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シーズン2 犠牲の果ての天上界
第2ー3話 中華で初の皇帝
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天上界で再会した旧友である甲斐の案内の元で目指す先はこれもまた旧友である秦国の始皇帝こと嬴政だ。
広大な領土を有する嬴政は今では天上界の主力として躍動している。
ミカエル兵団本部を抜けて秦国を目指す虎白と竹子の二人は栄華を極める町並みを見て感動していた。
白いギリシア風の町並みで商売をする者や美味そうな飲食店が立ち並び、人々は日中から酒を片手に笑顔に満ちている。
町中を自慢気に歩く甲斐は「近頃は平和でねえ」と話す。
「テッド戦役以来、戦いはないよ。」
「そうか。 じゃあもう二十年以上も平和なのか・・・」
その昔に起きたテッド戦役はそれは悲惨な戦いだ。
詩人は旅先で「天使と悪魔による最終戦争の様だ」と口にするほどだ。
天使の総帥と悪魔による大戦争では天上界に辿り着いた多くの人間も戦いに駆り出された。
悪魔の軍団が本拠とする「冥府」からも多くの人間が連れてこられては神々の戦いに身を投じた。
詩人は「風で吹き飛ぶ干し草の如く人々が散った」とも語る。
聞くだけで恐ろしい大戦争の中にいた虎白と始皇帝も七人もの親友を失うほどだ。
そんな思い出すだけで嗚咽(おえつ)が走る記憶を蘇らせていると、広い平原を越えて大きな関門へ辿り着いた。
「秦」と書かれる赤と黒の旗が門の上で風になびき、見下ろしている衛兵が鋭い視線を浴びせている。
「止まれ!! 何者だ?」
「あたいは甲斐ってんだ。 ミカエル兵団の六番隊だよ。」
「はあ!? お前そうだったのか?」
なおも自慢げに笑っている甲斐は女だけが入隊できるミカエル兵団に所属していた。
第一の人生で名を馳せた者だけが入る事のできる天使の軍団に入っている甲斐に驚きが隠せない虎白は「詳しく話せ」と関門にいる秦国軍を無視して話を聞いている。
黒髪をかきあげては「テッド戦役だよ」と暗い表情を浮かべる甲斐は話をしながらも身分証を秦国軍に見せた。
「天使だって大勢やられたんだよ・・・そんで人間の優秀なやつらを兵団に加えていったのさ。」
一番隊天使長を務めるはオルレアンの乙女ことジャンヌ・ダルクだ。
時代を彩った英傑は兵団への加入を求められて甲斐もその一人という事だ。
この陽気な美女こそ「東国一の美貌」と戦国時代にて名を馳せた甲斐姫である。
美貌からは想像もつかない卓越した槍術と刀術もまた有名であった。
そんな甲斐は兵団の天使長として活動している事もあり、国境間の移動も容易かった。
秦国軍とて甲斐を見れば右手の拳を左手で覆って敬意を払うものだ。
関門を通過した一同の元に迫ってきたのは大勢の騎馬隊だ。
「甲斐様ですね?」
「そうだよおー。」
「そちらは鞍馬様で?」
うなずいた虎白を見ると騎兵長は「お早くお越しを」と率いてきた馬車を指差している。
馬車に乗った三人は秦国の都である咸陽(かんよう)へと進んだ。
これもまた栄華を極めた町並みだ。
古代中国ならでは木造と石で作られた町並みだが、人々が行き交い商人は商売繁盛といった顔をして商いをしている。
やがて見えてきた巨大な王宮の中へ入っていくと黄金の扉があり、衛兵が丁寧に開いた。
するとこれもまた眩い黄金の玉座が目に入った。
そしてそこに座って長い髭を触っては鋭い視線を向けている男こそ秦国の皇帝にして伝説の始皇帝だ。
虎白が旧友の顔を見るなりよたよたと近づいていく。
