上 下
2 / 11

2話 噂

しおりを挟む
暗い夜道を、1人で歩いていた。
両親からの嫌がらせなのか、馬車が用意されておらず、片道1時間の距離を歩く。
歩き始めて、5分ほど経っただろうか。
馬車の音が聞こえたかと思うと、後ろから突然声をかけられた。


「こんばんは。」

「誰!?」

「そう警戒しないでくれ。私はルアという。君の名前は?」

「私はサリーエと……申します。」

「何故暗い夜道を、1人で歩いているんだい?それに、酷い顔色だよ。」

「……っ…。」

「ああ、ちょっと、サリーエさん!?…仕方ない、パーティー会場へは行かず、このまま引き返す。」

「で、ですが…。」

「体調が優れない為、行けなくなったと伝えておけばいい。私はサリーエを連れて戻る。」

「しょ……承知致しました。」


私は気が抜けてしまった。
そこからどうなったのか、覚えていない。
しかし、目が覚めた時には見知らぬ場所にいた。
窓から見えるのは、王都だった。


「ん……うぅん?」

「目が覚めたのかい!?良かった……いきなり倒れるから驚いたよ…。」

「貴方は……ルア様?ここ…は……?」

「ここは王城だよ。」

「え、お…王城!?どうして!?」

「まぁまぁ落ち着いて。それよりも、私は君の事が聞きたい。あの時の君は、絶望の淵にいるような顔をしていた。放っておいたら、自殺するんじゃないかと思うほどに。」

「……。」

「何があったんだい?パーティー会場で。」

「私は…大公爵家のご子息、ガイディアス様の婚約者でした。」

「でした…?」

「あのパーティー会場で、婚約破棄を告げられたのです……。」

「なっ……。公の場でか?」

「……はい。」


私はルアと名乗る同い年くらいの少年に、パーティー会場での事を伝えた。
とても驚いていたが、悲しそうな表情になる。
ルアは、私に対して本当の意味での同情をしてくれた。


「妹に…奪われたのか……。ねぇ、サリーエ。君は婚約者以外にも、妹に何か奪われた事があるんじゃないか?例えば…宝石類とか。」

「っ!何故それを……。」

「実は、12歳から3年間通う学園で、君を見かけた事があってね。その時大切そうに身に付けていた首飾りが、気付くとシファナって子も付けていた。そしてその子が身に付けだした時と同じくして、君が首飾りを付けなくなった。」

「……。」

「おかしいと思ってね。そしてそのシファナって子が君の妹という事が分かり、何となく察したんだよ。」

「その首飾りは……私が友人から貰った物なのです…。でも、シファナに……っ…。」


ルアは隣に座り、抱いてくれた。
その温もりに、何故か込み上げてくるものがあった。
気付くと声を上げて泣いていた。


「我慢しないで。気が済むまで泣くといいよ。」


数分の間、私は泣き続けた。
今まで我慢していた気持ちが、自分でも驚くほどに、溢れ出してしまった。


「お見苦しいところをお見せしました…申し訳ありません。」

「構わないよ。…サリーエ。今でも、家に帰りたいか?」


少し落ち着いてきた私を見て、ルアが問う。
その問いに、私は頭を振った。


「分かった。どうにかしてあげるよ。」

「え…?」


その後、私は数日間、王城で暮らした。
と言っても、部屋から一度も出たことは無かったのだが。
ルアは私の今までの話を全て聞いてくれた。
その他の宝石類や、衣服を奪われた事も。
ルアの前だけ、何故か本音で話すことが出来た。

そして今日、気になる噂を私の部屋に出入りしていたメイドが言った。


「サリーエ様。とある貴族の噂、お聞きしましたか?」

「聞いていませんわね…。どのような内容なのですか?」

「『姉を放置し、妹ばかりを着飾らせていた貴族がいる』というものです。さらには、妹は姉のものを全て奪っていたとか。所詮は噂ですがね。」

「……。」

「最低な親ですよね…。」

「ええ……本当に…。」


紛れもなく、私やシファナの噂だったのだ。
メイドは私の事をルアが連れてきた客人としか知らない。
有名でもない為、家名を言わなければ貴族だと気付かれないのだ。


(一体何が起こっているのでしょう……。)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

【完結】私を虐げた継母と義妹のために、素敵なドレスにして差し上げました

紫崎 藍華
恋愛
キャロラインは継母のバーバラと義妹のドーラから虐げられ使用人のように働かされていた。 王宮で舞踏会が開催されることになってもキャロラインにはドレスもなく参加できるはずもない。 しかも人手不足から舞踏会ではメイドとして働くことになり、ドーラはそれを嘲笑った。 そして舞踏会は始まった。 キャロラインは仕返しのチャンスを逃さない。

婚約者はメイドにご執心、婚約破棄して私を家から追い出したいそうです。

coco
恋愛
「婚約破棄だ、この家を出て行け!」 私の婚約者は、メイドにご執心だ。 どうやらこの2人は、特別な関係にあるらしい。 2人が結ばれる為には、私が邪魔なのね…。 でもそうは言うけど、この家はすでに私の物よ? あなたは何も知らないみたいだから、教えてあげる事にします─。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...