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第9話
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翌朝、朝食を食べる前にお父様から呼び出しを受けました。
書斎に行くと、既に仕事をしておられたのです。
「失礼致します。」
「シア。伝えることがあってな。」
「何でしょうか?」
「今日の午後5時頃に、国王陛下に謁見する。シアは仕事が終われば、そのまま王城に居るように。」
「分かりました。」
昨日でザーディヌ殿下の代わりをするのは終わりかと思っていましたが、今日もまたしなければならないとは……。
仕方ありませんね、1日くらい我慢しましょう。
王城に着き、いつものように仕事を始めようと座った時、ヴィレルが影から出てきました。
「……呼び出さなくても出て来られるのね…。」
「???」
『影獣』については、まだまだ驚かされることが沢山ありますね…。
普段は私が呼び出してから影を使った転移をしていたので、彼らが自ら出てくるのは思ってもいませんでした。
しかしヴィレルが命令もなしに現れるとは、何事でしょうか……。
「シュレア様?」
「何でもないわ。それで、どうしたの?」
「この部屋に、ザーディヌ殿下が向かって来ております。」
「殿下が?」
「はい。彼の影に印を付けて監視出来るようにしていたのですが、どうやら珍しくこちらに向かっている様子でしたので、シュレア様に報告をと思いまして。」
「そう……。ありがとう、ヴィレル。」
頭を下げ、ヴィレルは影へと戻っていきました。
しかしここ数日部屋にすら来なかったザーディヌ殿下が、今さら何をしに来たのでしょうか。
謝りに来た……というのは有り得ませんね。
まぁ許すつもりもありませんが…。
考えているうちに、部屋へと入ってきました。
「……。」
「おはようございます、ザーディヌ殿下。」
「シュレア。父上……国王陛下に謁見するのか?」
「そうですが、何か?」
「…先程陛下から直接、シュレアと話をすることになったと聞いてな。以前した婚約の……。…何を話すのかと気になったのだ。」
婚約破棄の話を国王陛下にするのではないか、と気になったのですね。
そして自分の行いが陛下にばれてしまうことの方が恐れている……と言ったところでしょうか。
本当に呆れます。
悪い事をしている自覚があるのなら、反省し改めてほしいのですが。
「……殿下。メーフィユ侯爵令嬢と、まだ親しくしていらっしゃるそうですね。」
「え…?ああ、まぁそうだが?」
「私という婚約者がいながら、他の女性と親しくしている……。」
「何がいけない?前にも言ったが、私が何をしようと私の勝手だろう。」
「そうですね。では殿下がメーフィユ侯爵令嬢を好きなのであれば、私との婚約を破棄しましょう。そうすれば、彼女を正妻として迎えるが出来ますよ。」
婚約は1番早く結んだ者が正妻となり、2番目以降は側室です。
私から婚約破棄を持ちかければ、殿下は婚約の破棄がしやすくなります。
一度断れば、やはり破棄したいと言っても受け入れられないのが常ですが、私はあえて二度目の婚約破棄を申し出ました。
殿下にとってメリットな話と思えるように付け足して。
しかし返ってきた言葉は、最悪なものでした。
「それは出来ないな。彼女はあくまで側室だ。シュレアは正妻として迎える。」
「何故ですか?」
「そうすれば私の仕事を全てシュレアに……ではなく…これは国王陛下が決められたことなのだ。だから婚約破棄など出来ない。」
「……。」
私を正妻に迎え、仕事を全て投げようということだったようです。
確かにそうすれば殿下は一生遊べるでしょう。
………そんなことが許されるとでも?
ここ数年で、より頭が悪くなられたようですね。
「………殿下。さっさと婚約破棄してくださいませんか?」
「…っ!?」
いつもより低い声で、私は心からの本音を放ちました。
聞いたことの無い私のその声に、さすがの殿下も驚いたようです。
そして視線を逸らしつつ……
「無理だと言っているだろう…。」
先程より弱々しい声音ですね。
さらには逃げるように部屋を退室して行かれました。
少しは手伝っていかないのかと思いましたが、言っても仕方がありません。
--その後--
仕事も終わり、謁見の時間となりました。
私とお父様は国王陛下の書斎へと通されました。
「よく来たな、セルエリット公。そしてシュレアよ。」
「陛下、時間をとってくださり、感謝致します。」
お父様が頭を下げ、続けて私も頭を下げます。
「気にするな。重要な話と聞いたからな。それでシュレアよ。何用だ?」
「はい。まずはこちらを見ていただきたいのです。」
お父様と同じ書類をお渡ししました。
国王陛下は険しい目つきで読まれています。
そして数分かけて読み終えると、頭を抱えられました。
「シュレア……ここにあることは本当なのか?」
「はい。」
「ここまで詳しく書いているのだ……、嘘なわけがないか…。しかし、どうやってこれを?1週間分あるようだが。」
「私が闇魔法を用いて調べました。」
「そうか。それで、これを見せてどうしたい?」
魔法が使えることについて訊いてこられないということは、やはり既に知っていたようです。
王家の婚約者ともなれば、その者の全てを調べるでしょう。
そして私が魔法を使っている瞬間を、陛下直属の陰の部隊のような方が見ていた……というのが一番考えられる可能性です。
それにしても、私がどうしたいかですか…。
望みは1つしかありませんね。
陛下は勘付かれているでしょう。
