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第1話
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「もう我慢なりません。お父様、ザーディヌ殿下との婚約を破棄させてくださいっ!」
「え、えぇ……?」
突然の申し出に、お父様は困惑しています--
私はシュレア・セルエリット、18歳。
セルエリット公爵家の次女です。
私には7歳の時から婚約者がいます。
ザーディヌ・フィー・ガーナス殿下です。
この国、ガーナス王国の第2王子であり、容姿端麗で仕事も出来る方だと知られています。
しかし現実はそう単純なものではありません。
私は知っています、彼の本当の姿を。
「何故…婚約破棄したいんだ……?」
「我慢の限界だからです。」
「何を我慢していたんだ?」
「お父様を含め、関わっている人以外は誰も知りはしないでしょう。ザーディヌ殿下の最低さときたら……。」
「ちょ、待て待て。言葉が過ぎるぞ。王族たる殿下のことを最低だなんて…!」
「お父様は何も知らないから、そのようなことが言えるのです!私はどうなろうと構いませんから、婚約破棄させてください!決して公爵家には迷惑をかけませんから!」
「はぁ……。首を縦に振ることは出来ん話だ。シア、もう一度考え直せ。」
「しかし…!」
「今日のところはもう寝ろ。この話は聞かなかったことにする。良いな?」
「……分かりました…。」
断られてしまいました。
まぁ当然と言えば当然でしょう。
一国の王子との婚約を破棄するなど、普通はありえないのですから。
しかし私は彼と結婚するくらいなら家出をします。
えぇ絶対に家出します。
全ては3年前、15歳の時に始まったのです--
第2とはいえ王子であられるザーディヌ殿下は、15歳の成人を迎えたと同時に、王族としての仕事を任されていました。
私は婚約者として、仕事の補佐を行っていたのですが……
「すまないシュレア。この後用があってな。残りを頼めるか?」
「分かりました。しかしご用事とは一体…?」
「シュレア。」
「……申し訳ありません。どうぞ行ってらっしゃいませ。」
「ああ。」
この時は特に気にもしていませんでした。
何の用事なのかということを。
王族として、極秘のことでもあるのでしょう。
そう思っていたのです。
「シュレア、今日も用事がある。」
「……分かりました。あとはこちらで終わらせておきます。」
「助かる。」
2、3日間隔で、仕事を私に任せて何処かへ行かれるようになりました。
数ヶ月そのような日々が続いた頃、私は不満と怒りが溜まっていました。
ザーディヌ殿下が部屋を出ていかれたあと、それらが爆発してしまったのです。
「--何が『助かる』、ですか!王族として仕事が、そう頻繁にあるわけが無いでしょう!はぁ……やってられないわ…。……一体何をしていらっしゃるのか、確かめた方がいいわよね。」
そういう考えに至った私は、早急に残りを片付けて聞き込みをすることにしました。
仕事を行っているのは王城の一室です。
つまりは部屋を出ると城を守る兵士達が沢山いるのです。
ザーディヌ殿下の姿を見ていないという者はいないでしょう。
「そこの方……少しいいかしら?」
「はっ!シュレア様、何か御用でしょうか?」
「ザーディヌ殿下を見かけなかった?」
「殿下ならあちらの方に行かれましたよ。」
「分かったわ。ありがとう。」
聞き込みを続け、着いた場所は殿下の自室でした。
やはりご自分の部屋で何かされていたのでしょう。
その日は引き返すことにしました。
私は殿下の代わりに行った仕事を、ザーディヌ殿下自らがされているということにし、全てを彼の成果としていました。
補佐である私の評価も上がりましたが、実際はほとんどの仕事を私一人で行っていたので、殿下に対する評価は私への評価と同義でした。
1年が経ったある日、これ以上我慢出来なかった私は、尋ねることにしました。
「シュレア、すまないが今日も……。」
「ザーディヌ殿下。そろそろ教えて頂けませんか?いつも何をされているのか。」
「……。」
