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実力者でも関係ない

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「お父様。」

「戻ったか。入って良いぞ。」

「失礼します。」


書斎の前に転移し、許可を取る。
部屋に直接移動しては、失礼にあたるからだ。


「エフェン様とお会いし、直接お聞きしました。今から話す内容は、国王陛下にもご報告下さいますようお願いします。」

「国王陛下にもか?」

「はい。」

「分かった……話してくれ。」


私はエフェンから聞いた事をそのまま伝えた。
学園に紛れ込んでいるのは、東側の隣国、コールシヤ帝国の諜報員スパイの者だと。
そしてその者達の特徴や現れる時間など全て。
父はそれらを紙に書き、直ぐにでも報告に向かうと言って王城へと向かって行った。
私は母と共に父を見送り、邸内へ戻ろうとしたのだが……。


「リフィ姉さん!」

「エ、エーリ。どうしたの?」

「邸からかなり遠くまで魔力感知出来るようになったんだけど、変な反応があるんだ!」

「変な反応?」

「うん……。何故か分からないけど、反応が消えたり出てきたりするんだ。しかも、魔力が薄くて感じ取ることも難しくて…。姉さんなら分かるかなって。」

「ちょっと待ってね。」


私は魔力感知を集中して行う。
普段から感知するようにしているのだが、巨大な気配などの危険が及ぶ可能性がある場合にのみ、魔力感知が反応するようにしてある。
集中すると、確かに魔力が消える……というより、薄くなったり濃くなったりしながら動き回る反応があった。
今度は生命探知を発動した。
その結果は……


「これは……人が近づいて来ている…。」

「人…!?」

「誰なの?!」

「落ち着いて、エーリ。お母様も。」

「え、ええ。ごめんなさい、驚いてしまったわ。」

「僕も…。」

「エーリ、そしてお母様も、邸に戻っていて下さい。」

「でも…。」

「お願いします、お母様。」

「子を守るのが親の務めよ。貴女の今の顔は、対人する時の顔です。ならば私も共に戦うわ。」

「お母様の意思は分かりました……ですが今回は首を縦に振ることは出来ません。あまり言いたくはありませんが、『賢華』ヴァリフィアとしてお願いします。どうか邸内に戻って下さい。エイリジュを連れて。」

「待って姉さん!僕も……僕も強くなったんだ。足でまといにはならないから、一緒に戦わせて!」

「ごめんなさい、エーリ。先も言った通り、今回は首を縦に振ることは出来ないわ。貴方にはまだ早い事なの。だから我慢して、ね?」

「……分かったよ…。」

「ありがとう。良い子ね、エーリ。」

「絶対、負けちゃだめだからね!」

「勿論。では、入っていてください。」


2人が邸内に入ったことを確認し、侯爵家全体を結界にて覆う。
外から入れず、内からも出られない。
魔法すらも通さない、私の中で最高の結界だ。
エーリが私の元まで来ようとするのを阻止する為だ。
私は近づいて来る者の進行方向に立った。
その者は驚いて立ち止まった。
黒いフードを深く被った暗殺者のような格好をしている。


「何者ですか?」

「まさか、自ら来てくれるとは。手間が省けるというもの。」

「?」

「単刀直入に言う。『賢華』ヴァリフィアよ、我と共に来い。そなたはこの国に肩入れする理由などあるまい。」

「何故私を引き入れようとするのです?」

「こちらにも事情があってな。仲間になるというのならば話すが、そうでないのならばそなたを殺さなければならない。」

「ならば私は後者を選びます。違うのは、貴方が私に負けるということ。」

「我が負けると?」

「ええ。」

「我との実力差すら見抜けぬ者が、何を言う。」

「それはこちらの台詞です。私は既に貴方の実力を知っていますよ。ねぇ、コールシヤ帝国、皇帝陛下直属騎士団副団長様?学園に侵入していたのも貴方でしょう。」

「……。」

「貴方は帝国内2位の実力者ですね。1位は団長ということになるのでしょう。ですが私にとっては関係のないことです。」

「全て知っている……か。そうだったな。『情報屋』と呼ばれるエフェン・アーリグェーと友人なのだったな。だが、知っているからこそ危険だ。そなたを殺し、エフェンも仲間にならぬのなら殺しておくとしよう。覚悟せよ。」

「全力で抵抗させていただきます。貴方の方こそ覚悟しなさい。」


私は瞬間移動にて、侯爵家の敷地外へと転移する。
勿論、帝国の副団長も共に転移させている。
睨み合い、戦闘が開始された……。
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