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16話 意志
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ゼーファ殿下によると、私が婚約破棄された翌日以降、貴族達は書類仕事の全てをジルファーに持って行ったそう。だが当然ジルファーに仕事をする意思は無く、さらには許可無く部屋に来た者には罰を与えるとまで言い出したのだ。
滞っていく書類に貴族達が頭を悩ませていた時、ジルファーへ国王陛下が直々に叱責されたという。そうして数日は大人しく、貴族達の助言を受けながら仕事を片付けていた。
だが……
『もう無理だ!父上の命令だからと従っていたが、仕事などできるものでやれば良いだろう!』
結局、ジルファーは貴族達に仕事を丸投げするようになり、自分は貴族令嬢達と遊んでばかり。
「妾にとっては、愚弟が仕事をしない状況は好機じゃった。自ら次期国王に相応しくないと示しているようなものじゃなからな。そして現状、一部の仕事は妾が代わりに行っておる。」
「…!それは殿下の評価を高める、良い結果に繋がりますね。ですがジルファー殿下は、自分の評価が落ちると分かっているのですか?」
「さすがに分かっておるじゃろう。しかしあやつにも、あやつなりの考えがあるようなのじゃ。」
ジルファーは、人それぞれに向いている仕事をやらせることで、効率が良くなると考えているという。そして自分も仕事を行わずに済むので、一石二鳥だと…。国王陛下のやり方では効率が悪いと、ゼーファ殿下に言ったことがあるそう。
「『適材適所』、そういった面ではあながち間違いではない。仕事の効率化を図ること自体は、悪いことでは無いからの。じゃが最終の決定権を国王が持っていなければ、貴族が好き勝手できるであろう?」
「仰る通りですね。」
国王や王太子が書類へ名を書くのは、その書類に書かれた内容を通すか否かを決めるため。それを貴族にさせてしまうと、不正をしていたとしても気付くことができず、さらには国王としての権力が無くなってしまうも同義だ。
ゼーファ殿下が仰ったように、物事の『最終決定権』を国王が持っていなければ、貴族が実権を持ち、国王はお飾りの王と成り下がるのである。
「権力を得たい下級貴族や、自己利益しか考えておらぬ貴族が、愚弟の下に付いているのじゃ。」
「…ゼンキースア公爵が頑なにジルファー殿下の後ろ盾となっているのは……。」
「そういう意味じゃろうな…。」
『自己利益しか考えていない貴族』、正しくゼンキースア公爵だ。これで色々と理解できた。
公爵にとっても、ジルファーの婚約者であった私が常に邪魔だったのだろう。自分の利益になるよう物事を進めようとも、私が書類にサインしなければ受理されないのだから。
そして王国と国王陛下の為に動いていた私は、貴族から上がってくる書類全てに目を通し、王国の為になるような書類しか通さなかった。貴族のみの利益にしかならないと判断した書類には、決してサインしなかったのだ。
「愚弟が王となれば、この国は崩壊するじゃろう。貴族が贅沢をし、それを知った民達が反乱を起こす…。そうなることは目に見えておる。その反乱を鎮めるために貴族が民を殺せば、どうなると思う?」
「民が減り、税を払う者が居なくなりますね。そうなれば、王族や貴族は生活をすることさえ苦しくなるでしょう。或いは貴族の私兵が反乱軍側に付くかと。」
「その通りじゃ。王族も貴族も、先ずは民達によって生かされているのだと理解しなければならぬ。」
私兵の多くは平民だ。故に平民達が反乱を起こした場合、兵達は反乱軍側に付くだろう。そうなれば貴族は自分を守る兵がいなくなり、あっさりと負ける。
そして反乱は広がっていき、国王が倒されるまで続くだろう。
「しかし、不正を行うような貴族がおれば、良き貴族もおる。妾が味方に付けるべきなのは当然後者じゃ。王国の未来を憂える貴族を味方に付けなければならぬ。」
「……。」
「妾はこの国が誰よりも好きじゃ。今よりもよい国にしていきたいと強く考えておる。その為にも、真逆の結果を導かんとするジルファーが王となることは避けたい。」
