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シーズン1序章 消えた神族と悲劇の少年
第13話 邪悪な妖
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目的達成まで、後少しのところで獲物を逃してしまった怨霊達からは、いつも以上に負の気配が滲み出ていた。意気消沈したまま、逃げた皇国武士とその一団が向かった方角へと進み始めた。
息苦しいほどの、負の空気が漂う中で、友奈は彼らの異変に気がついた。
「あれ? 軍人?」
「ですな。 怨霊にも兵士がおるのでしょうな」
「でも初めて見たよ?」
日頃から霊界の街中で、不気味に佇んでいる怨霊。漆黒の鎧兜に身を包んだ者なんて今まで見たことがなかった。
明らかに日頃とは違う光景に、友奈はさらに気が引けた。彼らに話しかけても、皇国武士を追いかけている理由なんて話してくれるはずがない。
「ねえ怖いよ。 もう放っておこうよ」
「万が一にでも、連中が何かしてきたら拙者共が全て斬り捨てますれば。 ご安心を」
どうしても謎を解きたい土屋は、友奈の細い背中を押した。恐る恐る近づいていく友奈に気がついた怨霊の兵士が、不気味に佇んで視線を向けている。
身構える友奈と赤い侍達との間には、重苦しい空気が流れた。やがて友奈が、声を震えさせながら口を開くと怨霊の兵士が近づいてきた。
「生者でありながら、我々が見えるのか?」
「は、はい......あのお。 どうして狐の侍を追いかけているのかなあって」
「命令だからだ。 それ以上は、我々も知らない」
「誰の命令ですか?」
友奈からの問いに兵士は答えなかった。そして直ぐに立ち去った。顔を見合わせる友奈と土屋達は、兵士が語っていた「命令」という言葉を気にしている。
その命令は、一体どこの誰が下したのだろうか。消えた狐の軍隊も、その命令が原因でいないのか。謎は解けるどころか、さらに深まった。
すると黒い馬に乗った指揮官らしき兵士が近づいてくると、強張った表情で馬上から見下ろしている。
「なぜこの世界が見えている?」
「う、生まれつきです......」
「そうか。 生まれつきか」
指揮官は、何やら深刻な面持ちで隊列へと戻っていった。友奈は、土屋の太い腕を掴むと、声を発した。
「もうこれ以上探るの止めようよ」
「う、ううむ......これ以上は、友奈殿に危険が及ぶかもしれませぬな......無念だが、これ以上深入りするのは止めますか」
滲み出る悔しさを、押し殺した土屋は、友奈の家へと歩き始めた。
その時だ。
「え? つ、土屋......」
「は!? な、なんだと!?」
「く、苦しいよ......」
友奈の背中には、黒い矢が突き刺さっているではないか。目を見開いて、低い声を響かせる土屋は、直ぐに矢が飛んできたであろう怨霊の軍隊の方向を見た。
するとそこには、弓を手にした悍ましい存在が佇んでいた。人間の倍ほどある大きな体に、鎧兜を身にまとっている。血でも塗ってあるかのような赤い顔に、口からは長い歯が生えている。そして兜の上から突き出ている、角はまさにこの国の神話で語られるそれであった。
力が抜けて倒れる友奈を抱きしめる土屋は、拳を力強く握りしめていた。
「せ、拙者の責任でござる......連中を詮索したがために......きっと皇国武士もこのように不意打ちにあって......」
「き、決めつけは良くないんでしょ? わ、私も今から霊体になれるから......一緒に探そうよ......」
「そうであったな。 相わかった......苦しいであろう? 拙者がそばにおるぞ。 もう喋らなくて良い......」
「いつも優しいよね土屋......す、好きだよ......」
友奈は土屋の腕の中で、静かに息絶えた。騒然とする霊界で、響くのは邪悪な存在の笑い声と、土屋の雄叫びだ。
土屋は、眠るように息を引き取った友奈の体を寝かせると、赤鞘から刀を抜いた。凄まじいほどの剣幕で、睨みつける姿は、まるで赤鬼のようだ。
「お、おのれえ......悪鬼あっきめえ! よくも友奈を! たたっ斬ってくれるわ!」
怒り狂う土屋が、刀を持って襲いかかろうとしている。しかし悪鬼は、二重音声にも聞こえる不気味な笑い声を響かせたまま、怨霊の軍隊の中へと消えていった。
すかさず怨霊の軍隊が、槍を構えて近づいてきたではないか。攻撃目標が、逃げた狐の侍から土屋達へと変わった。一歩ずつ近づいてくる邪悪な軍隊は、赤い侍達を、皆殺しにしようとしている。
その時だ。
「惚れた女子おなごを連れて逃げよ」
「と、殿!」
「わしらに構うでない。 お主は、行け。 友奈を連れて走れ」
霊馬にまたがって、殺到したのは、厳三郎と仲間達だ。彼らは、怨霊の軍隊へ飛び込むと、劣化の如く斬り進んだ。あまりの激しさに、怨霊達は武器を捨てて逃げ出している。
