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3.婚約《ゼルディア視点》

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私はゼルディア・フォン・ラージエルス。
ラージエルス王国の第二王子だ。

今、私は上機嫌だった。
目障りだった女との婚約破棄が出来たからだ。
どれほど嬉しいことか。
これでレーアとの婚約が出来る。
そもそも婚約は1人までという決まりなど無いので、エリスと婚約を続けていようが関係なかった。
しかしエリスあの女との結婚など嫌だった。
だから婚約破棄したまでのこと。

わざとらしいあの振る舞いは、きっと私に好かれる為の偽りの性格だろう。
気持ちが悪く、もう我慢ならなかった。
だから言ってやった。
大勢の前で、


「貴様との婚約を破棄する!」


と。
奴なら泣き崩れ、私に縋り寄ってくると思っていた。
いたのだが……


「……ゼルディア様。理由をお伺いしても?」


少し驚いた表情をした後、すぐにそう訊いてきた。
その様子に少し違和感を覚えたが、気にせず本心を声にする。
私の言葉に続き、レーアも発言をした。
するとエリスは驚くべき言葉を口にしたのだ。


「貴女は誰ですか?」


……これには私も驚いた。
レーアはエリスと話したことがなかったのだろう。
確かに2人が話している所を、私も見たことがない。
だがエリスの狙いは、別にあったのだ--

レーアが名を名乗ると、奴は…


「レーアさん、ですか。初めてお話ししますわね~!」


笑顔でそう言った。
いつものわざとらしい態度で。
怒りを覚えたが、続くエリスの言葉で、私は気付いた。


「うふふっ、可愛い方ですのね。」


貴族達の注目が集まる中での、先程と今の言葉。
これにより周囲はざわつき始めたのだ。
レーアはエリスと初めて話すにも関わらず、許可もなく親しく呼んでいる…。
それが意味することは……、『マナー知らず』。
この他にない。

私は焦った。
これでは奴の狙い通りになってしまっていると。
流れを変えるべく、とりあえずエリスを会場から出ていかせようと思った。


「おいっ!それ以上喋ることは許さん!さっさとこの場を立ち去れ!」

「………分かりました、ゼルディア様……いえ、ゼルディア殿下。」

「…!?」


急に雰囲気が変わった。
いつものエリスが纏う空気感とは、欠片も違っていた。
私の知っている、ふわふわとまとわりついてくるような嫌いな感じではなく、キリッとした気品溢れる私の知らないエリスだ。
一瞬で雰囲気を変えられるのかと驚いたが、私の気を引く為の作戦だろう。
そう思うことにした。

しかし…、やはり何か引っかかる。
もしや、演技をしていたのか…?
何の為に?
この私の嫌がる事をして、婚約破棄に持っていかせる為?
……いいや、それはないな。
王子である私との婚約を破棄したがるなど、王国貴族として有り得ない。
なら何故…?

…考えても仕方がない。
奴との婚約を破棄することが出来る、そのことに今は喜ぼう。
それで十分だ。
レーアを幸せにすることが出来るのだ。
これより喜ばしいことはないだろう。


--その後の舞踏会は無事に終わり、翌日になった。
私は昨日伝えていなかったことを国王陛下、つまりは父上に伝える為、会いに行った。
父上は誰かと話しているようで、使用人達が必死に止めにくるのだが…これは最優先事項が故に、客人がいることなどは関係ないだろう。

そして入って少し経ってから知った。
と言うより直接見た。


「…エリス!?」


奴がここに居たのだ…。
何の話をしていたのかは分からないが、父上はエリスとの婚約破棄は認めてくれた。
ひとまず安心だ。
しかしレーアとの婚約は少し待てと言われた。
『王族の婚約は、そうおいそれと出来るものではない』という父上の言葉は理解出来る。
それに父上の『少し』は、本当に少しだ。
今日中にも呼び出しされて、婚約を認めてくれるはずだ。
仮に認めてくれずとも、煩く言えば問題ないだろう。
そう思い、その場は去ることにした。


そして数時間後--
父上に私一人だけが呼び出しされた。
執務室に入った私は、エリスやヘーレイシア公爵が居ないことを確認する。
きっと婚約の件だ。
それ以外にないだろう。


「ゼルディアよ。レーア・ルネイアルトとの婚約は認めるが、条件がある。」

「条件…ですか?」

「そうだ。お前には仕事を手伝ってくれる存在が必要だ。常ならば、婚約者がその立場をしている。私も結婚する前、婚約者同士の頃から妻でありお前の母であるシティーレに助手をしてもらっていた。」

「そう…ですか……。それはレーアにしてもらえば…」

「いいや、彼女には務まらないだろう。実はレーア・ルネイアルトについて調べさせてもらった。言い方は悪いが、彼女はエリスにかなり劣っている。」
 
「そんなことは!」

「お前も分かっているだろう。お前の目にエリスがどのように映っていたかは知らんが、王族の仕事を1人で片付けていたのだぞ。そのようなことがレーアに出来るとでも?」

「くっ…。」


悔しいが、父上の仰ることは正論だ。
レーアにエリスにさせていた私の仕事を行えるとは思えない。
ならば他の者を代わりに助手にさせるべきだろう。


「条件とは、助手の存在を自ら見つけてくることだ。ただし助手はあくまで助手でしかない。己の仕事はしっかりとするように。」

「…分かりました。」

「ちなみにだが、助手は婚約者となる者、或いは信頼出来る者でも構わないぞ。前者の場合は、レーア・ルネイアルト以外の新たな婚約者…となるがな。」


そんな父上の言葉に、私はあることを思いついた。
奴に戻ってきてもらえば良いのだ…。
レーアを正妻、そして奴を側妻にでもすれば、父上も文句は無いだろう。
一応確認はしておこう。


「……それは、エリスをもう一度婚約者にすることでもよろしいのですか?」

「…はははっ!それは面白いな。出来るものならやってみろ。既に婚約破棄はされているが、彼女に戻ってきてもらえると思うのなら試してみるといい。」


挑発とも取れる言葉を発した父上。
無理だと言われているようなものだ。
だがエリスは『お慕いしている』と言っていた。
つまりはまだ私のことが好きな可能性がある。
いいや、その可能性の方が高いだろう。
私は王子なのだ。
その妻という地位は、貴族ならば誰もが欲しがるものである。


「分かりました。」

「話は以上だ。行って良いぞ。」

「失礼します。」


部屋を出て、レーアの待つ自室へと向かう。
エリスの事は、明日から動けば十分だ。
これでレーアとの婚約は確定したも同然。
ならば今日の残りの時間は、遊ぶ為に使おう。
仕事は明日に回せば問題ない。
明日になればエリスが片付けてくれるのだから--
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