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お迎えが来てしまいました…

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朝から屋敷内が騒然としていた。
理由は簡単だ。
私が王城へ行くからである。
迎えの馬車が来るようで、時間は11時頃の予定だ。
起きたのは8時だったが、朝食を摂り9時頃からは用意が始まった。


(貴族は面倒なんだよね。派閥のしがらみとかその他諸々。まぁ今回は私が王城に行くのだから、慌てるのは当然だけど。)


いつもは侍女のイルナだけが着替えなどの世話をしてくれるのだが、今日は他のメイド達も手伝ってくれている。
母フィリアも近くで指示を出しながら見ている。


「ニティー!もっと髪はこう……そう、それでいいわ。」


フィリアは使用人全員の顔と名前を覚えている。
貴族にしては珍しい事だ。

使用人の多くは、ラーノンス侯爵領内でフィリアが連れて来た、平民の中でも貧しい者達だ。
自身が平民の振りをして、こっそりと屋敷へ連れて来ていた。
少しでも救える命があるのなら、というフィリアの願いからだった。

貴族はプライドが高い為、平民などがなってる使用人の名前など、いちいち覚えたりしない。
覚えているのは傍付きの侍女の名前くらいが普通だ。

しかし、フィリアとガルリジュ、更には私も使用人達の事を覚えている。
故にこの屋敷の使用人達は、心から尽くしてくれる。


『侯爵様と奥様、そしてお嬢様までもが、平民の我々の事を覚えて下さっています。使用人として、これ以上の喜びはありませんよ。
私達はこの屋敷で働く事が出来るだけで、幸運であり幸せなのです。屋敷へ迎えて頂いた恩は、一生かけて皆様にお返し致します。』


これは以前イルナが言った言葉だ。
何か普段の礼がしたいと言うと、恩返しなのだと諭された。
テキパキと動くメイド達を眺めながら、過去の事を思い出していた。

着替えを終え、1階へ降りていくと父が待っていた。


「いつも綺麗だが、今日はより麗しいな。」

「ありがとうございます。」

「フィリアも張り切っているな。」

「当然ですよ。愛娘が王城へ行くのですから。」


そうして、11時過ぎ。
王城から遣いの馬車が来た。


「侯爵令嬢ヴァリフィア様。第2王子ディルジア殿下の命により、お迎えに上がりました。」

「御苦労様です。」

「こちらへどうぞ。」


私はゆっくりと馬車へ乗る。
両親は笑顔で見送ってくれた。


「行ってらっしゃい、リフィ。」

「失礼がないようにするのよ。」

「はい。お父様、お母様、行って参ります。」


馬車に揺られ、1時間後に王城へと着いたのだった。
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