すると始皇帝も玉座から立ち上がり、数段ほどある階段を下ると旧友の神族の元へ歩いていった。
対面した両者の間には沈黙が流れた。
様子を伺っている竹子は緊張した様子だ。
「嬴政・・・」
だが次の瞬間だ。
嬴政は虎白の女の様な細い顔を力の限り殴り飛ばしたではないか。
思わず竹子は腰に差す刀に手を当てると、秦国軍の衛兵がぞろぞろと入ってきては槍を今にも突き刺そうと構えている。
口から白い血を流して立ち上がる虎白は激昂して反撃するかと思いきや「すまなかった」と声を低くして頭を下げている。
修羅場と化した謁見の間(えっけんのま)で不気味に睨み合う旧友達は何を思っているのか。
「お前は・・・勝手に二十四年もどこへ行っていた!!!!」
「だ、だから旅に出るって・・・俺は耐えられなかった。 みんなの死は受け入れられなかった。」
嬴政が激昂している理由は虎白がいなくなった事だ。
しかし虎白も口ではそう話したが、実際の所はどうして祐輝の体に封印していたのかわからずにいた。
長い髪の毛を激しく乱している始皇帝は玉座に戻って髪を整えると大きく深呼吸していた。
手招きをして近くに来いと合図すると、虎白だけが目の前にまで近づいた。
「確かに俺を置いて旅に出るとは言っていた。 それだけでも許せなかったが、お前は二十四年もの間、連絡一つ寄こさなかった。」
この時、虎白は一人で考えていた。
ひょっとすると甲斐も嬴政も自身が下界に行っていた事を知らないのではないかと。
だからこそ、天上界を放浪していたと思っている嬴政は激昂しているのだと。
考えている虎白の顔を睨み殺すほどの眼力で凝視している嬴政は「なんとか言え」と指差している。
「な、なあ嬴政。 俺はよ。 二十四年も下界で人間の中に封印されていたんだよ・・・」
そう話してはみたが、嬴政の呆れ果てた表情を見て言葉を詰まらせた。
だがこれで確信に変わったというわけだ。
嬴政も恐らく甲斐も下界での出来事は何も知らない様子だ。
するとまたしても玉座から降りてきた始皇帝は虎白の着物の胸ぐらを力強く掴むと口と口が触れてしまいそうな距離まで顔を近づけた。
「本気で言っているんだな?」
「あ、ああ・・・記憶もかなり消えているんだ・・・親友達の事もあまり思い出せねえよ・・・俺・・・どうしてこうなっちまったんだよ・・・」
始皇帝の白と金色の高貴な衣装を掴みながら、ぼろぼろと涙を流す虎白はまるで迷子の子供だ。
自身の行動も行く先もわからない少年が出会った大人にすがっている様な表情と溢れる涙で旧友に語りかけている。
そんな親友の悲痛の表情を見た始皇帝は掴んでいた着物から手を放すと静かにうなずいた。
「お前がそこまで苦しんでいたとは・・・感情的になってすまなかった・・・」
「俺、わかんねえよ・・・これからどうすればいいんだよ・・・」
嬴政は泣きながら小刻みに震えている親友にして神族の細い体を力強く抱きしめると「もう大丈夫だ」と優しい声を発した。
長年、一緒に旅をした親友の初めて見る怯えた表情を見た始皇帝は同情の念に駆られていた。
するとミカエル兵団の六番隊こと東国一の美女である甲斐に向かって嬴政は語りかけた。
「天王様の元へ行ってみろ。 何か知っているかもしれないぞ。 そして後々は我ら秦国の援助の元で虎白には国主になってもらう。 推薦状を書くから天王に渡せ。」
嬴政はそう話すと甲斐を一足先に「天王」の元へ出発させた。
そして来客である虎白と竹子に食事を用意すると盛大に宴を始めた。
旧友との再会は嬴政にしても虎白にしても予期せぬ形ではあったが、こうしてまた新たに知る事ができた。
