上 下
9 / 15

第9話

しおりを挟む
翌朝、朝食を食べる前にお父様から呼び出しを受けました。
書斎に行くと、既に仕事をしておられたのです。


「失礼致します。」

「シア。伝えることがあってな。」

「何でしょうか?」

「今日の午後5時頃に、国王陛下に謁見する。シアは仕事が終われば、そのまま王城に居るように。」

「分かりました。」


昨日でザーディヌ殿下の代わりをするのは終わりかと思っていましたが、今日もまたしなければならないとは……。
仕方ありませんね、1日くらい我慢しましょう。

王城に着き、いつものように仕事を始めようと座った時、ヴィレルが影から出てきました。


「……呼び出さなくても出て来られるのね…。」

「???」


影獣シャドー』については、まだまだ驚かされることが沢山ありますね…。
普段は私が呼び出してから影を使った転移をしていたので、彼らが自ら出てくるのは思ってもいませんでした。
しかしヴィレルが命令もなしに現れるとは、何事でしょうか……。


「シュレア様?」

「何でもないわ。それで、どうしたの?」

「この部屋に、ザーディヌ殿下が向かって来ております。」

「殿下が?」

「はい。彼の影にマークを付けて監視出来るようにしていたのですが、どうやら珍しくこちらに向かっている様子でしたので、シュレア様に報告をと思いまして。」

「そう……。ありがとう、ヴィレル。」


頭を下げ、ヴィレルは影へと戻っていきました。
しかしここ数日部屋にすら来なかったザーディヌ殿下が、今さら何をしに来たのでしょうか。
謝りに来た……というのは有り得ませんね。
まぁ許すつもりもありませんが…。
考えているうちに、部屋へと入ってきました。


「……。」

「おはようございます、ザーディヌ殿下。」

「シュレア。父上……国王陛下に謁見するのか?」

「そうですが、何か?」

「…先程陛下から直接、シュレアと話をすることになったと聞いてな。以前した婚約の……。…何を話すのかと気になったのだ。」


婚約破棄の話を国王陛下にするのではないか、と気になったのですね。
そして自分の行いが陛下にばれてしまうことの方が恐れている……と言ったところでしょうか。
本当に呆れます。
悪い事をしている自覚があるのなら、反省し改めてほしいのですが。


「……殿下。メーフィユ侯爵令嬢と、まだ親しくしていらっしゃるそうですね。」

「え…?ああ、まぁそうだが?」

「私という婚約者存在がいながら、他の女性と親しくしている……。」

「何がいけない?前にも言ったが、私が何をしようと私の勝手だろう。」

「そうですね。では殿下がメーフィユ侯爵令嬢を好きなのであれば、私との婚約を破棄しましょう。そうすれば、彼女を正妻として迎えるが出来ますよ。」


婚約は1番早く結んだ者が正妻となり、2番目以降は側室です。

私から婚約破棄を持ちかければ、殿下は婚約の破棄がしやすくなります。
一度断れば、やはり破棄したいと言っても受け入れられないのが常ですが、私はあえて二度目の婚約破棄を申し出ました。
殿下にとってメリットな話と思えるように付け足して。
しかし返ってきた言葉は、最悪なものでした。


「それは出来ないな。彼女はあくまで側室だ。シュレアは正妻として迎える。」

「何故ですか?」

「そうすれば私の仕事を全てシュレアに……ではなく…これは国王陛下が決められたことなのだ。だから婚約破棄など出来ない。」

「……。」


私を正妻に迎え、仕事を全て投げようということだったようです。
確かにそうすれば殿下は一生遊べるでしょう。
………そんなことが許されるとでも?
ここ数年で、より頭が悪くなられたようですね。


「………殿下。さっさと婚約破棄してくださいませんか?」

「…っ!?」


いつもより低い声で、私は心からの本音を放ちました。
聞いたことの無い私のその声に、さすがの殿下も驚いたようです。
そして視線を逸らしつつ……


「無理だと言っているだろう…。」


先程より弱々しい声音ですね。
さらには逃げるように部屋を退室して行かれました。
少しは手伝っていかないのかと思いましたが、言っても仕方がありません。


--その後--

仕事も終わり、謁見の時間となりました。
私とお父様は国王陛下の書斎へと通されました。


「よく来たな、セルエリット公。そしてシュレアよ。」

「陛下、時間をとってくださり、感謝致します。」


お父様が頭を下げ、続けて私も頭を下げます。


「気にするな。重要な話と聞いたからな。それでシュレアよ。何用だ?」

「はい。まずはこちらを見ていただきたいのです。」


お父様と同じ書類をお渡ししました。
国王陛下は険しい目つきで読まれています。
そして数分かけて読み終えると、頭を抱えられました。


「シュレア……ここにあることは本当なのか?」

「はい。」

「ここまで詳しく書いているのだ……、嘘なわけがないか…。しかし、どうやってこれを?1週間分あるようだが。」

「私が闇魔法を用いて調べました。」

「そうか。それで、これを見せてどうしたい?」


魔法が使えることについて訊いてこられないということは、やはり既に知っていたようです。
王家の婚約者ともなれば、その者の全てを調べるでしょう。
そして私が魔法を使っている瞬間を、陛下直属の陰の部隊のような方が見ていた……というのが一番考えられる可能性です。
それにしても、私がどうしたいかですか…。
望みは1つしかありませんね。
陛下は勘付かれているでしょう。
ならば率直に申し上げる他ありません。


「私は、ザーディヌ殿下との婚約を破棄したいと考えております。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これは未来に続く婚約破棄

茂栖 もす
恋愛
男爵令嬢ことインチキ令嬢と蔑まれている私、ミリア・ホーレンスと、そこそこ名門のレオナード・ロフィは婚約した。……1ヶ月という期間限定で。 1ヶ月後には、私は大っ嫌いな貴族社会を飛び出して、海外へ移住する。 レオンは、家督を弟に譲り長年片思いしている平民の女性と駆け落ちをする………予定だ。 そう、私達にとって、この婚約期間は、お互いの目的を達成させるための準備期間。 私達の間には、恋も愛もない。 あるのは共犯者という連帯意識と、互いの境遇を励まし合う友情があるだけ。 ※別PNで他サイトにも重複投稿しています。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

とっても短い婚約破棄

桧山 紗綺
恋愛
久しぶりに学園の門を潜ったらいきなり婚約破棄を切り出された。 「そもそも婚約ってなんのこと?」 ***タイトル通りとても短いです。 ※「小説を読もう」に載せていたものをこちらでも投稿始めました。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?

naturalsoft
恋愛
バーン王国は代々聖女の張る結界に守られて繁栄していた。しかし、当代の国王は聖女に支払う多額の報酬を減らせないかと、画策したことで国を滅亡へと招いてしまうのだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ゆるふわ設定です。 連載の息抜きに書いたので、余り深く考えずにお読み下さい。

濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……

もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。

【完結】やり直そうですって?もちろん……お断りします!

凛 伊緒
恋愛
ラージエルス王国の第二王子、ゼルディア・フォン・ラージエルス。 彼は貴族達が多く集まる舞踏会にて、言い放った。 「エリス・ヘーレイシア。貴様との婚約を破棄する!」 「……え…?」 突然の婚約破棄宣言。 公爵令嬢エリス・ヘーレイシアは驚いたが、少し笑みを浮かべかける──

婚約破棄させていただきますわ

佐崎咲
恋愛
巷では愚かな令息による婚約破棄が頻発しています。 その波が私のところにも押し寄せてきました。 ですが、婚約破棄したいのは私の方です。 学園の広場に呼び出されましたが、そうはいきませんことよ。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

処理中です...