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シーズン6 戦士の国エリュシオン

第6ー1話 英雄のあり方と夫婦

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 英雄とは何を定義してそう呼ぶのか。


人々からの羨望せんぼうの眼差しを浴びればそれは英雄か。


 誰もなし得ない事をやってのけて、多くを救えば英雄だろうか。


自身で英雄と自称する者などは所詮は程度の小さい小物にすぎない。


 ある者は言った。


死した者達こそ真の英雄だと。


もし、その理論が正しいのなら虎白は今だ英雄ではないというわけだ。


 何よりも当人はどれだけの功績を上げても、自身を英雄と認める事はないだろう。


アーム戦役で衝撃の勝利を遂げた虎白の白陸帝国は、一躍して天上界の代表的な国となった。


この事で白陸へ移住する者や軍隊へ志願する者が殺到していた。


 凱旋した虎白の表情は暗かったが、彼らを待ち受けている天上界の民からの拍手喝采を受けて帰還した。


白陸へ戻ると、そこにはミカエル兵団のジャンヌ・ダルクが腕を組んで立っていた。



「なんだまた逮捕かよ・・・」
「何も私が来たからって逮捕ってわけではないだろう」



 そう話しているオルレアンの乙女は笑みを浮かべながら、アーム戦役での活躍を祝して拍手している。


では何をしに来たのだという暗い表情を浮かべている虎白は彼女が来訪した理由を尋ねると、伝説の乙女は天王ゼウスと天上議会からの言付けを伝えに来たと話した。


 内容は虎白の白陸が上げた功績である、メテオ海戦、アーム戦役での大勝利による世界の影響であった。



「冥府軍は保有戦力をかなり失っている。 当面の間は攻めて来ないだろうと天王様が」
「ああ、そりゃ何よりだ。 俺は国を整える」
「そうしてほしい・・・冥府軍は強かった。 もしまた彼らが来れば戦えるのは白陸だけだろう・・・」



 ジャンヌ・ダルクはそう伝えると、白馬に乗って立ち去った。


大きなため息をついた虎白は横目で、ある者を見ている。


気まずそうに目を泳がせながら、竹子の元へ歩いていくと真剣な眼差しをしている愛おしい存在の顔が視界に入った。


 問題の原因は、アーム戦役を勝利に導いた安良木皇国の恋華の存在だ。


彼女はあの修羅場において、確かに口にしたのだ。


虎白の妻であると。


 竹子はその衝撃をどうする事もできずに困惑していた。



「記憶が消えていたんだ・・・今は思い出したぞ。 これでもまだ一部なんだろうがな」
「奥さんがいたんだね・・・」



 竹子は常々思い描いていた。


この未曾有の国難を解決した後に、平和な天上界が来ると。


平和な天上界で虎白と共に穏やかに暮らしていたいと、胸踊らせながら困難に立ち向かい続けていた。


 だが虎白には妻がいたのだ。


竹子の心は打ち砕かれたかの様に空虚なものとなっていた。


それを心配そうに見ている虎白が小さい肩を触ると、静かに振りほどいた。



「気にしてくれなくて大丈夫。 私が傲慢だったの」
「なんでだよ」
「神族に恋するなんて身の程知らずだよ・・・」



 竹子は目に涙を浮かべたまま、城の中へと消えていった。


小さな体型に鎧兜を身にまとっている竹子の疲れた表情と、儚い後ろ姿は虎白の胸を引き裂きそうなほど切ないものだった。


 崩れ落ちる様にその場に座り込んだ虎白の隣へ馬蹄をかぱかぱと、鳴らして近づいてきた者は恋華ではないか。


神馬から降りると、馬の頬を純白の手で擦りながら微笑んでいた。


やがて虎白に向かって、手を差し出すと落ち着いた瞳で見つめている。



「さあ立ちなさい。 皇帝がかような姿を兵に見せるべきではないよ。 ましてや人間になんてね」
「久しいな恋華、最後に会ったのはいつだったかな」



 彼女の顔は虎白に瓜二つと言えるほど、似ている。


だが女としての可愛らしさや美しさまで兼ね備えている恋華を見た途端に竹子は自身では到底敵わないと、落胆してしまったのだ。


 変わらず冷静な瞳で夫を見ている恋華は早く立てと、うながしている。


重い腰を上げた虎白は久しぶりの夫婦の再会だと言うのに、嬉しそうにはしていなかった。



「俺はお前に何も勝っている所はない。 それに竹子達という大切な人間に出会えたんだ」
「そう、貴方も人間に囲まれてさぞ孤独だったでしょう。 これからは私達神族がいるからね」



 恋華には人間の価値がわからなかった。


竹子達の事を気にもしていない恋華の姿こそ、本来ある神族の姿なのかもしれない。


 だが虎白はそうではなかった。


共に霊界での戦闘を経験して、今日まで何度も死線をくぐってきた大切な存在なのだ。


 淡々と話す恋華に無愛想に言葉を返す虎白は、竹子を追いかけようと城へ入ろうとした。


すると恋華は夫を呼び止めた。



「では側室そくしつを取りなさい」
「ああ!?」
「人間を好んでいるなら好きなだけ妻にして囲いなさい」



 そう話している恋華の表情は至って冷静で、嫉妬心の欠片もない様子だ。


竹子を愛しているなら抱けばいいと話す恋華は、凱旋した皇国武士達と新たな兵舎を作るために去っていった。


苛立った表情をしている虎白は竹子を追って歩いていった。


 やがて城内にある竹子の部屋へ行くと、甲斐の爽やかな笑い声が響いていた。


ゆっくりと扉を開けると、甲斐と目が合った。


甲斐は獣の様に飛びかかってくると、虎白を畳へとなぎ倒したではないか。



「痛えな・・・」
「あんたどうするんだよ!! あたいはなあ!! 竹子が好きなんだよ!! 奥方がいるんなら竹子をどうするんだよ!!」



 騎馬突撃でも敢行しているかの様な剣幕で話す甲斐は、着物の胸ぐらを掴んで馬乗りになり、何度も地面へと叩きつけた。


竹子の従順なまでに健気な姿勢は、夫を支える妻のそれと言えた。


 しかし突然現れた本当の妻の恋華は、感情がないかの様に冷静で側室まで設けろと話しているのだ。


果たしてそこに愛はあるのだろうか。


 甲斐に叩きつけられて黙り込む虎白は、細い彼女の体を押しのけて立ち上がると、竹子へと近づいていった。



「恋華は確かに嫁だが、あれは許嫁いいなずけってだけだ。 俺はお前を愛しているんだ」
「でも奥さんに変わりないよ」



 竹子はその晩、会話を続けようとはしなかった。


虎白は城の最上階から白陸の夜景を眺めながら、久しぶりに晩酌を孤独に始めていた。


すると、扉が開くとそこには恋華が薄手の着物姿で立っている。


 驚いた虎白が目を見開いていると、恋華は着物を一枚脱いで近づいてきたのだった。
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