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シーズン7 奇跡の大同盟

第7−11話 皇帝と将軍の夢

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 何も信じない者に何かを成し遂げる事はできない。


 成功や勝利、時には恩師からの教えや神の存在。


人間は形のない何かを一途なまでに信じる事ができる。


 自身が見定めた何かのために一途に信じて、反対者を跳ね除ける事のできるごく一部の者だけが、その先に待つ夢へと辿り着くのだ。


「戦争のない天上界を作るんだ!!!!」


 レミテリシア将軍は突如として絶叫した。


驚きのあまり静寂に包まれた謁見の間で、数秒の沈黙が保たれた後に爆笑の嵐が巻き起こった。


 この将軍は何を寝言を言っているのだと笑う文官共の視線はまるで、子供でも見ているかの様に小馬鹿にしたものであった。


 戦争のない天上界なんてものは天王ゼウスを持ってしてもできない事だと笑う文官共は、面白い冗談でも言ってもらったかの様に満足げに呼吸を整えると、本題へ戻ろうとした。


 するとレミテリシアは背中に背負う双剣を抜くと、甲高い音が謁見の間に響いた。


 小馬鹿にされた事に激昂した将軍が、乱心したのかと衛兵が入ってくると槍先を彼女の綺麗な顔に向けている。


それを皇帝が静かに見ている中で、レミテリシアは双剣を謁見の間の石床に突き刺したのだ。


「永遠に怯えて暮らすか? 永遠に大衆に流されて生きていくのか? お前らの様な無知なる者が権力を手にするから戦争が終わらないのだ・・・皇帝陛下!! 貴殿の遠縁であるスタシアのアルデン王は、我が皇帝鞍馬虎白の夢を信じています。 陛下も決める時が来ました」



 魂の雄叫びにも値いするレミテリシアの強烈な言葉は、卑しき文官共には響かなかった。


 失笑した後に、再び喚き散らした愚者共の中でレミテリシアと皇帝だけは互いの瞳を捉えて離さなかった。


 皇帝は険しい表情をしてうつむくと、傍らで腕を組む皇太子の顔を見た後に立ち上がった。


再び静寂に包まれた謁見の間で、視線は薔薇の国の皇帝へと集中した。


「長い年月皇帝を務めた。 多くの勇猛なる将軍に出会ってきた。 だがそなたに勝る将軍は見た事がない。 敵国の人間に囲まれながら、皇帝である余にここまで言葉を発するとはな」


 皇帝は小さく拍手をすると、レミテリシアの美しい顔を見てからゆっくりとうなずいた。


 そして玉座から一歩ずつ近づいてきた皇帝は、南の勇敢な将軍だけを見て進んでいる。


 両脇に立っている文官共は皇帝が前を通れば、ひれ伏すかの様に頭を下げて体を丸めているがレミテリシアは姿勢を正したまま、皇帝の顔だけを見ていた。


その時間はたったの数秒だと言うのに永遠に感じるほど長くもあった。


「戦争のない天上界を作るんだよ」


 永遠に感じる時の中で放たれた第六感は、レミテリシアの記憶を蘇らせた。


 穏やかな平原で布を敷いて、竹子の小さな手が握った飯を美味そうに食べる虎白は隣に座るレミテリシアにそんな夢の話しをした。


 いつだったか、もう遠い昔にすら感じるあの日の会話が何故か今になって鮮明に蘇ってくるのだ。


 戦争のない天上界を作ると話した虎白の言葉は、あまりに壮大であったが力強い眼差しで語っていた。


「姉さんと同じ夢だね」
「ああ、きっとあいつもそうだと思ったよ。 俺は必ずこの夢を叶える。 俺の夢を理解してくれる者は世界にたくさんいるはずだ」



 それは根拠もない自信だったはずだ。


だが正解だったのだ。


 北のアルデン王だけでなく、その遠縁に当たるローズベリーも虎白の夢を理解した。


だからこそ皇帝は自身に向かって、手を叩きながら歩いてきているのだ。


 第六感の中で巡らせた様々な思いの中で、レミテリシアがこの瞬間に一番思っているのは、感謝であった。


「姉さん、虎白・・・そしてみんなありがとう」


 やがて第六感を収めたレミテリシアは、笑顔の皇帝に一礼した。


そして面を上げろと言われて、肩に手を置かれるのだなと予感しているレミテリシアはその時を静かに待っていた。


 交渉は上手く行き、ローズベリーはスタシア陣営についたのだ。


 レミテリシアが小さく息を吐いて安堵した時だ。


 突如聞こえた銃声に目を見開いたレミテリシアは咄嗟とっさに顔を上げた。


「ち、父上ー!!!!」
「陛下!!!!」


 アニャ皇女がレミテリシアを突き飛ばすほどの勢いで駆け寄り、文官共が悲鳴を上げ始めた。


 状況がわからないレミテリシアが周囲を見渡したが、何も見えなかった。


皇帝はその場に倒れた。


 女医でもあるアニャは、ハミルを呼びつけて直ぐに手当てを行おうとしたが彼女らは顔を見合わせて青ざめた。


 皇帝は頭部を撃ち抜かれて、弾は後頭部を貫いていた。


つまり即死という事だ。


 騒然とする謁見の間で流れた皇帝の血は、ローズベリーの命運を分けた。


顔面を蒼白させていた皇太子は唇を小さく震えさせている。


 誰もが悲鳴を上げて皇帝の死に落胆している中。


 皇太子は蒼白させていた顔色を戻すと、静かに笑ったのだった。
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