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9話 国王
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「…お久しぶりです、陛下。」
私は魔力をラリエットだった時の偽りのものに変え、さらに髪色も元に戻した。
「本当に…ラリエットなのか……?」
「はい。既にその名は捨てましたが…。」
陛下は申し訳なさと、それでいて再会できた事に対する嬉しさが入り混じり、複雑な感情になられている様子。その証拠に、何とも言えないような表情をされていた。
「陛下…、ご期待に添うことができず、申し訳ありませんでした…。」
「そなたが謝る必要は無い、悪いのは余の愚息だ。本当にすまなかった…。隣国に赴いている間に、ジルファーがあのような行動を起こすとは、思ってもいなかったのだ。……いや、全て言い訳よな。余が愚息の行動を読み切れていなかったのが原因だ。」
陛下は私が婚約破棄されたあの日、ジルファーのみを王国に残したことを悔いているのだろう。パーティーという公の場で婚約破棄を言い渡すことができる機会を、ジルファーに与えていなければ……と。
だがいずれ私は婚約破棄されていた。それがあのタイミングだったというだけに過ぎない。誰が悪いのかを強いて言うならば、どう考えてもジルファーだ。
「陛下がお気に病まれることはありません。ジルファー殿下は、ずっと私との婚約を破棄したいと考えておられました。つまり、いずれはこうなっていたということです。公爵家の追放も、あの両親ならするだろうと…。」
「……全て分かっていた上で、婚約破棄を受けたのか…。」
本当は、あのパーティー中に婚約破棄されると分かっていた。故に、何か理由を付けてパーティーを休みさえすれば、婚約破棄を避けることは容易だったのだ。
だが私はジルファーに嫌気が差していた。仕事もせず、他の貴族令嬢と自室でイチャついているだけの王太子など、最低の塊だ。そもそも好きで婚約した訳でもない。だからこそ、あの地獄のような公爵家から抜け出すためにも、あえてパーティーに出席したのだ。
「それにしても、まさかラリエットが冒険者リエラだったとはな。仮面を取るまで全く気が付かなかった。その仮面には、魔力の質を変える効果があるのか?」
「はい、そのような物です。」
陛下に対し、私は初めて嘘を吐いた。それも平然と…。
だが罪悪感は無い。これも自己防衛の一環だ。嘘が後々役に立つこともあるのだから。
「ラリエット……いや、リエラ殿よ。これまで王太子妃として王国のために尽力してくれたこと、感謝する。そして今でも王国を守ってくれていることに、重ねて感謝している。」
「…私は、私がしたいようにしているだけですので……。それに、感謝を述べるべきは私の方です。王城に居た頃、陛下があらゆる悪意から私を守ってくださっていたこと、本当に感謝しております。」
私は深々と頭を下げた。
ジルファーの婚約者として王城に居た時、闇魔法を嫌う者や王太子妃の座を狙わんとする者達から、あらゆる方法で貴族なりの『攻撃』を仕掛けられていた。パーティーやお茶会での孤立、わざと飲み物をドレスにこぼされることもあった。最も酷かったのは、暗殺者を向けられたことだ。勿論、暗殺者程度に殺されはしないが、鬱陶しいとは思っていた。
しかしある日、突然それらの嫌がらせが激減した。何故なのかと原因を調べてみれば、国王陛下が動いた可能性があると分かったのだ。
「……調べたのだな。」
「失礼ながら…。真実を知っていなければ、こうして感謝をお伝えすることもできませんから。」
「末恐ろしいとはこのことよな…。」
その後、陛下と少しだけ雑談を楽しんだ。冒険者として魔物と戦った話や、ディールト兄様と妹エリルが私の正体を知っていること、その他様々な話をした。陛下が楽しそうにしておられたので、話して良かったと思った。
「この国の王として、今後冒険者リエラに依頼を出すかもしれぬ。」
「その時は、喜んでお引き受け致します。」
「ああ、頼もう。」
そうして、私はギルドに戻った。
一段落ついたと思い、ギルドマスターの部屋に肩の荷を下ろしたような気分で入ったのだが……
