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6.ついに王都へ!
しおりを挟む私の人生で一番長く寂しい一年が過ぎ、ついに私も王立学園へ入学する年がきた。エイデン様のいる王都へ行ける。これから押して押して押しまくってやるんだわ!
春休みに帰省してきたエイデン様と一緒に王都へ行けるかしら、と密かに期待していたのに、エイデン様は帰ってこなかった。学年首席のエイデン様は生徒会役員に選出され、そのため多忙なのだそうだ。
流石エイデン様だわ!と思うと同時に少しだけ不安になる。立派になっていくエイデン様に私は釣り合うのかしら……?
そんな不安を晴らすようにエイデン様から手紙が届いた。「ココと離れたくないなら、うちのタウンハウスで預かってもいい」と書いてあった。
「!」
私は学園の寮に入るのでココと離れることを覚悟していた。けど、エイデン様とイアン様、ヘンリー様がいるウェスティン伯爵家のタウンハウスなら安心だし、ココも寂しくない。何より私も遊びに行く口実ができるわ!エイデン様大好き!!!
入寮する日にココを連れて、伯爵家のタウンハウスに向かった。
「よく来たな」
到着するとエイデン様がすぐに出迎えてくれた。半年ぶりだけど、少し背が伸びて雰囲気もますます落ち着いたみたい。ここは素晴らしい淑女であることをアピールしないといけないわ。
「ご無沙汰しております、エイデン様。この度はお心遣いいただきありがとうございます」
エイデン様は黒い瞳を細めて少しだけ微笑んだ。素敵。
「気にしなくていい。イアン兄上も楽しみに待っている」
そう言って踵を返し歩きだした。私はその後を浮かれた足どりでついて行く。イアン様もってことは、エイデン様も楽しみにしてくれてたのね。嬉しい。
案内された先のサンルームからは芝生の庭が見えた。本邸ほどではないけどココが走り回れるくらい広い。
それまで大人しくしていたココが、落ち着かなく尻尾を振り始める。間もなくして庭に続く扉が開いて、イアン様が入ってきた。
「おっ、漸く来たか。疲れてないか?」
短く整えられた赤い髪のイアン様が快活に笑う。全体的に大きくなって、エイデン様の倍くらいに見えるわ。
「ご無沙汰しておりま……」
「ワン!」
私の言葉を遮るようにココがイアン様に飛びついた。普段はこんなことはしないけど、待ちきれなかったのね……。
「おおっ、久しぶりだな、ココ。これからよろしくな」
イアン様も後ろ足立ちになっているココを抱えるようにして、嬉しそうに首の後ろを撫でている。相思相愛だわ。何だか羨ましい。私もエイデン様に飛びついてしまえばよかったかしら……。
「やめてくれ……」
エイデン様の呟く声で我に返った。口に出してたかしら。
「つい願望を口にしてしまいましたわ」
私がにっこり笑うとエイデン様は眉間にシワを寄せた。
そうよね、家族の前で私が抱きついたりしたらきっと恥ずかしがってしまうわ。ふたりきりの時を狙わないと。
そんなことを考えていると、エイデン様の眉間のシワが深くなったので、大丈夫ですよ、という気持ちを込めてもう一度微笑んだ。
それからしばらくの間、庭で走り回っているココとイアン様を眺めていた。普段はお行儀のいい子なのに今は子犬のようにはしゃいでいる。……ココはきっと大丈夫そうね。
私はこれからひとりで馬車に乗り、寮に向かわなくてはいけない。初めて家族と離れることを実感してきた。
「きっとしばらくはココも寂しがると思う。気が紛れるよう気遣ってやるつもりだが、お前も暇があれば会いに来てやるといい。いつ来てもらっても構わない」
隣りにいるエイデン様が言ってくれた。私のことも寂しくならないようにかまって欲しい。……けど、理由もわからずに置いていかれてしまうココの方が寂しいはずだわ。
「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
「任せておけ」
エイデン様はふんわりと頭を撫でてくれた。無表情に見えるけど、その目はとても優しい。好き。
「あの、学園の新歓パーティーのエスコートをお願いできますか?」
「俺は生徒会役員として会場の警備をしないといけないから無理だな」
私の決死のお願いはこの上なくあっさり断られた。仕方ないけど。新歓パーティーはエスコート無しで来る方も多いと聞くから別にいいもの。
その後伯爵家の皆様に挨拶をしてからひとりで馬車に乗ると、何故か広く寒く感じた。急に不安になって少しだけ泣いてしまう。寮に着くまでには元気にならなくてはいけないと思うのに、めそめそと涙を止められなかった。
はじまりはそんなだったけど、入学式までの数日の間は、寮の部屋を整えながら新しい友人も作り、想像したより賑やかなものになった。
エイデン様が馬車を用意してくれたので毎日ココに会いに行くことができたし、お陰で今はココも私も落ち着いている。やっぱりエイデン様は優しいわ。
あずけた次の日は、馬車から降りた途端、屋敷から飛び出してきたココに飛び掛かられた。転がりそうになったところエイデン様に支えられて事なきを得たけど、顔中舐められてボロボロになってしまった。
エイデン様はすぐに整えるようにメイドを呼んでくれたのに、イアン様は私を見て腹を抱えて笑っていた。……本当にそういうところがイヤ。
けど私も寂しかったよ、ココ。これから王都生活頑張ろうね。
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