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シーズン5 アーム戦役
第5ー10話 残された男の義務
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想いは受け継がれていくものだ。
託した者が偉大なら尚更である。
愛してやまない妹の未来を想えば、自身を超える存在に託すべきだと考える事も不思議な事ではない。
方や信頼してやまない仲間達の未来を想えば、自身が築き上げてきたものを守ってもらいたいと考えるのもまた当然の事だ。
アルテミシアという凄まじいカリスマ性を持つ女帝が築き上げた広大な領土と民を守るという大役を任されたのは、彼女の最期にも立ち会ったカシム将軍。
メテオ海戦から数ヶ月が経った今、カシム将軍は苦境に立たされていた。
あの日の甲板上で虎白に話した冥府軍からの容赦ない攻撃に晒されていたのだ。
アルテミシア亡き今となっては不死隊を恐れるほどではないと考えた冥府の領主達が一斉に攻め込んできた。
冥王に気に入られるために少しでも領土を広げようと野心を燃やす領主達は弱体化した不死隊と今日も激しい戦闘を行っていた。
「アルテミシア様の作られたこの領土を守るのだ・・・もはや我々にはそれしかできないが・・・」
戦場で槍を片手に戦うカシム将軍と残党達は、連日に渡って攻め寄せてくる様々な冥府軍を見事に撃退していたのだ。
アルテミシアとレミテリシアという二人の重鎮を失い、マフディー将軍という名将を失ったとしても不死隊の強さは健在であった。
弱体化した事は明白だが、周囲の冥府軍に攻め取られるほど衰退したわけではないという事だ。
今日も冥府軍を撃退したカシムは城へ戻ると、髑髏の仮面を外して疲れた表情を見せた。
かつて敬愛してやまない女帝が座っていた玉座に腰掛けて、大きく息を吐いた。
「必ずお守りします・・・妹君は今頃鞍馬が。 我らはこの土地を守り抜く」
玉座の背もたれには今だに女帝の甘い香りが残っている。
美しくて賢く、冷静で判断力のあるアルテミシアの存在を思うと、カシムは自身では逆立ちしても敵わないと痛感していた。
だがそれでも守りたいと強く思っていたのだ。
広大な領地には多くの民が暮らし、皆がアルテミシア討ち死にの悲報を聞いて嘆いた。
そんな土地を守るのは残されたカシムと不死隊の義務というものだ。
「あなたの愛した民を守れていますかね・・・どれほどの敵を撃退すれば諦めるのでしょうか・・・あなたならどんな戦術で敵を黙らせますか?」
玉座に腰掛けたまま、孤独に呟いているカシムの両脇に立っている髑髏の仮面をつけた部下達も同じ気持ちであろう。
永遠に続くかと思えてしまう同胞である冥府軍からの攻撃はカシムの心を疲弊させていった。
アルテミシア様がいればこうはならなかったという無念を押し殺して現状を必死に維持しようと奮闘していた。
「カシム様、またしても敵襲です」
この言葉を冥府に戻ってから何度耳にしたのか記憶にすらなくなっているカシムは、静かにうなずくと仮面を顔につけて玉座を離れた。
信頼できる不死隊の将兵を連れて、旧アルテミシア領と他の領主との境界線にまで出陣したカシムは対峙する同胞を前にしている。
カシムが槍を突き上げると、一糸乱れぬ動きで武器を前に構えて前進する不死隊の練度の高さはアルテミシアが残した財産なのだ。
いつもの様に境界線で同胞である敵を撃退して城へと戻るだけ。
カシムに動揺する様子はもはやなかったのだ。
この瞬間までは。
「か、カシム様!? が、ど、毒で・・・す・・・」
接敵してさあ始めるかといった距離にまで冥府軍が近づいた刹那の事だ。
