【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒

文字の大きさ
上 下
13 / 34

13話 王女殿下

しおりを挟む
「知っているとは思うが、妾の名はゼーファ・アンドレイズじゃ。」

「Sランク冒険者、リエラと申します。本日はご招待いただき、ありがとうございます。」



 ゼーファ殿下は比較的穏やかな方だ。しかし曲がったことが嫌いで、芯はしっかりしている。話し方もあってか、舐められるようなこともない。王女でありながら、あそこまではっきりとものが言えるのは珍しいと、貴族達はよく言っていた。
 確かに、記録に残っている過去の王女殿下達は、国王陛下に従っている場合が多い。権力は勿論、発言力や城下に赴けるほどの自由も無かったからだ。王女としての地位はあれど、様々なことを決める権力自体はそれほど持たないのである。

 しかし今世の王女であられるゼーファ殿下は、どちらかと言えば自由奔放な方だ。城下や栄えている場所などによく赴き、先日まで隣国に留学していたほど。それらを許可された国王陛下も、相変わらず素晴らしい見識をお持ちだ。
 そして殿下は知識にも貪欲で、自分が興味を持ったことには、納得するまで調べ上げる。故に、正体を隠している今の私にとっては、危険視すべき相手でもあった。調べられたら厄介だからだ。



「今の妾には、時間が無いからの…。」



 殿下はポツリと呟き、暗い表情をされている。
 その様子に、私は思わず問いかけた。



「時間……ですか…?」

「うむ…。妾は地位こそあれと、権力を持たぬ。魔法や剣技の腕は、凡人に毛が生えた程度じゃろう。故に何かを成せるほどの力は無い。」

「……。」

「時にリエラよ、妾がこのような態度を取るようになった理由を、知っておるか?」

「い、いえ…。」

「簡単に言えば、貴族達に舐められないようにするためじゃ。そして歴代の王女のように、王の言いなりになるになるつもりはないと、妾は妾であると知らしめるためじゃ。こうまでしなければ、妾はただの政治道具に過ぎなかった。」



 そう言われ、私は初めて今までのゼーファ殿下の行動に納得がいった。
 城下などに住まう平民の暮らしを自らの目で見て学び、見聞を広めるために留学までした。さらには興味のあることは全て知識として吸収し、魔法や剣技の技術も磨いている。
 これらが示すのはただ一つ……



「聡いお主なら、妾の考えが分かったであろう?」

「……国の王…、つまりは女王を目指すおつもりなのですね。」

「その通りじゃ。」



 これほど女性が格好よく見えたのは初めてだ。迷いのない瞳と態度。それらからは強い意志を感じられる。
 …私の求めている人は、ゼーファ殿下なのではと思えてきた。



「しかし冒険者である私に、そのような重大な話をしてもよろしかったのですか?」

「構わぬ。妾とて半端な覚悟で王を目指している訳ではない。それに、お主に何故このような話をしたのかは、お主自身が一番分かっておるであろう。」

「…圧倒的な武力…ですね。」



 現在、ゼーファ殿下は自身を守る『強力な盾』が居ない状況だ。騎士団や兵を動かす権利があるのは国王陛下のみだが、王太子直属の近衛騎士団であれば、ジルファーも動かすことができる。
 しかしゼーファ殿下には、直属の近衛騎士団が存在しない。ご自分で集められた従者、或いは陛下が付けている護衛数人しか、身を守ってくれる存在がいない。暗殺者への対策はできているとはいえ、ジルファーが本気を出せばゼーファ殿下は簡単に消されてしまうだろう。
 殿下が王位継承争いを仕掛けていない理由は、そこにあったのだ。



「…やはりお主は必要な人材じゃ。」

「やはり…?」

「もう芝居はよそう。お主も演技をやめて良いぞ?この場には、妾と最も信頼の厚き側近であるリリアナしか居らぬ。」

「……演技とは、一体何の話でしょう?」

「隠さずとも分かっておるのじゃ、冒険者リエラ殿。」



 威厳溢れる態度でありながら、その口調は優しげだ。
 この時点で、私は既に正体がバレているのだと察した。……いや、初めから分かっていたことだ。この方に隠し事は通用しない…。



「……。」

「そう警戒するでない。妾はお主と敵対するほど、愚かではない。」



 遠回しにジルファーを『愚か者』だと言っている気がするが…。そこは気にしないでおこう。
 それよりも、今重要なのは正体を明かすべきかどうかだ。
 ゼーファ殿下は確信を得られなければ、このようなことはしない。賭けに出ることはあれど、それは負けてもそれほど影響のない賭けだ。

 私は意を決し、仮面を取った。同時に髪色や声音も戻す。



「……息災そうで何よりじゃ、ラリエット。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

めぐめぐ
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。 彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。 婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を―― ※終わりは読者の想像にお任せする形です ※頭からっぽで

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...