ならば率直に申し上げる他ありません。
「私は、ザーディヌ殿下との婚約を破棄したいと考えております。」
書斎に行くと、既に仕事をしておられたのです。
「失礼致します。」
「シア。伝えることがあってな。」
「何でしょうか?」
「今日の午後5時頃に、国王陛下に謁見する。シアは仕事が終われば、そのまま王城に居るように。」
「分かりました。」
昨日でザーディヌ殿下の代わりをするのは終わりかと思っていましたが、今日もまたしなければならないとは……。
仕方ありませんね、1日くらい我慢しましょう。
王城に着き、いつものように仕事を始めようと座った時、ヴィレルが影から出てきました。
「……呼び出さなくても出て来られるのね…。」
「???」
『影獣』については、まだまだ驚かされることが沢山ありますね…。
普段は私が呼び出してから影を使った転移をしていたので、彼らが自ら出てくるのは思ってもいませんでした。
しかしヴィレルが命令もなしに現れるとは、何事でしょうか……。
「シュレア様?」
「何でもないわ。それで、どうしたの?」
「この部屋に、ザーディヌ殿下が向かって来ております。」
「殿下が?」
「はい。彼の影に印を付けて監視出来るようにしていたのですが、どうやら珍しくこちらに向かっている様子でしたので、シュレア様に報告をと思いまして。」
「そう……。ありがとう、ヴィレル。」
頭を下げ、ヴィレルは影へと戻っていきました。
しかしここ数日部屋にすら来なかったザーディヌ殿下が、今さら何をしに来たのでしょうか。
謝りに来た……というのは有り得ませんね。
まぁ許すつもりもありませんが…。
考えているうちに、部屋へと入ってきました。
「……。」
「おはようございます、ザーディヌ殿下。」
「シュレア。父上……国王陛下に謁見するのか?」
「そうですが、何か?」
「…先程陛下から直接、シュレアと話をすることになったと聞いてな。以前した婚約の……。…何を話すのかと気になったのだ。」
婚約破棄の話を国王陛下にするのではないか、と気になったのですね。
そして自分の行いが陛下にばれてしまうことの方が恐れている……と言ったところでしょうか。
本当に呆れます。
悪い事をしている自覚があるのなら、反省し改めてほしいのですが。
「……殿下。メーフィユ侯爵令嬢と、まだ親しくしていらっしゃるそうですね。」
「え…?ああ、まぁそうだが?」
「私という婚約者がいながら、他の女性と親しくしている……。」
「何がいけない?前にも言ったが、私が何をしようと私の勝手だろう。」
「そうですね。では殿下がメーフィユ侯爵令嬢を好きなのであれば、私との婚約を破棄しましょう。そうすれば、彼女を正妻として迎えるが出来ますよ。」
婚約は1番早く結んだ者が正妻となり、2番目以降は側室です。
私から婚約破棄を持ちかければ、殿下は婚約の破棄がしやすくなります。
一度断れば、やはり破棄したいと言っても受け入れられないのが常ですが、私はあえて二度目の婚約破棄を申し出ました。
殿下にとってメリットな話と思えるように付け足して。
しかし返ってきた言葉は、最悪なものでした。
「それは出来ないな。彼女はあくまで側室だ。シュレアは正妻として迎える。」
「何故ですか?」
「そうすれば私の仕事を全てシュレアに……ではなく…これは国王陛下が決められたことなのだ。だから婚約破棄など出来ない。」
「……。」
私を正妻に迎え、仕事を全て投げようということだったようです。
確かにそうすれば殿下は一生遊べるでしょう。
………そんなことが許されるとでも?
ここ数年で、より頭が悪くなられたようですね。
「………殿下。さっさと婚約破棄してくださいませんか?」
「…っ!?」
いつもより低い声で、私は心からの本音を放ちました。
聞いたことの無い私のその声に、さすがの殿下も驚いたようです。
そして視線を逸らしつつ……
「無理だと言っているだろう…。」
先程より弱々しい声音ですね。
さらには逃げるように部屋を退室して行かれました。
少しは手伝っていかないのかと思いましたが、言っても仕方がありません。
--その後--
仕事も終わり、謁見の時間となりました。
私とお父様は国王陛下の書斎へと通されました。
「よく来たな、セルエリット公。そしてシュレアよ。」
「陛下、時間をとってくださり、感謝致します。」
お父様が頭を下げ、続けて私も頭を下げます。
「気にするな。重要な話と聞いたからな。それでシュレアよ。何用だ?」
「はい。まずはこちらを見ていただきたいのです。」
お父様と同じ書類をお渡ししました。
国王陛下は険しい目つきで読まれています。
そして数分かけて読み終えると、頭を抱えられました。
「シュレア……ここにあることは本当なのか?」
「はい。」
「ここまで詳しく書いているのだ……、嘘なわけがないか…。しかし、どうやってこれを?1週間分あるようだが。」
「私が闇魔法を用いて調べました。」
「そうか。それで、これを見せてどうしたい?」
魔法が使えることについて訊いてこられないということは、やはり既に知っていたようです。
王家の婚約者ともなれば、その者の全てを調べるでしょう。
そして私が魔法を使っている瞬間を、陛下直属の陰の部隊のような方が見ていた……というのが一番考えられる可能性です。
それにしても、私がどうしたいかですか…。
望みは1つしかありませんね。
陛下は勘付かれているでしょう。
ならば率直に申し上げる他ありません。
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