上 下
31 / 46

第30話

しおりを挟む
国王陛下の書斎に入ると、目の前には陛下とお義父様が居た。
威圧感があって、物々しい雰囲気だ。お義父様は微笑んでいるが、それが逆に圧を感じてしまう…。


「よく来てくれたな、レイシア。」
「お久しぶりにございます、陛下。」
「あまり時間は無いので、早速だが本題に入るとしよう。」
「はい。」


何から聞かれるのか…、今回は陛下がお相手だ。一時たりとも気は抜けないと、私は身構えた。


「分かっているとは思うが、2つの事を聞きたくて呼んだ。先ずはそなたがゼム……ルーズフィルト公の養子となっている件だ。余は先程知ったばかりだが、これは本当か?」


やはり先にこちらを聞いてきた。
誘拐の件については、私が平民か貴族かで大きく事が変わってくるからだろう。


「はい。間違いありません。私はユシェナート侯爵家を追放された後、ルーズフィルト公爵様の養子となりました。」
「そうか…。事情はルーズフィルト公から聞いた。余に知らせなかったのも、余が気を遣わないようにという配慮だったのだな…。感謝と同時に、婚約破棄の件、改めて謝罪する。迷惑をかけた…。」


養子となっているという報告をしなかった事について、お義父様は上手く説明していたようだ。この辺りは何も聞いていなかったが、話を合わせる方が良いだろう。
ちらっとお義父様を見ると、ゆっくりと頷いていた。


「お気になさらないでください。私への噂が落ち着くまでは社交界に出るつもりはありませんでしたし、陛下は常にご多忙の身。養子となった事実を知らせるには、陛下のお仕事が落ち着いた頃が良いと話し合いましたので…。私の方こそ、お伝えするのが遅くなり申し訳ありません……。」
「それにつきましては私からも、改めて謝罪させていただきます。」


私が頭を下げたと同時に、お義父様も陛下の前に出て頭を下げる。
それに対し、慌てて顔を上げるようにと仰せられた陛下。心優しく、そして威厳もある。何より常識的で賢く、完璧な王様だとその態度が表していた。
そして養子の話はこれで終わり、陛下は次の質問を聞いてきた。


「正直に言うとこちらが本題だ。ヴィアルスと侯爵家のミフェラについて聞きたい。昨日報告書は見たが、当事者に聞くのが最も良いだろうと思ってな。」
「はい。」


私は事の全容を陛下に話した。無理矢理連れ去られたところから、2人が話していた会話も全て。私の知りうる限りの情報、事実をありのまま伝えた。
勿論、計画のことは何も話していないし触れてすらいない。
陛下もまだ私達の計画に気付いていない様子だ。演技という可能性もあるが、今のところは馬鹿息子がやらかしたという程度の解釈だろう。
そうなるよう仕向けてきたが、上手くいっているようで何よりだ。


「はぁ……。これまではヴィアルスの行いについて、目を瞑ることもあった…。しかし今回は到底見過ごせん。何よりここまで事実が噂となり広がってしまったのだ…、何も無しでは民達が疑問に思うだろう。」
「…それに罰から逃れる為、王城から抜け出したのも事実です。既に使用人達は知っているので、箝口令を敷いても無意味でしょう。」


私から見れば、お義父様のこの言葉はさらに王国内に広まるようにしようという意図があるとしか思えない。だが陛下も頷かれている通り、納得も出来る。


「今回の件、婚約破棄と重ねて謝罪しよう…。」
「陛下に非はございません。どうかお気になされずに…。」
「だが何もしないのでは私の気が休まらないのでな。後日、詫びの品を送ろう。」
「お、お言葉だけで構いませんからっ…!」
「そ、そうか?」
「陛下。レイシアがこう言っていますので…。」
「わ…分かった。感謝する。」


謝罪の品を送られる方が気を遣ってしまう…。ヴィアルスが悪いのは事実だが、それは私が誘導したからでもある。故にこちらの方こそ申し訳なくなるのだ…。

陛下はこの後、ヴィアルスをただ罰するだけでは民が納得しないだろうと仰った。少なくとも王太子の位は廃するとのこと。
この時点をもって、私達の目的は達成された。
ヴィアルスは地下牢に入れられ、王太子の位を失う。ミフェラは地下牢に入れられているだけだが、評価は今まで以上に下がるだろう。最悪、侯爵令嬢の地位を剥奪される。
それに伴いユシェナート侯爵と侯爵夫人も信用を失い、ミフェラが地位剥奪を受ければ跡取りが居なくなる。そうなれば侯爵家は潰えることとなるのだ。
その場合はユシェナート侯爵家の無実の使用人達を、私の手引きで上手く働ける場所を用意しようと思う。

(今思えば謝罪だらけだった)話が終わり、書斎を退室した私はとある場所に向かった──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!

志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」 私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。 見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。 マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!! 思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。 ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。 内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

処理中です...