紫煙しえんが立ち込めて、前列の不死隊が仮面を投げ捨ててもがき苦しんでいるではないか。
慌ててカシムは後退命令を出したが、次の瞬間には周囲の将軍が倒れ込んだ。
驚いたカシムが将軍を見ると、頭部に穴を開けて死んでいる。
「何事だ!?」
「カシム様、毒の中から敵が来ます!!」
「何故、敵は呼吸ができるんだ!!」
想定外の事態に混乱する不死隊をあざ笑うかの様に紫煙の中からガスマスクをつけた数十人の人影が見える。
毒ガスを前に苦しんでいる不死隊を無慈悲なまでに射殺して進んでくる人影の装備は現代戦の兵士かの様だ。
見慣れぬ近代戦闘の兵士に太刀打ちする事のできない不死隊は次々に戦場に倒れていった。
カシムはこの修羅場において脳裏によぎったのは敬愛するアルテミシアの笑顔であった。
「どうやらここまで・・・ですが鞍馬ならきっと・・・あなた様の願いを叶える事でしょう・・・今参ります女帝陛下」
もはやこれまで。
カシムは見たこともない兵士を前にそう悟った。
次々に射殺されていく部下達を前にカシムは槍を突き上げた。
これが最期の命令というわけだ。
「退くな不死隊!! 毒に苦しもうが、敵を殺すまで死ぬな!! 我らはアルテミシアの死ぬことのない精鋭だぞ!! 突撃ー!!!!」
カシムという名将はここに散った。
並びに精鋭無比として恐れられた不死隊も大多数が戦死した。
死体の山が築かれた戦場でガスマスクを外して甲高い笑い声を響かせる白人の女がカシムの亡骸に腰掛けてタバコを吸い始めた。
不死隊への敬意の欠片すらも見せない女の瞳は人間とは思えないほど、凍りついていた。
吸い終えたタバコの火を髑髏の仮面で沈下させると、生き残っている不死隊を壊滅させるために街へと進撃を始めた。
「あーあ弱い弱い。 鞍馬っていうんだよねえ? 冥王の命令はやつの生け捕り」
白人の女はそう話すと、不死隊の亡骸を平然と踏み越えて進んだのだった。
託した者が偉大なら尚更である。
愛してやまない妹の未来を想えば、自身を超える存在に託すべきだと考える事も不思議な事ではない。
方や信頼してやまない仲間達の未来を想えば、自身が築き上げてきたものを守ってもらいたいと考えるのもまた当然の事だ。
アルテミシアという凄まじいカリスマ性を持つ女帝が築き上げた広大な領土と民を守るという大役を任されたのは、彼女の最期にも立ち会ったカシム将軍。
メテオ海戦から数ヶ月が経った今、カシム将軍は苦境に立たされていた。
あの日の甲板上で虎白に話した冥府軍からの容赦ない攻撃に晒されていたのだ。
アルテミシア亡き今となっては不死隊を恐れるほどではないと考えた冥府の領主達が一斉に攻め込んできた。
冥王に気に入られるために少しでも領土を広げようと野心を燃やす領主達は弱体化した不死隊と今日も激しい戦闘を行っていた。
「アルテミシア様の作られたこの領土を守るのだ・・・もはや我々にはそれしかできないが・・・」
戦場で槍を片手に戦うカシム将軍と残党達は、連日に渡って攻め寄せてくる様々な冥府軍を見事に撃退していたのだ。
アルテミシアとレミテリシアという二人の重鎮を失い、マフディー将軍という名将を失ったとしても不死隊の強さは健在であった。
弱体化した事は明白だが、周囲の冥府軍に攻め取られるほど衰退したわけではないという事だ。
今日も冥府軍を撃退したカシムは城へ戻ると、髑髏の仮面を外して疲れた表情を見せた。
かつて敬愛してやまない女帝が座っていた玉座に腰掛けて、大きく息を吐いた。
「必ずお守りします・・・妹君は今頃鞍馬が。 我らはこの土地を守り抜く」
玉座の背もたれには今だに女帝の甘い香りが残っている。
