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第10話
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《時は戻り──》
王城からユシェナート侯爵家に帰ってきた私は、着いたと同時にメアに命令をした。
まだミフェラとお父様、お母様の3人が帰って来ていない内に済ませたいことがあったのだ。
「メア、今すぐ侯爵家を出ていく準備をして頂戴。荷物は裏口の馬車に積むように。」
「畏まりました。」
「服や宝石はあまり身に付けたことがない物で良いわ。ある程度残しておかないと怪しまれるから。使用人達への口止めは私がしておくわ。」
「お願いします。」
「ええ。あとはお世話になったお礼を言いに行くくらいね。」
「承知致しました。」
メアが準備を進めている間、私は今までお世話になった使用人達に感謝を伝えに行った。
彼らは何故今なのかという表情を隠せずにいたが、事情を話すと納得してくれたと同時に同情してくれていた。なのでメアが現在行っていることに関しての口止めもスムーズに出来た。お父様に告げ口をしそうな人であれば、金銭を渡して話さないようにときつく言っておいた。
1時間もしない内に準備は整い、あとは3人の帰りを待つだけとなる。
「レイシア様、侯爵様方がお帰りになられました。」
「分かったわ。」
私はあえて侯爵家のエントランスホールを横切った。
すると思惑通り、侯爵が叫んだ。
「何故貴様がまだここにいるッ!」
「…侯爵様、お帰りになられたのですね。」
「そんなことはどうでもいい!今すぐ侯爵家から出て行け!」
私は笑みを浮かべそうになるが、ポーカーフェイスをしなければと心を落ち着かせる。
階段を降りていき、侯爵の前に立った。
「今すぐ…ですか……?」
「そうだ!貴様を家に置いていたのは、王太子殿下の婚約者だったからだ。だが婚約破棄された貴様に用はない!侯爵家の恥さらしでしかないのだ。即刻出ていけ!」
「分かりました…。」
「ああ、少し待て。」
「?」
侯爵はそう言うと、何かを取りに書斎へと向かった。数分後、2枚の紙を持って帰ってきた。
「これにサインしろ。」
「2枚にですか?」
「私のサインは既にしてきた。1枚は貴様の分だ。王国の法律を無視するわけにはいかないからな。」
こういう時だけはしっかりしている。おそらく王国の法律を調べ直したのだろう。
紙に書かれていたのは、これにサインをした人は侯爵家の者ではなくなるという内容だった。証人として侯爵の名が書かれ、追放される側に私の名前を書いた。
婚約破棄をされればこうなると分かっていたので、私は侯爵家を出る準備をしていたのだ。使用人への挨拶もこういう意味である。
「これで貴様は侯爵家の者では無くなった。さっさと出て行け!」
「はい。」
私は不敵な笑みを浮かべて侯爵家を出た。誰にも見られていないことを確認してから裏口の方へと行き、待たせていた馬車へと乗り込む。
「お待たせしてしまいましたね。」
「いえいえ、お気になさらず。レイシア様を責任を持ってお連れしろとの、我が主様からのご命令ですから。」
私はメアと共に馬車に乗り込む。荷台には先程積むようにと命令しておいた衣類などがあった。
そう、ユシェナート侯爵家を追放された私が向かう先は──
王城からユシェナート侯爵家に帰ってきた私は、着いたと同時にメアに命令をした。
まだミフェラとお父様、お母様の3人が帰って来ていない内に済ませたいことがあったのだ。
「メア、今すぐ侯爵家を出ていく準備をして頂戴。荷物は裏口の馬車に積むように。」
「畏まりました。」
「服や宝石はあまり身に付けたことがない物で良いわ。ある程度残しておかないと怪しまれるから。使用人達への口止めは私がしておくわ。」
「お願いします。」
「ええ。あとはお世話になったお礼を言いに行くくらいね。」
「承知致しました。」
メアが準備を進めている間、私は今までお世話になった使用人達に感謝を伝えに行った。
彼らは何故今なのかという表情を隠せずにいたが、事情を話すと納得してくれたと同時に同情してくれていた。なのでメアが現在行っていることに関しての口止めもスムーズに出来た。お父様に告げ口をしそうな人であれば、金銭を渡して話さないようにときつく言っておいた。
1時間もしない内に準備は整い、あとは3人の帰りを待つだけとなる。
「レイシア様、侯爵様方がお帰りになられました。」
「分かったわ。」
私はあえて侯爵家のエントランスホールを横切った。
すると思惑通り、侯爵が叫んだ。
「何故貴様がまだここにいるッ!」
「…侯爵様、お帰りになられたのですね。」
「そんなことはどうでもいい!今すぐ侯爵家から出て行け!」
私は笑みを浮かべそうになるが、ポーカーフェイスをしなければと心を落ち着かせる。
階段を降りていき、侯爵の前に立った。
「今すぐ…ですか……?」
「そうだ!貴様を家に置いていたのは、王太子殿下の婚約者だったからだ。だが婚約破棄された貴様に用はない!侯爵家の恥さらしでしかないのだ。即刻出ていけ!」
「分かりました…。」
「ああ、少し待て。」
「?」
侯爵はそう言うと、何かを取りに書斎へと向かった。数分後、2枚の紙を持って帰ってきた。
「これにサインしろ。」
「2枚にですか?」
「私のサインは既にしてきた。1枚は貴様の分だ。王国の法律を無視するわけにはいかないからな。」
こういう時だけはしっかりしている。おそらく王国の法律を調べ直したのだろう。
紙に書かれていたのは、これにサインをした人は侯爵家の者ではなくなるという内容だった。証人として侯爵の名が書かれ、追放される側に私の名前を書いた。
婚約破棄をされればこうなると分かっていたので、私は侯爵家を出る準備をしていたのだ。使用人への挨拶もこういう意味である。
「これで貴様は侯爵家の者では無くなった。さっさと出て行け!」
「はい。」
私は不敵な笑みを浮かべて侯爵家を出た。誰にも見られていないことを確認してから裏口の方へと行き、待たせていた馬車へと乗り込む。
「お待たせしてしまいましたね。」
「いえいえ、お気になさらず。レイシア様を責任を持ってお連れしろとの、我が主様からのご命令ですから。」
私はメアと共に馬車に乗り込む。荷台には先程積むようにと命令しておいた衣類などがあった。
そう、ユシェナート侯爵家を追放された私が向かう先は──
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