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「何が『修行の為に放置させた』、よ。つくならもう少しマシな嘘をつきなさいな。」

「侯爵であるこの父に向かって、何だその物言いは!?」

「もう私は侯爵と関係がないはずよ?私を侯爵家から追放したのは貴方。そちらの側近の方に言伝を頼んだはずよ。『私とは、今後一切関わらないで』とね。ちゃんと伝わっているはずだけれど?」

「くっ…。侯爵家へ無理矢理連れて帰ることも出来るんだぞ。」

「無理矢理にでも…ね。それも面白いけれど、そうなった場合は全力で抵抗させてもらうわね。私の魔法威力は、戦闘しながらでも把握出来たはずだけれど?」

「あの魔法がお前のものだと!?」

「ええ、そうよ。」

「本当は全てこの精霊の魔法だろう!お前は魔力量を測った時、一切反応が無かったではないか!」


確かにディガルザの言う通りだった。
魔力測定をした時、私の魔力量は0と出たのだ。
しかしその理由は、ゼティスーアによって解明された。


「それは無意識に発動させていた結界の影響だったのよ。今は制御出来るようになったけれど、その結界を解くと……」


私は結界を解いた。
その瞬間、膨大な魔力が放出される。
それに驚き、ディガルザは腰を抜かしてしまった。
何とも憐れな姿だ。


「驚いた?魔族と同じ色の瞳を持つだけだと、思わないで欲しいわね。」

「貴様がユイレと真剣に向き合っていれば、気付けたやもしれんのにな。」

「っ……私をどうするつもりだ…。」

「どうもしないわ。だから早く帰ってほしいものね。言ったでしょう?私と貴方は、もう無関係なのだと。」

「……分かった…。では失礼する…。」


ディガルザは後ろを向いて歩いていく。
それを見て私とゼティスーアも背を向ける。
その瞬間、背後から殺気を感じた。
結界にて攻撃を防ぐ。

ガキィン!

と剣を結界が弾く音が聞こえてくる。
ゆっくりと振り返ると、ディガルザが私を切りつけようとしていた。
結界で弾かれているが。


「チッ…!」

「貴様っ……実の我が子を捨てるだけではなく、殺そうとまでするか!!」

「なぁっ……!?」

「これ以上は許せん……ユイレは見逃したが、私がこの手で終わらせてやろうっ!」


ゼティスーアは怒りのあまり、ディガルザを今にも手にかけようとしている。
名前を呼んで制止させようとしたが、精霊族は心を許した者にしか名を教えない。
それ故に、名前を呼ぶわけにはいかなかった。


「やめて!」

「っ…!」

「手を出さないで。」

「ユイレ…しかしこいつは……!」

「私に任せて。」


私はゼティスーアより前に出る。
ディガルザは私が近づいてきたところを逃すまいと、剣を向ける。
ゼティスーアが手を出さないと分かり、余裕を取り戻していた。


「あら、まだ諦めないのね。好きに斬りかかって来るといいわよ?私に傷をつけられると思うのならば。」

「ならばそうさせてもらうぞ!」


しかし結果は分かりきっている。
結界に阻まれ、私に刃が届くことなどない。
次第にディガルザは疲れて、剣を振るうことが出来なくなった。


「どうかしら。私には通じないと分かった?」

「くそっ……。」

「もう二度と、私の前に姿を現さないでほしいわね。それと……『拒絶縛』。」

「な、何だこれは!?」

「今後一切、精霊族と私を認識出来なくする魔法よ。私のオリジナルだけれどね。」

「今は見えているではないか!」

ね。効き目は10分後からよ。今見えていなくては、話が出来ないもの。さて、それではさようなら。」

「なっ、待て!」


私とゼティスーアは転移魔法にて、精霊族の里へと帰るのだった。
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