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シーズン3 親友と唱える覇道

第3−16話 愛の言の葉は永遠に

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世界とは残酷なまでに時間が進み続け、流れに乗れずに立ち止まる者達を待つ事すらなく無慈悲に経過していく。


しかし生物とは時に悩み、苦しみ立ち止まるというのに何故時間は待ってはくれないのだろうか。


そして弱き者は時間に翻弄され強き者は時間すら味方につけて突き進んでいく。


傑物とされる虎白や嬴政は同士討ちを始めたツンドラ軍を気にもせずに町への攻略へ向かおうとしている。


対しするは凡人であり、同胞の死に嘆き悲しんでいるメルキータは一頭でも多くの生存者を生み出すために乱戦の中へと飛び込んだ。


目的の達成のために無駄な時間をかけない虎白と嬴政は秦軍に休息を取らせると、乱戦を迂回して早々に防備が薄くなっている支城を一つ一つ陥落させて帝都ノバグラードを目指す。


一方でメルキータの叫びを聞けば聞くほど激化する同士討ちは終わりの兆しを見せずにいた。



「お願いだから止めてー!!!!」
「メルキータ皇女を守れー!!!!」
「裏切り者を皆殺しにしろ、ノバ陛下万歳ー!!!!」



同胞達が激しく殺し合う中で絶叫するメルキータの声は怒号と剣戟の音でかき消されていく。


もはや何を言っても無駄なのだと諦めた様子で腰に差している剣に手を当てた時だ。


複数のツンドラ兵が吹き飛ぶ光景に目を疑った皇女は視線の先で美しく風になびいている赤い髪の毛が凛々しくも猛々しい美男子が聖剣を振るっていた。


スタシア王国のアルデンとその騎士達だ。



「一体何事なんだ!? メルキータ皇女!! そこにいたのですか!!」



爽やかな声を響かせて駆け寄ってくる赤き王は突如として始まった同士討ちに困惑している様子だ。


方やメルキータはアルデンにすがりつく勢いで状況を説明した。


愛するツンドラの民に生きていてほしいと願ったばかりに始まったこの同士討ちが自身の責任だと話している皇女は嗚咽を催したかの様に青ざめて泣いている。


哀れんだ目で見ているアルデンは崩れ落ちているメルキータの前でしゃがみ込むと自身が羽織っている純白のマントを彼女の背中にかけてフードを頭に被せた。



「泣いてはならない皇女。 君が泣けば信じている民が道に迷ってしまう。 それに君の泣き顔はあまりに切ない・・・凛とするまでこれを被っていなさい。」



そう話した赤き王は落ち着いた表情で立ち上がると配下の王国軍に対して言葉を発した。


たったの八百名で側面攻撃を仕掛けた彼らだったが、人数はまるで減っている様には見えない。


その上、表情からは戦意が滲み出てアルデンの命令に忠実に従っているではないか。


幼少期から騎士道を叩き込まれて、血反吐を吐く様な鍛錬に明け暮れているスタシア王国の騎士達は少数精鋭無比であるという事を証明した。



「スタシア王国の皆よ!! 敵兵を斬る前にこう言いなさい!! メルキータ皇女がツンドラに安寧をもたらすと!!」



赤き王の言葉を聞いた騎士達は愛馬を操り、メルキータの側についたツンドラ兵と共に戦った。


そして合言葉の様に「メルキータが安寧をもたらす」と口々に発した。


アルデンとかの精鋭無比なる者達は挑む敵を斬り捨てすがる敵を受け入れていったのだ。


剣聖から傑物へと進化しているこの赤き王もこうしてまた傑物となったのだ。


敵国の軍隊の中で勇敢に戦うスタシア王国軍はそんな偉大なる赤き王の背中を見て自身らの戦闘意欲へと変えていく。


やがてメルキータの側につく兵士達の数が大幅に上回り、ノバ皇帝派の将校を中心として兵士達は平原を放棄して町へと逃げ去っていった。


平原で巻き起こる大歓声の中で誰もの視線がフードを被っている皇女へと向いた。


メルキータの隣で立つアルデンは小さな声で「あなたの民ですよ」と語りかけた。


悲しき皇女はフードの下の泣き顔をなんとかして笑顔に変えようと努力しているが、容易ではなさそうだ。


すると妹のニキータが近づいてくるとアルデンのマントを脱がして泣き顔を民達へ見せつけたではないか。



「フード被ったって民にはバレていますよ。 だって彼らは姉上の事を愛していますから。 同士討ちが行われて泣かない姉上でしたら彼らはついてきませんよ。」



ニキータの話したとおりフードを外されても民達からの歓声が弱まるどころか強さを増している。


皇女の泣き顔を見てもなお励ますかの勢いでメルキータの名を連呼する民達は傷だらけの自身らの姿を気にもせずに愛する皇女を見れた事で笑顔に満ちていた。


メルキータ皇女とはそこまで民から愛されている存在なのだ。


泣き顔を精一杯笑顔にする様、努力しているぎこちない笑みを浮かべたまま彼女は大きな声を民達へ響かせた。



「我らツンドラは今日変わるのだ!! 諸君らと私で安寧をもたらそう!! 私は皆を愛している!! だから皆もどうか私を頼ってくれ!!」



大歓声と共に泣き崩れる民が相次ぐ中でメルキータはやっとの事で満面の笑みを見せたのだ。


そして今この瞬間にツンドラ軍と秦軍による平原の戦いが終わった事になる。


メルキータの側に入ったツンドラ兵の数は四十万とも六十万とも言われている。


残すは支城を守る僅かな兵士と帝都ノバグラードだけとう事だ。


既に虎白と嬴政と秦軍は支城への攻撃に入っているのだった。
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