上 下
16 / 205
シーズン1序章 消えた神族と悲劇の少年

第16話 暗闇に光る一筋の光

しおりを挟む
 それはまさに死物狂いの脱出劇であった。周囲を怨霊の軍隊に囲まれている、虎白と竹子達は、自分の武器と身につけた技術のみを頼りに死地を脱するために走った。
 道を塞ぐように立ちはだかる、怨霊の兵士を何度も斬り捨てた。やがて一同は窮地を脱して、広いショッピングモールにまで辿り着いていた。

「はあ......まさに危機一髪だったな」
「虎白? どうして敵の攻撃を未然に防げるの?」

 首をかしげる竹子は言った。虎白は、刀を鞘に収めると、長椅子に腰掛けた。

「それは、神業ってやつだな。 別にふざけているわけじゃねえ。 どうしてか、これは良く覚えているんだ。 『第六感』って技をな」

 世に言う第六感とは、遠くの者の気配を感じ取ったり、会話している相手が、話す前に何を言おうとしているのか、感じ取れる力だ。
 虎白が話した「神業」について、気になる竹子は、さらに詳しく話しを聞いた。

「故郷のことも覚えてねえ......なのに刀術やら第六感の力は、覚えてんだよなあ。 俺は、敵が次にどんな行動をするのか、大体の予測ができる」

 そう話している虎白を見る一同は、驚いた様子だ。それもそのはず、あの死地を脱する時、虎白は何かに導かれているかのように、進路を変更して走っていた。
 気まぐれのようにも見えた進路変更は、驚くことに敵兵が手薄になるほんの僅かな隙間を通っていった。

「連中は、俺達の道を塞ぐように、兵士の壁を何重にもして通れなくしてやがった。 だが、兵士を動かすってことは、隙間が微かにできるってことだ。 俺は、第六感で敵が次に隙間を空ける場所を予測して走ったんだ」

 まさに神業というわけだ。竹子は虎白の言葉を聞いて、強い安心感と同時に、底知れぬ謎の深さも感じていた。
 あの死地の中で、そこまで冷静な判断をし続けられるのだろうか。ひょっとして、この虎白という神は、以前にもこのような経験があったのではないか。だとしたら、この男は一体何者なのか。

「どうした竹子?」
「う、ううん。 なんでもないよ」
「俺が怖いのか?」
「ふふっ。 それも第六感?」
「いいや。 顔を見ればわかるよ」

 長椅子から立ち上がった虎白は、竹子の頭を優しく撫でると、腕を組んで遠くの景色を眺めている。男らしく知的な雰囲気を放つ、虎白は竹子の恋心を刺激し続けていた。
 当の虎白は、乙女心を刺激している自覚はなく、今後のことを深刻な表情で考えている。

「本当にこれからどうするか......永遠に追いかけ続けられるのかな......」
「なんじゃ弱きですな鞍馬どん」

 新納が髭を触りながら笑っている。虎白の隣に立つと、その昔に霊界を守っていた皇国武士の話しを始めた。

「鞍馬どんの戦いを見て、思い出した。 狐のお侍は、みんな強かったとよ」
「連中と話したことは?」
「なかよ。 わしら人間が、気安う話しかけられる相手じゃなかったと」
「じゃあ連中がどこへ行ったのかもわからねえなあ......」

 今後の見通しも立たず、怨霊から逃げ続ける日々に嫌気が差していた。その時だ。
 夜空を見ている虎白の目に映るのは、金色に輝いた何かが、降ってきているのだ。そして金色の何かは、虎白らの目の前に落ちた。
 ショッピングモールを飛び出して、落下地点へ向かった一同は、武器を手にして警戒している。

「俺が見てくるから、近づくな」

 刀を抜いた虎白は、静かに一歩一歩近づいた。落下地点に立ち込める、金色の煙の中へ消えた虎白を皆が、心配そうに見つめている。

「おいみんな来てみろ!」

 虎白の声が聞こえ、一同は煙の中へ飛び込んだ。そこで、虎白が何かを持って立っている。表情は目を見開いて、驚いた様子だ。

「金色の矢だ......それに巻きつけられているは、手紙だぜ......」

 酷く困惑している虎白は、恐る恐る手紙を広げると、短い文章が書かれていた。

「明日の明け方に、迎えに行く。 それまで生き延びろ。 天王より」

 虎白には、心当たりはなかった。一体誰が迎えに来るのだろうか。そして「天王」とは誰を意味しているのか。

「なんだこれ」
「虎白の仲間のお侍さん達じゃない?」
「天王ってのは俺の仲間なのか?」
「わ、わからないけれど、迎えに来てくれるんだから、敵じゃないよ!」

 それは竹子にとって、暗闇に光る一筋の光だった。永遠に続くかと思われた怨霊からの追撃から、解放されるのだ。相手が誰だか知らずとも、この場から逃がしてくれるというのなら、是非すがりたいものだ。
 得体の知れない手紙に困惑する虎白の、背中を押して迎えを待つべきだと話している。

「罠だったらどうするんだ?」
「だって考えてみてよ! 夜空から金色の閃光を放って落ちてきたんだよ? 『天王』と名乗っているのも、納得行くと思わない?」
「うーん......まあ行く宛もねえしな。 もし、怪しかったら直ぐに逃げるぞ」

 どの道、いつまでもショッピングモールに留まることはできない。こうしている今にも怨霊が現れるかもしれないのだ。
 怪しくても、助けてくれると書いてあるのなら、すがる他なかった。一同は、あと一日だけ、怨霊からの攻撃に耐えることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...