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第7話
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「……かなり魔力が吸い取られたのだけれど、成功したようで良かったわ。」
現れたのは、人型の『影獣』です。
イメージ次第でいけるかもしれないと思い、試したところ本当に出来てしまいました。
それもクロの姿とは違い、人間によく似ています。
肌の色は少し黒めで、黒髪に紫の目を持つ『影獣』です。
執事のような服装をしています。
「見た目は完全に人間ね。」
イメージ通りの姿です。
年齢は20歳前半といったところでしょうか。
背も高く、何でも出来そうな雰囲気を放っています。
「あなたの名前は……『ヴィレル』。目の色が紫で、髪が黒。この2つの色を言い換えると、紫と黒になるの。その組み合わせね。」
我ながらかっこいい名前ではないでしょうか。
クロは単純な付け方なのに、ですか?
可愛いからクロはクロで良いのです。
「我が主よ。頂いた『ヴィレル』という名に恥じぬ働きを、お約束いたします。」
「……あなたは普通に話せるのね…。」
「…?はい。私は『影獣』ですが、我が主によってこの姿に創造されましたので。」
「そう…。あと、私のことはシュレアと読んでほしいわ。主では何だか……恥ずかしいからね…。」
【承知しました。ではシュレア様と。】
「私もクロ殿と同様、シュレア様と呼ばせていただきますね。」
「ええ。そうして頂戴。」
その後、私の命令によりクロは私の影で護衛として待機、ヴィレルは証拠収集の為に魔道具を持たせて送り出しました。
ヴィレルが向かった先はもちろんザーディヌ殿下の自室です。
不法侵入?…ではありませんよ……ええ、違います…。
『影獣』はその場に居たという証拠は残りませんし、私の影響を受けているので魔力の残滓すら残しません。
『影獣』魔法が上位貴族のみに知らされた理由は、私がしたように情報収集に利用されるという危険性があるからでしょう。
そう思うと、確かに便利で強力な魔法です。
影がある場所になら、どこにでも行けるそうですから。
ただし私が行ったことのある場所、という制限があります。
このようなところも、発動者の影響を受けるのですね…。
【シュレア様。】
「…!慣れないわね…。【どうかしたのかしら?】」
急にヴィレルの声が頭の中に響きました。
『念話』……と呼んで良いものか分かりませんが、クロのようにヴィレルも使えたようです。
私も彼らのおかげで使えるようになりました。
思ったことがそのまま相手に伝わるので、気を付けなければなりませんが…。
【今ザーディヌ…殿下?の自室に居るのですが、音声を魔道具に録音し、別の魔道具にて撮影を行う。私が行うのはこの2つですね?】
【そうよ。問題でも起きた?】
【いえ、真逆です。シュレア様に教えていただいた、メーフィユ侯爵令嬢とやらが居ます。とても愛し合っている2人に見えますね。】
【……そう。】
【それで、どのタイミングが良いかと思いまして。】
【……一番熱々な時にしてほしいわ。】
【熱々……ですか?】
【ええ。2人がとても楽しそうな時ね。】
【承知しました。では後ほど。】
まさかメーフィユ侯爵令嬢が来ているとは…。
ヴィレルがわざわざ訊くほど、本当にあっつ熱なのでしょうね。
……うざい…。
おっと…つい本音が出てしまいましたね……。
証拠収集が終われば、お父様に全てをぶつけます。
そして公爵家を出て、自由に暮らすのです!
クロやヴィレルが居てくれれば、寂しい思いなどしません。
一度『影獣』を発動すると再召喚に魔力は必要ないのです。
もちろん出現している時間も魔力は要りません。
その辺りは嬉しい誤算でしたね。
コン コンッ
「ザーディヌ殿下、又はシュレア様はいらっしゃいますか?」
「どうぞ中に入って。」
「失礼致します。」
私が許可し、入ってきたのは追加の確認書類を持って来た使いの方でした。
いつも同じ方で、殿下が居られないと知っているのです。
だから私の名も呼ぶようにされています。
「……今日もお一人なのですね…。」
「ええ。ですがもうすぐこの生活ともおさらばですよ。」
「そうなのですか?」
「これ以上は我慢出来ませんし…。」
「では、如何なされるのですか?」
「それは秘密ですが、貴方にも会えなくなりますね。」
「えぇっ!?では……その………。」
「……追加の確認書類、確かに受け取りました。ご苦労様です。早速取り掛かりますね。」
「は、はい…!」
少し強引かもしれませんが、彼が何かを訊いてくる前にこの部屋から出ていっていただきました。
「婚約破棄をするから」などとは言えません。
もし言ってしまい、今のうちに広められると困ります。
公爵家の評判が落ちてしまいかねないからです。
国王陛下にも迷惑はかけられないので、殿下との婚約破棄のために使う証拠は慎重に扱わねばなりません。
「シュレア様。只今戻りました。」
「早かったわね、ヴィレル。ご苦労様。」
「ありがたきお言葉です。こちらをどうぞ。」
そう言って渡してきたのは音声を録音する魔道具と、撮影魔道具と呼ばれる目の前の光景を紙のようなものに写す、とても便利な2つの魔道具です。
貴族であれば、誰でも手に入るような値段で売られています。
商人以外の平民の年収……くらいでしょうか…。
そう思うと高いのですね……。
「完璧ね。私の方も済んでいるけれど、たったの1日だけでは証拠と呼べないと言われてしまうでしょう。1週間……つまりは残り6日間は収集を続け、より確実なものとする方が良いわ。」
「おっしゃる通りですね。では私は今日と同じように動きます。」
「ええ。頼んだわよ。」
このまま泳がせておきましょう--
現れたのは、人型の『影獣』です。
イメージ次第でいけるかもしれないと思い、試したところ本当に出来てしまいました。
それもクロの姿とは違い、人間によく似ています。
肌の色は少し黒めで、黒髪に紫の目を持つ『影獣』です。
執事のような服装をしています。
「見た目は完全に人間ね。」
イメージ通りの姿です。
年齢は20歳前半といったところでしょうか。
背も高く、何でも出来そうな雰囲気を放っています。
「あなたの名前は……『ヴィレル』。目の色が紫で、髪が黒。この2つの色を言い換えると、紫と黒になるの。その組み合わせね。」
我ながらかっこいい名前ではないでしょうか。
クロは単純な付け方なのに、ですか?
