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6章 始まりの魔法
第88話 魔眼
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「セラと話をするのは構わないが……、1つ聞いてもいいか?」
少し真剣な表情になりそう言ったレイ。
私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「何かしら。」
「その眼、魔眼だな。『透視心眼』、違うかい?」
「……驚いた。隠しているつもりだったのだけれど。」
レイの前で魔法具体《魔刃眼》は使ったことがある為、そちらは疑われても不思議ではない。
しかし魔眼である『透視心眼』は、昨夜レイと出会ってから一度も使っていない。
気付かれるようなこともしていないはず。
「何故分かったの?」
「同じ眼があるからさ。」
そう言われ、納得した。
ダナト・シグザレンやジルディガーもそうだったが、まさか賢者まで同じ眼を持っていたとは。
レイの言っていた『面倒なしがらみ』とは貴族のことを指したのだろう。
この魔眼を持っていれば、貴族がどれほど厄介な存在かが分かる。
……貴族が面倒なのは、魔眼が無くとも分かることかもしれないが…。
「レイは昔、貴族だったのかしら。」
「ああ、そうさ。侯爵家の長女だったアタシは、20代で賢者の称号を与えられ、位としては国王と公爵の間だった。だが後に冒険者ギルドを創り、貴族としての地位は捨てた。」
「なるほどね…。」
貴族、平民、聖職者など、この世界に生きる全ての者を平等に受け入れ、広い世界を冒険する者、つまりは『冒険者』として送り出す。
そんな組織を創設し、名を変えながら冒険者ギルド総マスターとして今まで生きてきたそうだ。
冒険者ギルドでは、初代ギルド総マスターである賢者レイは永遠の眠りについたと伝えられている。
しかしそれは当然レイの流した偽の情報であり、総マスターだからこそできる情報操作だろう。
「話が逸れてしまったが…。アタシがリアラの眼を魔眼か確認したのは、セラと話をさせるに当たって嘘を吐く可能性があるからだ。考えたくは無いがな…。」
「心を読めるのだから、言葉の真偽は問題ないでしょう。それとセラさんには賢者であることを明かしているの?」
「いいや、何も知らないさ……。」
視線を逸らしつつ、覇気のない様子でそう答えたレイ。
その態度で、セラに正体を明かしていない理由が分かった。
敵に回った際に有利に立ち回る為なのだ。
もし予め賢者だと知っていれば、対策される恐れがある。
セラに裏切る気が無くとも、誰かに操られる可能性を考えれば、正体を隠しておくに越したことはないだろう。
「『セラさんの指定した時間に合わせる』と、そう伝えて欲しいわ。それとレイは抜きで、私、ミアス、セラさんの3人で話がしたいのだけれど。」
「構わない。セラに伝えるとしよう。」
「感謝するわ。それにしても、数百年に1人しか生まれてこないと言われている魔眼持ちが、現代に4人もいたとはね。1人は既に亡くなったも同然な状態なのだけれど……。」
「数百年に1人?それはどこの情報だ?」
レイが少し驚いている様に見える。
目を見開きながら、私に聞いてきたのだ。
信じられないと思っている表情だろう。
「王城に保管されている文献には、そう書いてあったわよ。魔眼は『魔族の眼』を意味し、昔は魔眼持ちは忌み嫌われる存在だったとか。」
「はぁ…、誰だ?そんな嘘を書いたのは。」
呆れた様子で、レイは『魔眼』についての正しい知識を話し始めた。
レイが生まれた100年以上前の当時、魔眼を持って生まれてくる者は50人に1人ほどいた。
つまり数は少なくとも、珍しいという訳ではなかったのだ。
魔眼の種類も様々なものがあり、『透視心眼』は最も多い魔眼だった。
だが魔眼を持っている何よりの利点は、魔力量が生まれつき多くなること。
現在より魔物との戦闘が激しかった当時は、魔眼持ちが強力な魔法使いとして重宝されていた。
魔眼は『魔族の眼』ではなく、『魔法の眼』という意味がはじまりだったのだ。
「──とはいえ利点があれば当然欠点もある。生まれ持った魔力量が大き過ぎるが故に制御出来ず、赤子が周囲に被害をもたらす場合がよくあった。時には死人も出てな…。すると教会が信者を集める為に、とんでもないことを言い出したのさ。
『魔眼持ちは魔族の生まれ変わりである。だからこそ赤子であっても人々を苦しめるのだ』…と。」
この世界では、魔族は物語のみに登場する伝説上の存在とされている。