虎白の下界行きは友の耳に入っていなかった。
そうなれば天上界の最高権力者に尋ねる他ない。
だが今宵は親友と酒を酌み交わして再会を祝うのだ。
広大な領土を有する嬴政は今では天上界の主力として躍動している。
ミカエル兵団本部を抜けて秦国を目指す虎白と竹子の二人は栄華を極める町並みを見て感動していた。
白いギリシア風の町並みで商売をする者や美味そうな飲食店が立ち並び、人々は日中から酒を片手に笑顔に満ちている。
町中を自慢気に歩く甲斐は「近頃は平和でねえ」と話す。
「テッド戦役以来、戦いはないよ。」
「そうか。 じゃあもう二十年以上も平和なのか・・・」
その昔に起きたテッド戦役はそれは悲惨な戦いだ。
詩人は旅先で「天使と悪魔による最終戦争の様だ」と口にするほどだ。
天使の総帥と悪魔による大戦争では天上界に辿り着いた多くの人間も戦いに駆り出された。
悪魔の軍団が本拠とする「冥府」からも多くの人間が連れてこられては神々の戦いに身を投じた。
詩人は「風で吹き飛ぶ干し草の如く人々が散った」とも語る。
聞くだけで恐ろしい大戦争の中にいた虎白と始皇帝も七人もの親友を失うほどだ。
そんな思い出すだけで嗚咽(おえつ)が走る記憶を蘇らせていると、広い平原を越えて大きな関門へ辿り着いた。
「秦」と書かれる赤と黒の旗が門の上で風になびき、見下ろしている衛兵が鋭い視線を浴びせている。
「止まれ!! 何者だ?」
「あたいは甲斐ってんだ。 ミカエル兵団の六番隊だよ。」
「はあ!? お前そうだったのか?」
なおも自慢げに笑っている甲斐は女だけが入隊できるミカエル兵団に所属していた。
第一の人生で名を馳せた者だけが入る事のできる天使の軍団に入っている甲斐に驚きが隠せない虎白は「詳しく話せ」と関門にいる秦国軍を無視して話を聞いている。
黒髪をかきあげては「テッド戦役だよ」と暗い表情を浮かべる甲斐は話をしながらも身分証を秦国軍に見せた。
「天使だって大勢やられたんだよ・・・そんで人間の優秀なやつらを兵団に加えていったのさ。」
一番隊天使長を務めるはオルレアンの乙女ことジャンヌ・ダルクだ。
時代を彩った英傑は兵団への加入を求められて甲斐もその一人という事だ。
この陽気な美女こそ「東国一の美貌」と戦国時代にて名を馳せた甲斐姫である。
美貌からは想像もつかない卓越した槍術と刀術もまた有名であった。
そんな甲斐は兵団の天使長として活動している事もあり、国境間の移動も容易かった。
秦国軍とて甲斐を見れば右手の拳を左手で覆って敬意を払うものだ。
関門を通過した一同の元に迫ってきたのは大勢の騎馬隊だ。
「甲斐様ですね?」
「そうだよおー。」
「そちらは鞍馬様で?」
うなずいた虎白を見ると騎兵長は「お早くお越しを」と率いてきた馬車を指差している。
馬車に乗った三人は秦国の都である咸陽(かんよう)へと進んだ。
これもまた栄華を極めた町並みだ。
古代中国ならでは木造と石で作られた町並みだが、人々が行き交い商人は商売繁盛といった顔をして商いをしている。
やがて見えてきた巨大な王宮の中へ入っていくと黄金の扉があり、衛兵が丁寧に開いた。
するとこれもまた眩い黄金の玉座が目に入った。
そしてそこに座って長い髭を触っては鋭い視線を向けている男こそ秦国の皇帝にして伝説の始皇帝だ。
虎白が旧友の顔を見るなりよたよたと近づいていく。
すると始皇帝も玉座から立ち上がり、数段ほどある階段を下ると旧友の神族の元へ歩いていった。
対面した両者の間には沈黙が流れた。
様子を伺っている竹子は緊張した様子だ。
「嬴政・・・」
だが次の瞬間だ。
嬴政は虎白の女の様な細い顔を力の限り殴り飛ばしたではないか。