「言えないようなことなのですか?周囲の兵士達からは、殿下が自室に戻られるところを見たと聞きました。以前は2、3日程度でしたが、最近は2日連続で抜けられることもあります。理由を教えて頂けなければ、これ以上仕事を代わりに行うことは致しかねます。」
「……君は不満が溜まっているようだな。」
「当然です。」
「しかし、何をしているかは言えない。ただこれだけは言っておこう。父上……国王陛下からの密命で動いているのだ。だからそれ以上訊かないでくれ。」
「……。」
私は疑いました。
密命というのが本当なら、はじめからそう言えば良いでしょう。
内容は言えないが、これから少し忙しくなる……とでも言ってくだされば、私がこんなことを訊くことは無かったのだから。
幼少の頃から殿下を見ている私は、密命というのが殿下の嘘であるだろうと感じていました。
そこで公爵家へと戻った際、お父様に訊いてみることにしたのです。
「お父様、お尋ねしたいことがあります。」
「何だ?」
「ザーディヌ殿下が国王陛下から密命を受けているというのは、本当でしょうか?」
「ん?そんな話は聞いていないな。陛下に尋ねてもいいが、おそらく密命など命じていないと仰るはずだぞ。」
「そうですか。分かりました。」
お父様と国王陛下は幼なじみで、互いに隠し事はしないようにしていると聞いたことがありました。
友人として、国王陛下から相談を受けることも珍しくありません。
そんなお父様が聞いていないとなると、可能性は2つ。
1.国王陛下がお父様にすら話していない。
2.ザーディヌ殿下が嘘をついている。
前者は考えにくいので、後者が濃厚でしょう。
つまりは自室で何かをしているということ。
次に仕事を頼まれた場合、確認することにしました。
「あとを頼めるか?」
「分かりました。」
そう言って退室されたザーディヌ殿下。
早々に仕事を片付け、私は殿下の自室へと向かいました。
「ザーディヌ殿下、シュレアです。いらっしゃいますか?」
……。
何も反応がありません。
近くの兵士に、自室にいらっしゃるということは確認しています。
居留守をするつもりでしょうか…。
なら何か理由があるはず。
「殿下、いらっしゃらないのですか?開けますよ。」
私はドアを開けました。
するとそこには、ザーディヌ殿下ともう一人居たのです。
「……あなたは誰ですか?」
「え、えぇ……?」
突然の申し出に、お父様は困惑しています--
私はシュレア・セルエリット、18歳。
セルエリット公爵家の次女です。
私には7歳の時から婚約者がいます。
ザーディヌ・フィー・ガーナス殿下です。
この国、ガーナス王国の第2王子であり、容姿端麗で仕事も出来る方だと知られています。
しかし現実はそう単純なものではありません。
私は知っています、彼の本当の姿を。
「何故…婚約破棄したいんだ……?」
「我慢の限界だからです。」
「何を我慢していたんだ?」
「お父様を含め、関わっている人以外は誰も知りはしないでしょう。ザーディヌ殿下の最低さときたら……。」
「ちょ、待て待て。言葉が過ぎるぞ。王族たる殿下のことを最低だなんて…!」
「お父様は何も知らないから、そのようなことが言えるのです!私はどうなろうと構いませんから、婚約破棄させてください!決して公爵家には迷惑をかけませんから!」
「はぁ……。首を縦に振ることは出来ん話だ。シア、もう一度考え直せ。」
「しかし…!」
「今日のところはもう寝ろ。この話は聞かなかったことにする。良いな?」
「……分かりました…。」
断られてしまいました。
まぁ当然と言えば当然でしょう。
一国の王子との婚約を破棄するなど、普通はありえないのですから。
しかし私は彼と結婚するくらいなら家出をします。
えぇ絶対に家出します。
全ては3年前、15歳の時に始まったのです--
第2とはいえ王子であられるザーディヌ殿下は、15歳の成人を迎えたと同時に、王族としての仕事を任されていました。
私は婚約者として、仕事の補佐を行っていたのですが……
「すまないシュレア。この後用があってな。残りを頼めるか?」
「分かりました。しかしご用事とは一体…?」
「シュレア。」
「……申し訳ありません。どうぞ行ってらっしゃいませ。」
「ああ。」
この時は特に気にもしていませんでした。
何の用事なのかということを。
王族として、極秘のことでもあるのでしょう。