人語を解し魔物を操ることが出来た人型の魔物を、人々は『魔族』と呼んだ。
物語では、最強と謳われる者5人でパーティーを編成し、魔族を殲滅したと書かれている。
しかしそれは数百年、或いは数千年以上前の話であり、魔族が本当に実在したかも分からない。
ただの伝説でしかないが、物語には魔族に関する事も書かれている。
『魔族は魔物を操り、人を襲う。人語を解すが馴れ合うことは不可能。強力な魔眼と尽きぬほどの絶大なる魔力を持ち、他種族を襲う。』
大昔に殲滅された魔族が転生したという教会の公言と、魔眼持ちへの畏怖が重なり、人々は魔眼持ちを避けるようになった。
さらには集団で暴力を振るう者も現れ、徐々に魔眼持ちの地位は下がっていった。
「──さらに教会は、『魔族狩り』と称して魔眼持ちを殲滅し始めたのさ。」
「なるほどね。それで数が減ってしまったと…。なら『数百年に一度生まれてくる魔眼持ちは、魔族の生まれ変わりである』というのは、教会が広めた虚言なのね。」
「その通り。狂言と言っても過言ではないな。教会は表向きは人を救う場所だが、裏の顔は血で染っているのさ。神の意志と言ってしまえば、何でもありという事だな。」
忌々しそうに言うレイ。
魔法が好きな者からすれば、魔眼という希望溢れる存在を潰されるのは酷なものだ。
魔眼持ちは魔力の流れを繊細に感じ取ることができ、制御さえ出来てしまえば強者に至れる。
レイは自身と同格の存在が現れるのを待っていたのだろう。
だが教会の手によって、その可能性を限りなく潰されてしまった。
故に、表に出さないだけで教会に対する恨みは相当ある様子。
「とはいえいくら人道に反していようと、訴えることなど出来ない。世界中に根を張る教会を敵に回すような愚を犯すほど、アタシは馬鹿じゃないからな。」
「私としては、書物に書かれていない話を聞けて良かったわ。ありがとう。」
「役に立ったのなら何よりだ。さて、話を戻そう。セラからの返事は、今日中に《連絡蝶》で知らせよう。」
「分かったわ。」
「それと──これを。冒険者カードだ。Sランクになっているぞ。確認してくれ。」
レイから冒険者カードを受け取り、書かれている文字に目を通す。
Aランク表記がSランクに変わっていた。
どうやらサインなどせずとも、Sランクの手続きは出来たようだ。
そうして無事Sランク冒険者となった私とミアスは、〈ギルド総マスター〉の部屋を出た後に転移魔法にて王城へと戻ったのだった。
少し真剣な表情になりそう言ったレイ。
私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「何かしら。」
「その眼、魔眼だな。『透視心眼』、違うかい?」
「……驚いた。隠しているつもりだったのだけれど。」
レイの前で魔法具体《魔刃眼》は使ったことがある為、そちらは疑われても不思議ではない。
しかし魔眼である『透視心眼』は、昨夜レイと出会ってから一度も使っていない。
気付かれるようなこともしていないはず。
「何故分かったの?」
「同じ眼があるからさ。」
そう言われ、納得した。
ダナト・シグザレンやジルディガーもそうだったが、まさか賢者まで同じ眼を持っていたとは。
レイの言っていた『面倒なしがらみ』とは貴族のことを指したのだろう。
この魔眼を持っていれば、貴族がどれほど厄介な存在かが分かる。
……貴族が面倒なのは、魔眼が無くとも分かることかもしれないが…。
「レイは昔、貴族だったのかしら。」
「ああ、そうさ。侯爵家の長女だったアタシは、20代で賢者の称号を与えられ、位としては国王と公爵の間だった。だが後に冒険者ギルドを創り、貴族としての地位は捨てた。」
「なるほどね…。」
貴族、平民、聖職者など、この世界に生きる全ての者を平等に受け入れ、広い世界を冒険する者、つまりは『冒険者』として送り出す。
そんな組織を創設し、名を変えながら冒険者ギルド総マスターとして今まで生きてきたそうだ。
冒険者ギルドでは、初代ギルド総マスターである賢者レイは永遠の眠りについたと伝えられている。
しかしそれは当然レイの流した偽の情報であり、総マスターだからこそできる情報操作だろう。
「話が逸れてしまったが…。アタシがリアラの眼を魔眼か確認したのは、セラと話をさせるに当たって嘘を吐く可能性があるからだ。考えたくは無いがな…。」
「心を読めるのだから、言葉の真偽は問題ないでしょう。それとセラさんには賢者であることを明かしているの?」
「いいや、何も知らないさ……。」
視線を逸らしつつ、覇気のない様子でそう答えたレイ。