美しくて賢く、冷静で判断力のあるアルテミシアの存在を思うと、カシムは自身では逆立ちしても敵わないと痛感していた。
だがそれでも守りたいと強く思っていたのだ。
広大な領地には多くの民が暮らし、皆がアルテミシア討ち死にの悲報を聞いて嘆いた。
そんな土地を守るのは残されたカシムと不死隊の義務というものだ。
「あなたの愛した民を守れていますかね・・・どれほどの敵を撃退すれば諦めるのでしょうか・・・あなたならどんな戦術で敵を黙らせますか?」
玉座に腰掛けたまま、孤独に呟いているカシムの両脇に立っている髑髏の仮面をつけた部下達も同じ気持ちであろう。
永遠に続くかと思えてしまう同胞である冥府軍からの攻撃はカシムの心を疲弊させていった。
アルテミシア様がいればこうはならなかったという無念を押し殺して現状を必死に維持しようと奮闘していた。
「カシム様、またしても敵襲です」
この言葉を冥府に戻ってから何度耳にしたのか記憶にすらなくなっているカシムは、静かにうなずくと仮面を顔につけて玉座を離れた。
信頼できる不死隊の将兵を連れて、旧アルテミシア領と他の領主との境界線にまで出陣したカシムは対峙する同胞を前にしている。
カシムが槍を突き上げると、一糸乱れぬ動きで武器を前に構えて前進する不死隊の練度の高さはアルテミシアが残した財産なのだ。
いつもの様に境界線で同胞である敵を撃退して城へと戻るだけ。
カシムに動揺する様子はもはやなかったのだ。
この瞬間までは。
「か、カシム様!? が、ど、毒で・・・す・・・」
接敵してさあ始めるかといった距離にまで冥府軍が近づいた刹那の事だ。
紫煙しえんが立ち込めて、前列の不死隊が仮面を投げ捨ててもがき苦しんでいるではないか。
慌ててカシムは後退命令を出したが、次の瞬間には周囲の将軍が倒れ込んだ。
驚いたカシムが将軍を見ると、頭部に穴を開けて死んでいる。
「何事だ!?」
「カシム様、毒の中から敵が来ます!!」
「何故、敵は呼吸ができるんだ!!」
想定外の事態に混乱する不死隊をあざ笑うかの様に紫煙の中からガスマスクをつけた数十人の人影が見える。
毒ガスを前に苦しんでいる不死隊を無慈悲なまでに射殺して進んでくる人影の装備は現代戦の兵士かの様だ。
見慣れぬ近代戦闘の兵士に太刀打ちする事のできない不死隊は次々に戦場に倒れていった。
カシムはこの修羅場において脳裏によぎったのは敬愛するアルテミシアの笑顔であった。
「どうやらここまで・・・ですが鞍馬ならきっと・・・あなた様の願いを叶える事でしょう・・・今参ります女帝陛下」
もはやこれまで。
カシムは見たこともない兵士を前にそう悟った。
次々に射殺されていく部下達を前にカシムは槍を突き上げた。
これが最期の命令というわけだ。
「退くな不死隊!! 毒に苦しもうが、敵を殺すまで死ぬな!! 我らはアルテミシアの死ぬことのない精鋭だぞ!! 突撃ー!!!!」
カシムという名将はここに散った。
並びに精鋭無比として恐れられた不死隊も大多数が戦死した。
死体の山が築かれた戦場でガスマスクを外して甲高い笑い声を響かせる白人の女がカシムの亡骸に腰掛けてタバコを吸い始めた。
不死隊への敬意の欠片すらも見せない女の瞳は人間とは思えないほど、凍りついていた。
吸い終えたタバコの火を髑髏の仮面で沈下させると、生き残っている不死隊を壊滅させるために街へと進撃を始めた。
「あーあ弱い弱い。 鞍馬っていうんだよねえ? 冥王の命令はやつの生け捕り」
白人の女はそう話すと、不死隊の亡骸を平然と踏み越えて進んだのだった。
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