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第10話

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「婚約破棄……か。」

「はい。これ以上は耐えることなど出来ません。」


はっきりとお伝えすると、少し悩んだ様子を見せられる国王陛下。
その表情からは、呆れの感情も窺えます。


「ザーディヌと話しはしたのか…?」

「させて頂きました。ですが全く取り合ってもらえなかったのです。」

「そうか…。一人の親として、謝罪させてほしい。本当に申し訳ない……。」

「お気になさらないでください…!」

「ありがとう。そして我儘を言うようだが、あと3日は待ってはくれぬか?すぐには決めかねる事だ…。それに私から言えば、何か変わるかもしれん。」

「……陛下がそうおっしゃるのであれば。」

「重ね重ね礼を言う…。」


あと3日、書類と顔を突き合わせなければならないと思うと、すごく面倒ですね。
ですが国王陛下のお言葉が優先なので、我慢しなければなりません。
いつも私が処理しているのはザーディヌ殿下の仕事。
私の仕事はあくまで補佐です。
後で自分の仕事は自分するようにという手紙を書いて、ヴィレルに届けてもらいましょうか。


「話はそれだけか?」

「はい。私からは以上です。」

「では行って良いぞ。ああ、セルエリット公は残ってくれ。」

「承知致しました。シュレア、先に行っててくれ。」

「はい。」


私は陛下の書斎を退室し、足早に帰りの馬車へと乗り込みました。
馬車内にて手紙を書こうと思ったからです。
ささっと書き、ヴィレルに渡しました。
内容はこうです。


《親愛なるザーディヌ・フィー・ガーナス殿下

単刀直入に、お伝えしたい内容のみを書かせて頂きます。
明日から私は、補佐としての仕事のみを行います。
ご自分の仕事はご自分でなさってください。
殿下が来られない場合は、書類が溜まるだけですので。

シュレア・セルエリット》


『親愛なる』と書くだけで反吐が出そうです。
しかし、今はまだ婚約者。
貴族として、形式だけは守らなければなりません。


【シュレア様、只今戻りました。】

【ご苦労様。どこに置いてきたの?】

【ザーディヌ殿下の自室にある、机の上に堂々と置いてきました。今頃読んでいるかと。】

【そう。ヴィレルは姿を見られていないわよね?】

【勿論です。影を利用して置いてきたので、見られているはずがありません。】

【流石ね。】


馬車の外には使用人が居るため、頭の中で会話をします。
ヴィレルは本当に優秀ですね。
何でも完璧にこなすことが出来ます。
知識や知恵などは私からの影響を受けており、かなり頭が回るようです。
クロは少しヴィレルに劣るような気がします。
実際に戦わせてみるのも、面白いかもしれませんね。


「待たせたな、シア。帰ろうか。」


数分後に、お父様が来ました。
馬車に揺られながら、外を眺めていると……


「シアは……本当にまだザーディヌ殿下との婚約を破棄したいと思っているか…?」

「………唐突ですね…。…私の意思は変わりません。人が簡単に変われるとは思いませんから。」

「そうか…。」


お父様は少し悲しそうな、しかし納得されたような表情です。
婚約を破棄すれば私は公爵家から出て行くと決めています。
そのことは伝えているので、お父様にとって複雑な気持ちの部分もあるでしょう。
とても家族想いな方ですから…。

その後は無言のまま、公爵家に着きました。



--翌日。
王城の一室にて書類の山に私がため息をついたと同時に、部屋の扉が開きました。
誰かは言うまでもなく、ザーディヌ殿下です。
全く目を合わせません。


「おはようございます、ザーディヌ殿下。」

「…おはよう。」

「何かあったのですか?暗い表情をされていますが。」


理由を分かっていて訊きます。
殿下のことですから、婚約を破棄しないでほしいというような言葉を言われるのでしょうね。
私の意思は何をどうしようと変わりませんが。


「……昨日、父上より話があったのだ。自分の行動を改めろ、とな。シュレアが父上に言ったのか?」

「殿下。仮に私が陛下にお伝えしていたとして、私をどうするのですか?」

「……どうもしない。ただの確認だ。」

「そうですか。確かに私がお伝えしました。」

「…そうか。」


暗い表情は変わらず、少しは反省している、そう感じました。
私は本当に補佐としての仕事しかしなかった為、ザーディヌ殿下は顔を顰めながらも書類を片付けていきます。
国王陛下に言われたからという理由でしょうけれど、これを機会に変わってくださるかもしれない……そう思っていたのはその日の昼過ぎまででした。
今さら反省し変わったところで、婚約破棄をすることに変わりはありませんが…。


「お疲れ様でした、殿下。本日は追加の可能性は無いと伺っております。」

「分かった。あとは任せても?」

「はい。この後は私の仕事ですから。」

「では先に失礼する。」


そうして退室して行かれたザーディヌ殿下。
特に疲れた様子でもないので、この程度の仕事は余裕なのでしょう。
書類に目を通してサインするだけなので、当然と言えば当然ですね。
私は書類を提出し終え、公爵家へと帰りました。


「さて……ヴィレル、頼んだわ。」

「はい、お任せを。」


時刻は午後2時過ぎ。
ヴィレルをとある部屋へと向かわせました-
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