可愛いからクロはクロで良いのです。
「我が主よ。頂いた『ヴィレル』という名に恥じぬ働きを、お約束いたします。」
「……あなたは普通に話せるのね…。」
「…?はい。私は『影獣』ですが、我が主によってこの姿に創造されましたので。」
「そう…。あと、私のことはシュレアと読んでほしいわ。主では何だか……恥ずかしいからね…。」
【承知しました。ではシュレア様と。】
「私もクロ殿と同様、シュレア様と呼ばせていただきますね。」
「ええ。そうして頂戴。」
その後、私の命令によりクロは私の影で護衛として待機、ヴィレルは証拠収集の為に魔道具を持たせて送り出しました。
ヴィレルが向かった先はもちろんザーディヌ殿下の自室です。
不法侵入?…ではありませんよ……ええ、違います…。
『影獣』はその場に居たという証拠は残りませんし、私の影響を受けているので魔力の残滓すら残しません。
『影獣』魔法が上位貴族のみに知らされた理由は、私がしたように情報収集に利用されるという危険性があるからでしょう。
そう思うと、確かに便利で強力な魔法です。
影がある場所になら、どこにでも行けるそうですから。
ただし私が行ったことのある場所、という制限があります。
このようなところも、発動者の影響を受けるのですね…。
【シュレア様。】
「…!慣れないわね…。【どうかしたのかしら?】」
急にヴィレルの声が頭の中に響きました。
『念話』……と呼んで良いものか分かりませんが、クロのようにヴィレルも使えたようです。
私も彼らのおかげで使えるようになりました。
思ったことがそのまま相手に伝わるので、気を付けなければなりませんが…。
【今ザーディヌ…殿下?の自室に居るのですが、音声を魔道具に録音し、別の魔道具にて撮影を行う。私が行うのはこの2つですね?】
【そうよ。問題でも起きた?】
【いえ、真逆です。シュレア様に教えていただいた、メーフィユ侯爵令嬢とやらが居ます。とても愛し合っている2人に見えますね。】
【……そう。】
【それで、どのタイミングが良いかと思いまして。】
【……一番熱々な時にしてほしいわ。】
【熱々……ですか?】
【ええ。2人がとても楽しそうな時ね。】
【承知しました。では後ほど。】
まさかメーフィユ侯爵令嬢が来ているとは…。
ヴィレルがわざわざ訊くほど、本当にあっつ熱なのでしょうね。
……うざい…。
おっと…つい本音が出てしまいましたね……。
証拠収集が終われば、お父様に全てをぶつけます。
そして公爵家を出て、自由に暮らすのです!
クロやヴィレルが居てくれれば、寂しい思いなどしません。
一度『影獣』を発動すると再召喚に魔力は必要ないのです。
もちろん出現している時間も魔力は要りません。
その辺りは嬉しい誤算でしたね。
コン コンッ
「ザーディヌ殿下、又はシュレア様はいらっしゃいますか?」
「どうぞ中に入って。」
「失礼致します。」
私が許可し、入ってきたのは追加の確認書類を持って来た使いの方でした。
いつも同じ方で、殿下が居られないと知っているのです。
だから私の名も呼ぶようにされています。
「……今日もお一人なのですね…。」
「ええ。ですがもうすぐこの生活ともおさらばですよ。」
「そうなのですか?」
「これ以上は我慢出来ませんし…。」
「では、如何なされるのですか?」
「それは秘密ですが、貴方にも会えなくなりますね。」
「えぇっ!?では……その………。」
「……追加の確認書類、確かに受け取りました。ご苦労様です。早速取り掛かりますね。」
「は、はい…!」
少し強引かもしれませんが、彼が何かを訊いてくる前にこの部屋から出ていっていただきました。
「婚約破棄をするから」などとは言えません。
もし言ってしまい、今のうちに広められると困ります。
公爵家の評判が落ちてしまいかねないからです。
国王陛下にも迷惑はかけられないので、殿下との婚約破棄のために使う証拠は慎重に扱わねばなりません。
「シュレア様。只今戻りました。」
「早かったわね、ヴィレル。ご苦労様。」
「ありがたきお言葉です。こちらをどうぞ。」
そう言って渡してきたのは音声を録音する魔道具と、撮影魔道具と呼ばれる目の前の光景を紙のようなものに写す、とても便利な2つの魔道具です。
貴族であれば、誰でも手に入るような値段で売られています。
商人以外の平民の年収……くらいでしょうか…。
そう思うと高いのですね……。
「完璧ね。私の方も済んでいるけれど、たったの1日だけでは証拠と呼べないと言われてしまうでしょう。1週間……つまりは残り6日間は収集を続け、より確実なものとする方が良いわ。」
「おっしゃる通りですね。では私は今日と同じように動きます。」
「ええ。頼んだわよ。」
このまま泳がせておきましょう--
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