その態度で、セラに正体を明かしていない理由が分かった。
敵に回った際に有利に立ち回る為なのだ。
もし予め賢者だと知っていれば、対策される恐れがある。
セラに裏切る気が無くとも、誰かに操られる可能性を考えれば、正体を隠しておくに越したことはないだろう。
「『セラさんの指定した時間に合わせる』と、そう伝えて欲しいわ。それとレイは抜きで、私、ミアス、セラさんの3人で話がしたいのだけれど。」
「構わない。セラに伝えるとしよう。」
「感謝するわ。それにしても、数百年に1人しか生まれてこないと言われている魔眼持ちが、現代に4人もいたとはね。1人は既に亡くなったも同然な状態なのだけれど……。」
「数百年に1人?それはどこの情報だ?」
レイが少し驚いている様に見える。
目を見開きながら、私に聞いてきたのだ。
信じられないと思っている表情だろう。
「王城に保管されている文献には、そう書いてあったわよ。魔眼は『魔族の眼』を意味し、昔は魔眼持ちは忌み嫌われる存在だったとか。」
「はぁ…、誰だ?そんな嘘を書いたのは。」
呆れた様子で、レイは『魔眼』についての正しい知識を話し始めた。
レイが生まれた100年以上前の当時、魔眼を持って生まれてくる者は50人に1人ほどいた。
つまり数は少なくとも、珍しいという訳ではなかったのだ。
魔眼の種類も様々なものがあり、『透視心眼』は最も多い魔眼だった。
だが魔眼を持っている何よりの利点は、魔力量が生まれつき多くなること。
現在より魔物との戦闘が激しかった当時は、魔眼持ちが強力な魔法使いとして重宝されていた。
魔眼は『魔族の眼』ではなく、『魔法の眼』という意味がはじまりだったのだ。
「──とはいえ利点があれば当然欠点もある。生まれ持った魔力量が大き過ぎるが故に制御出来ず、赤子が周囲に被害をもたらす場合がよくあった。時には死人も出てな…。すると教会が信者を集める為に、とんでもないことを言い出したのさ。
『魔眼持ちは魔族の生まれ変わりである。だからこそ赤子であっても人々を苦しめるのだ』…と。」
この世界では、魔族は物語のみに登場する伝説上の存在とされている。
人語を解し魔物を操ることが出来た人型の魔物を、人々は『魔族』と呼んだ。
物語では、最強と謳われる者5人でパーティーを編成し、魔族を殲滅したと書かれている。
しかしそれは数百年、或いは数千年以上前の話であり、魔族が本当に実在したかも分からない。
ただの伝説でしかないが、物語には魔族に関する事も書かれている。
『魔族は魔物を操り、人を襲う。人語を解すが馴れ合うことは不可能。強力な魔眼と尽きぬほどの絶大なる魔力を持ち、他種族を襲う。』
大昔に殲滅された魔族が転生したという教会の公言と、魔眼持ちへの畏怖が重なり、人々は魔眼持ちを避けるようになった。
さらには集団で暴力を振るう者も現れ、徐々に魔眼持ちの地位は下がっていった。
「──さらに教会は、『魔族狩り』と称して魔眼持ちを殲滅し始めたのさ。」
「なるほどね。それで数が減ってしまったと…。なら『数百年に一度生まれてくる魔眼持ちは、魔族の生まれ変わりである』というのは、教会が広めた虚言なのね。」
「その通り。狂言と言っても過言ではないな。教会は表向きは人を救う場所だが、裏の顔は血で染っているのさ。神の意志と言ってしまえば、何でもありという事だな。」
忌々しそうに言うレイ。
魔法が好きな者からすれば、魔眼という希望溢れる存在を潰されるのは酷なものだ。
魔眼持ちは魔力の流れを繊細に感じ取ることができ、制御さえ出来てしまえば強者に至れる。
レイは自身と同格の存在が現れるのを待っていたのだろう。
だが教会の手によって、その可能性を限りなく潰されてしまった。
故に、表に出さないだけで教会に対する恨みは相当ある様子。
「とはいえいくら人道に反していようと、訴えることなど出来ない。世界中に根を張る教会を敵に回すような愚を犯すほど、アタシは馬鹿じゃないからな。」
「私としては、書物に書かれていない話を聞けて良かったわ。ありがとう。」
「役に立ったのなら何よりだ。さて、話を戻そう。セラからの返事は、今日中に《連絡蝶》で知らせよう。」
「分かったわ。」
「それと──これを。冒険者カードだ。Sランクになっているぞ。確認してくれ。」
レイから冒険者カードを受け取り、書かれている文字に目を通す。
Aランク表記がSランクに変わっていた。
どうやらサインなどせずとも、Sランクの手続きは出来たようだ。
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