いた。私にとっては重大なことなのよ!大概のことは私の方が慮って済ませてしまうけど、プロポーズだけはちゃんとしてほしい。

「そう。勝てるといいわね。とにかくおめでとう。幸せそうで嬉しいわ」

 幸せそう、に見えてるのかしら?プロポーズはおあずけ状態だけど、私はエイデン様の婚約者なのよね。祝われるとやっぱり嬉しい。これからますます頑張らないと!そんな私を見てアンナは「頑張って」と笑ってくれた。




 エイデン様と約束した王都デートの日。少し肌寒いけど晴れた空が気持ちがいいわ。

 黒のリボンの付いた白いコート姿で寮を出ると、黒いコート姿のエイデン様がいた。ベージュのマフラーで口元が隠れている。
 エイデン様って寒いの苦手よね。なんか可愛いわ。小走りで近づいて手をとった。

「今日は何処に行きましょうか?」

「お前が行きたがっていたカフェに席が取れた」

「覚えていてくれたんですか!?嬉しいです!」

 笑顔で言えば、エイデン様の黒い瞳が少し優しく細められる。素敵。そのままエスコートされて馬車に乗り込んだ。


 レモンイエローと白を基調とした可愛らしい外観のカフェの前に立つ。隣のエイデン様を見ると、前髪をビシッと上げている。凛々しくて素敵だけど……。
 そっと前髪に手を伸ばす。

「……なんだ?」

 軽く避けながら眉間にシワを寄せられた。

「少し崩した方がお店の雰囲気にあうと思うんです」

「……そうか」

 エイデン様は指先で髪を少し乱暴に崩した。躊躇がないわ。これでいいか、とばかりに私を見たのでにっこりと笑う。エイデン様って前髪をおろすと少し幼くなるのよね。可愛い。


 店に入るとすぐに窓際の席に通された。店内も可愛らしくて明るい雰囲気ね。
 白いテーブルに向かいあって座るエイデン様を眺める。ベビーピンクの壁を背にしたシックな雰囲気のエイデン様。……なんだか迷い込んでしまったみたい。

「流行りのケーキセットでいいな」

 自分が場に馴染んでないことは意に介すこともなく落ち着いた口調で言うと、店の従業員に目配せした。

 間もなくしてワゴンが運ばれてくる。

「わぁ……」

 最近王都では、趣向を凝らしたケーキスタンドにたくさんの小さなケーキを立体的に飾るのが流行っている。いっぺんに色々食べられるし、何より見ていて楽しい。

 この店では、50センチ程の高さの丸い鳥籠のようなケーキスタンドだった。シルバーの支柱にたくさんの小さなトレーがついていて、それぞれ美味しそうなケーキが乗せられている。
 元々ここのチーズケーキの評判を聞いてたから来てみたかったのよね。

 すぐに食べるなんてなんだか勿体ないわ。どうしよう。どれから食べよう。

 私が目移りしていると、ケーキの向こうのエイデン様と目があった。少し照れてしまう。

「どれもとっても美味しそうですね」

「好きなように食べればいい」

「はいっ」

 私は意気揚々とケーキに視線を戻す。どれにしようかしら~。ひとつひとつケーキを確かめるように見ていくと…………、ん?何処かで見た記憶のある物を見つけた。

「……あら?」

 思ったより低い声が出た。視界の端にあるエイデン様がピクリと反応する。

 私はそれを指先で摘んで取り、あえて手元の皿の上にのせる。青紫の小箱。カトラリーで差したらどうなるかしら……?

 ちらりとエイデン様を見ると、眉間にシワを寄せてこちらをじっと見ていた。……とてもプロポーズ中の顔には見えないわ。エイデン様もピンときてなかったみたいね。

「……却下です」

「そうか…………」

 皿をそっと差し出せば、エイデン様は小箱を取ってジャケットのポケットに静かに仕舞った。少し間をおいてから目を合わせずに口を開く。

「……楽しんでくれ」

 …………エイデン様って……。私は喉元まででた言葉を飲み込んだ。




 数日後、ウェスティン伯爵家のタウンハウスに再びお呼ばれした。今日は思いきって黒のドレスを着ている。黒と言っても、白いリボンやフリルがあしらわれた可愛らしいデザインだ。

 馬車をおりるとココが出迎えてくれた。薄茶のふわふわの毛並みを揺らしてかけてきたココは、目の前で行儀よくおすわりした。

「ココ、迎えに来てくれてありがとう」

 屈んで撫でると、嬉しそうに尻尾を揺らす。今日も元気そうだわ。よかった。

「あら?」

 ココの首に黒のベルトの他に小さな袋がぶら下がっているのに気づいた。
 嫌な予感がするわ……。そっと紐を解いて首から外し、袋の中を覗いてみる。案の定、青紫の小箱が入っていた。

 …………はぁ。エイデン様って…………。

「ココ、エイデン様の所へ連れていって」



 ココについてサンルームに入ると、エイデン様が座って本を読んでいた。こちらに気づいたので、手のひらに青紫の小箱を乗せてにっこりと微笑む。

「ココが届けてくれましたわ」

 私の表情を見てエイデン様の眉間にシワが寄る。

「……駄目だったか?」

「そうですね。上手くいくと思ったんですか?」

 さすがに少し強気に出てしまうとエイデン様が珍しく視線を彷徨わせた。

「……好きなものと合わせるのがいいかと思ったんだ」

「もしかして誰かに相談したんですか?」

「……イアン兄上にした」

 一番ダメじゃない。たくさんいるなかで何故乙女心の欠片もわかってなさそうなイアン様を選ぶのか。


 もしかしなくても、やっぱりエイデン様って、



 ぽんこつだわ…………。



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