何の迷いも感じさせない、ただただ真っ直ぐなゼーファ殿下の意志を感じた。本当にアンドレイズ王国を良き国にしたいのだと分かる。
ゼーファ殿下は、改まった様子で私に向き直った。
「妾が王となる為に、力を貸してはくれぬだろうか?」
滞っていく書類に貴族達が頭を悩ませていた時、ジルファーへ国王陛下が直々に叱責されたという。そうして数日は大人しく、貴族達の助言を受けながら仕事を片付けていた。
だが……
『もう無理だ!父上の命令だからと従っていたが、仕事などできるものでやれば良いだろう!』
結局、ジルファーは貴族達に仕事を丸投げするようになり、自分は貴族令嬢達と遊んでばかり。
「妾にとっては、愚弟が仕事をしない状況は好機じゃった。自ら次期国王に相応しくないと示しているようなものじゃなからな。そして現状、一部の仕事は妾が代わりに行っておる。」
「…!それは殿下の評価を高める、良い結果に繋がりますね。ですがジルファー殿下は、自分の評価が落ちると分かっているのですか?」
「さすがに分かっておるじゃろう。しかしあやつにも、あやつなりの考えがあるようなのじゃ。」
ジルファーは、人それぞれに向いている仕事をやらせることで、効率が良くなると考えているという。そして自分も仕事を行わずに済むので、一石二鳥だと…。国王陛下のやり方では効率が悪いと、ゼーファ殿下に言ったことがあるそう。
「『適材適所』、そういった面ではあながち間違いではない。仕事の効率化を図ること自体は、悪いことでは無いからの。じゃが最終の決定権を国王が持っていなければ、貴族が好き勝手できるであろう?」
「仰る通りですね。」
国王や王太子が書類へ名を書くのは、その書類に書かれた内容を通すか否かを決めるため。それを貴族にさせてしまうと、不正をしていたとしても気付くことができず、さらには国王としての権力が無くなってしまうも同義だ。
ゼーファ殿下が仰ったように、物事の『最終決定権』を国王が持っていなければ、貴族が実権を持ち、国王はお飾りの王と成り下がるのである。
「権力を得たい下級貴族や、自己利益しか考えておらぬ貴族が、愚弟の下に付いているのじゃ。」
「…ゼンキースア公爵が頑なにジルファー殿下の後ろ盾となっているのは……。」
「そういう意味じゃろうな…。」
『自己利益しか考えていない貴族』、正しくゼンキースア公爵だ。これで色々と理解できた。
公爵にとっても、ジルファーの婚約者であった私が常に邪魔だったのだろう。自分の利益になるよう物事を進めようとも、私が書類にサインしなければ受理されないのだから。
そして王国と国王陛下の為に動いていた私は、貴族から上がってくる書類全てに目を通し、王国の為になるような書類しか通さなかった。貴族のみの利益にしかならないと判断した書類には、決してサインしなかったのだ。
「愚弟が王となれば、この国は崩壊するじゃろう。貴族が贅沢をし、それを知った民達が反乱を起こす…。そうなることは目に見えておる。その反乱を鎮めるために貴族が民を殺せば、どうなると思う?」
「民が減り、税を払う者が居なくなりますね。そうなれば、王族や貴族は生活をすることさえ苦しくなるでしょう。或いは貴族の私兵が反乱軍側に付くかと。」
「その通りじゃ。王族も貴族も、先ずは民達によって生かされているのだと理解しなければならぬ。」
私兵の多くは平民だ。故に平民達が反乱を起こした場合、兵達は反乱軍側に付くだろう。そうなれば貴族は自分を守る兵がいなくなり、あっさりと負ける。
そして反乱は広がっていき、国王が倒されるまで続くだろう。
「しかし、不正を行うような貴族がおれば、良き貴族もおる。妾が味方に付けるべきなのは当然後者じゃ。王国の未来を憂える貴族を味方に付けなければならぬ。」
「……。」
「妾はこの国が誰よりも好きじゃ。今よりもよい国にしていきたいと強く考えておる。その為にも、真逆の結果を導かんとするジルファーが王となることは避けたい。」
何の迷いも感じさせない、ただただ真っ直ぐなゼーファ殿下の意志を感じた。本当にアンドレイズ王国を良き国にしたいのだと分かる。
ゼーファ殿下は、改まった様子で私に向き直った。
「妾が王となる為に、力を貸してはくれぬだろうか?」
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