そう思っていたのです。
「シュレア、今日も用事がある。」
「……分かりました。あとはこちらで終わらせておきます。」
「助かる。」
2、3日間隔で、仕事を私に任せて何処かへ行かれるようになりました。
数ヶ月そのような日々が続いた頃、私は不満と怒りが溜まっていました。
ザーディヌ殿下が部屋を出ていかれたあと、それらが爆発してしまったのです。
「--何が『助かる』、ですか!王族として仕事が、そう頻繁にあるわけが無いでしょう!はぁ……やってられないわ…。……一体何をしていらっしゃるのか、確かめた方がいいわよね。」
そういう考えに至った私は、早急に残りを片付けて聞き込みをすることにしました。
仕事を行っているのは王城の一室です。
つまりは部屋を出ると城を守る兵士達が沢山いるのです。
ザーディヌ殿下の姿を見ていないという者はいないでしょう。
「そこの方……少しいいかしら?」
「はっ!シュレア様、何か御用でしょうか?」
「ザーディヌ殿下を見かけなかった?」
「殿下ならあちらの方に行かれましたよ。」
「分かったわ。ありがとう。」
聞き込みを続け、着いた場所は殿下の自室でした。
やはりご自分の部屋で何かされていたのでしょう。
その日は引き返すことにしました。
私は殿下の代わりに行った仕事を、ザーディヌ殿下自らがされているということにし、全てを彼の成果としていました。
補佐である私の評価も上がりましたが、実際はほとんどの仕事を私一人で行っていたので、殿下に対する評価は私への評価と同義でした。
1年が経ったある日、これ以上我慢出来なかった私は、尋ねることにしました。
「シュレア、すまないが今日も……。」
「ザーディヌ殿下。そろそろ教えて頂けませんか?いつも何をされているのか。」
「……。」
「言えないようなことなのですか?周囲の兵士達からは、殿下が自室に戻られるところを見たと聞きました。以前は2、3日程度でしたが、最近は2日連続で抜けられることもあります。理由を教えて頂けなければ、これ以上仕事を代わりに行うことは致しかねます。」
「……君は不満が溜まっているようだな。」
「当然です。」
「しかし、何をしているかは言えない。ただこれだけは言っておこう。父上……国王陛下からの密命で動いているのだ。だからそれ以上訊かないでくれ。」
「……。」
私は疑いました。
密命というのが本当なら、はじめからそう言えば良いでしょう。
内容は言えないが、これから少し忙しくなる……とでも言ってくだされば、私がこんなことを訊くことは無かったのだから。
幼少の頃から殿下を見ている私は、密命というのが殿下の嘘であるだろうと感じていました。
そこで公爵家へと戻った際、お父様に訊いてみることにしたのです。
「お父様、お尋ねしたいことがあります。」
「何だ?」
「ザーディヌ殿下が国王陛下から密命を受けているというのは、本当でしょうか?」
「ん?そんな話は聞いていないな。陛下に尋ねてもいいが、おそらく密命など命じていないと仰るはずだぞ。」
「そうですか。分かりました。」
お父様と国王陛下は幼なじみで、互いに隠し事はしないようにしていると聞いたことがありました。
友人として、国王陛下から相談を受けることも珍しくありません。
そんなお父様が聞いていないとなると、可能性は2つ。
1.国王陛下がお父様にすら話していない。
2.ザーディヌ殿下が嘘をついている。
前者は考えにくいので、後者が濃厚でしょう。
つまりは自室で何かをしているということ。
次に仕事を頼まれた場合、確認することにしました。
「あとを頼めるか?」
「分かりました。」
そう言って退室されたザーディヌ殿下。
早々に仕事を片付け、私は殿下の自室へと向かいました。
「ザーディヌ殿下、シュレアです。いらっしゃいますか?」
……。
何も反応がありません。
近くの兵士に、自室にいらっしゃるということは確認しています。
居留守をするつもりでしょうか…。
なら何か理由があるはず。
「殿下、いらっしゃらないのですか?開けますよ。」
私はドアを開けました。
するとそこには、ザーディヌ殿下ともう一人居たのです。
「……あなたは誰ですか?」
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