思わず竹子は腰に差す刀に手を当てると、秦国軍の衛兵がぞろぞろと入ってきては槍を今にも突き刺そうと構えている。
口から白い血を流して立ち上がる虎白は激昂して反撃するかと思いきや「すまなかった」と声を低くして頭を下げている。
修羅場と化した謁見の間(えっけんのま)で不気味に睨み合う旧友達は何を思っているのか。
「お前は・・・勝手に二十四年もどこへ行っていた!!!!」
「だ、だから旅に出るって・・・俺は耐えられなかった。 みんなの死は受け入れられなかった。」
嬴政が激昂している理由は虎白がいなくなった事だ。
しかし虎白も口ではそう話したが、実際の所はどうして祐輝の体に封印していたのかわからずにいた。
長い髪の毛を激しく乱している始皇帝は玉座に戻って髪を整えると大きく深呼吸していた。
手招きをして近くに来いと合図すると、虎白だけが目の前にまで近づいた。
「確かに俺を置いて旅に出るとは言っていた。 それだけでも許せなかったが、お前は二十四年もの間、連絡一つ寄こさなかった。」
この時、虎白は一人で考えていた。
ひょっとすると甲斐も嬴政も自身が下界に行っていた事を知らないのではないかと。
だからこそ、天上界を放浪していたと思っている嬴政は激昂しているのだと。
考えている虎白の顔を睨み殺すほどの眼力で凝視している嬴政は「なんとか言え」と指差している。
「な、なあ嬴政。 俺はよ。 二十四年も下界で人間の中に封印されていたんだよ・・・」
そう話してはみたが、嬴政の呆れ果てた表情を見て言葉を詰まらせた。
だがこれで確信に変わったというわけだ。
嬴政も恐らく甲斐も下界での出来事は何も知らない様子だ。
するとまたしても玉座から降りてきた始皇帝は虎白の着物の胸ぐらを力強く掴むと口と口が触れてしまいそうな距離まで顔を近づけた。
「本気で言っているんだな?」
「あ、ああ・・・記憶もかなり消えているんだ・・・親友達の事もあまり思い出せねえよ・・・俺・・・どうしてこうなっちまったんだよ・・・」
始皇帝の白と金色の高貴な衣装を掴みながら、ぼろぼろと涙を流す虎白はまるで迷子の子供だ。
自身の行動も行く先もわからない少年が出会った大人にすがっている様な表情と溢れる涙で旧友に語りかけている。
そんな親友の悲痛の表情を見た始皇帝は掴んでいた着物から手を放すと静かにうなずいた。
「お前がそこまで苦しんでいたとは・・・感情的になってすまなかった・・・」
「俺、わかんねえよ・・・これからどうすればいいんだよ・・・」
嬴政は泣きながら小刻みに震えている親友にして神族の細い体を力強く抱きしめると「もう大丈夫だ」と優しい声を発した。
長年、一緒に旅をした親友の初めて見る怯えた表情を見た始皇帝は同情の念に駆られていた。
するとミカエル兵団の六番隊こと東国一の美女である甲斐に向かって嬴政は語りかけた。
「天王様の元へ行ってみろ。 何か知っているかもしれないぞ。 そして後々は我ら秦国の援助の元で虎白には国主になってもらう。 推薦状を書くから天王に渡せ。」
嬴政はそう話すと甲斐を一足先に「天王」の元へ出発させた。
そして来客である虎白と竹子に食事を用意すると盛大に宴を始めた。
旧友との再会は嬴政にしても虎白にしても予期せぬ形ではあったが、こうしてまた新たに知る事ができた。
虎白の下界行きは友の耳に入っていなかった。
そうなれば天上界の最高権力者に尋ねる他ない。
だが今宵は親友と酒を酌み交わして再会を祝うのだ。
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