「これは…?」
「王族からの招待状だ。」
面倒事の予感がした──
私は魔力をラリエットだった時の偽りのものに変え、さらに髪色も元に戻した。
「本当に…ラリエットなのか……?」
「はい。既にその名は捨てましたが…。」
陛下は申し訳なさと、それでいて再会できた事に対する嬉しさが入り混じり、複雑な感情になられている様子。その証拠に、何とも言えないような表情をされていた。
「陛下…、ご期待に添うことができず、申し訳ありませんでした…。」
「そなたが謝る必要は無い、悪いのは余の愚息だ。本当にすまなかった…。隣国に赴いている間に、ジルファーがあのような行動を起こすとは、思ってもいなかったのだ。……いや、全て言い訳よな。余が愚息の行動を読み切れていなかったのが原因だ。」
陛下は私が婚約破棄されたあの日、ジルファーのみを王国に残したことを悔いているのだろう。パーティーという公の場で婚約破棄を言い渡すことができる機会を、ジルファーに与えていなければ……と。
だがいずれ私は婚約破棄されていた。それがあのタイミングだったというだけに過ぎない。誰が悪いのかを強いて言うならば、どう考えてもジルファーだ。
「陛下がお気に病まれることはありません。ジルファー殿下は、ずっと私との婚約を破棄したいと考えておられました。つまり、いずれはこうなっていたということです。公爵家の追放も、あの両親ならするだろうと…。」
「……全て分かっていた上で、婚約破棄を受けたのか…。」
本当は、あのパーティー中に婚約破棄されると分かっていた。故に、何か理由を付けてパーティーを休みさえすれば、婚約破棄を避けることは容易だったのだ。
だが私はジルファーに嫌気が差していた。仕事もせず、他の貴族令嬢と自室でイチャついているだけの王太子など、最低の塊だ。そもそも好きで婚約した訳でもない。だからこそ、あの地獄のような公爵家から抜け出すためにも、あえてパーティーに出席したのだ。
「それにしても、まさかラリエットが冒険者リエラだったとはな。仮面を取るまで全く気が付かなかった。その仮面には、魔力の質を変える効果があるのか?」
「はい、そのような物です。」
陛下に対し、私は初めて嘘を吐いた。それも平然と…。
だが罪悪感は無い。これも自己防衛の一環だ。嘘が後々役に立つこともあるのだから。
「ラリエット……いや、リエラ殿よ。これまで王太子妃として王国のために尽力してくれたこと、感謝する。そして今でも王国を守ってくれていることに、重ねて感謝している。」
「…私は、私がしたいようにしているだけですので……。それに、感謝を述べるべきは私の方です。王城に居た頃、陛下があらゆる悪意から私を守ってくださっていたこと、本当に感謝しております。」
私は深々と頭を下げた。
ジルファーの婚約者として王城に居た時、闇魔法を嫌う者や王太子妃の座を狙わんとする者達から、あらゆる方法で貴族なりの『攻撃』を仕掛けられていた。パーティーやお茶会での孤立、わざと飲み物をドレスにこぼされることもあった。最も酷かったのは、暗殺者を向けられたことだ。勿論、暗殺者程度に殺されはしないが、鬱陶しいとは思っていた。
しかしある日、突然それらの嫌がらせが激減した。何故なのかと原因を調べてみれば、国王陛下が動いた可能性があると分かったのだ。
「……調べたのだな。」
「失礼ながら…。真実を知っていなければ、こうして感謝をお伝えすることもできませんから。」
「末恐ろしいとはこのことよな…。」
その後、陛下と少しだけ雑談を楽しんだ。冒険者として魔物と戦った話や、ディールト兄様と妹エリルが私の正体を知っていること、その他様々な話をした。陛下が楽しそうにしておられたので、話して良かったと思った。
「この国の王として、今後冒険者リエラに依頼を出すかもしれぬ。」
「その時は、喜んでお引き受け致します。」
「ああ、頼もう。」
そうして、私はギルドに戻った。
一段落ついたと思い、ギルドマスターの部屋に肩の荷を下ろしたような気分で入ったのだが……
「これは…?」
「王族からの招待状だ。」
面倒事の予感がした──
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