しかし霊馬の足を止めず、突き進む厳三郎達は、やがて怨霊の軍隊に飲み込まれるように姿を消した。土屋は、その場で友奈が霊体として浮かび上がってくるのを待っているが、一向に現れなかった。
「な、なんじゃ......拙者がかつて戦場で倒れた時には、直ぐに霊体になったぞ......何をしておる友奈!」
土屋は叫び続けている。しかし祐輝が霊体になれなかったように、友奈も霊体になることは考えにくいのだ。
これも今だ解明できない謎の一つだが、そんなことを土屋は知るはずもなく、ただひたすら彼女の名前を呼び続けた。
息苦しいほどの、負の空気が漂う中で、友奈は彼らの異変に気がついた。
「あれ? 軍人?」
「ですな。 怨霊にも兵士がおるのでしょうな」
「でも初めて見たよ?」
日頃から霊界の街中で、不気味に佇んでいる怨霊。漆黒の鎧兜に身を包んだ者なんて今まで見たことがなかった。
明らかに日頃とは違う光景に、友奈はさらに気が引けた。彼らに話しかけても、皇国武士を追いかけている理由なんて話してくれるはずがない。
「ねえ怖いよ。 もう放っておこうよ」
「万が一にでも、連中が何かしてきたら拙者共が全て斬り捨てますれば。 ご安心を」
どうしても謎を解きたい土屋は、友奈の細い背中を押した。恐る恐る近づいていく友奈に気がついた怨霊の兵士が、不気味に佇んで視線を向けている。
身構える友奈と赤い侍達との間には、重苦しい空気が流れた。やがて友奈が、声を震えさせながら口を開くと怨霊の兵士が近づいてきた。
「生者でありながら、我々が見えるのか?」
「は、はい......あのお。 どうして狐の侍を追いかけているのかなあって」
「命令だからだ。 それ以上は、我々も知らない」
「誰の命令ですか?」
友奈からの問いに兵士は答えなかった。そして直ぐに立ち去った。顔を見合わせる友奈と土屋達は、兵士が語っていた「命令」という言葉を気にしている。
その命令は、一体どこの誰が下したのだろうか。消えた狐の軍隊も、その命令が原因でいないのか。謎は解けるどころか、さらに深まった。
すると黒い馬に乗った指揮官らしき兵士が近づいてくると、強張った表情で馬上から見下ろしている。
「なぜこの世界が見えている?」
「う、生まれつきです......」
「そうか。 生まれつきか」
指揮官は、何やら深刻な面持ちで隊列へと戻っていった。友奈は、土屋の太い腕を掴むと、声を発した。
「もうこれ以上探るの止めようよ」
「う、ううむ......これ以上は、友奈殿に危険が及ぶかもしれませぬな......無念だが、これ以上深入りするのは止めますか」
滲み出る悔しさを、押し殺した土屋は、友奈の家へと歩き始めた。
その時だ。
「え? つ、土屋......」
「は!? な、なんだと!?」
「く、苦しいよ......」
友奈の背中には、黒い矢が突き刺さっているではないか。目を見開いて、低い声を響かせる土屋は、直ぐに矢が飛んできたであろう怨霊の軍隊の方向を見た。
するとそこには、弓を手にした悍ましい存在が佇んでいた。人間の倍ほどある大きな体に、鎧兜を身にまとっている。血でも塗ってあるかのような赤い顔に、口からは長い歯が生えている。そして兜の上から突き出ている、角はまさにこの国の神話で語られるそれであった。
力が抜けて倒れる友奈を抱きしめる土屋は、拳を力強く握りしめていた。
「せ、拙者の責任でござる......連中を詮索したがために......きっと皇国武士もこのように不意打ちにあって......」
「き、決めつけは良くないんでしょ? わ、私も今から霊体になれるから......一緒に探そうよ......」
「そうであったな。 相わかった......苦しいであろう? 拙者がそばにおるぞ。 もう喋らなくて良い......」
「いつも優しいよね土屋......す、好きだよ......」
友奈は土屋の腕の中で、静かに息絶えた。騒然とする霊界で、響くのは邪悪な存在の笑い声と、土屋の雄叫びだ。
土屋は、眠るように息を引き取った友奈の体を寝かせると、赤鞘から刀を抜いた。凄まじいほどの剣幕で、睨みつける姿は、まるで赤鬼のようだ。
「お、おのれえ......悪鬼あっきめえ! よくも友奈を! たたっ斬ってくれるわ!」
怒り狂う土屋が、刀を持って襲いかかろうとしている。しかし悪鬼は、二重音声にも聞こえる不気味な笑い声を響かせたまま、怨霊の軍隊の中へと消えていった。
すかさず怨霊の軍隊が、槍を構えて近づいてきたではないか。攻撃目標が、逃げた狐の侍から土屋達へと変わった。一歩ずつ近づいてくる邪悪な軍隊は、赤い侍達を、皆殺しにしようとしている。
その時だ。
「惚れた女子おなごを連れて逃げよ」
「と、殿!」
「わしらに構うでない。 お主は、行け。 友奈を連れて走れ」
霊馬にまたがって、殺到したのは、厳三郎と仲間達だ。彼らは、怨霊の軍隊へ飛び込むと、劣化の如く斬り進んだ。あまりの激しさに、怨霊達は武器を捨てて逃げ出している。
しかし霊馬の足を止めず、突き進む厳三郎達は、やがて怨霊の軍隊に飲み込まれるように姿を消した。土屋は、その場で友奈が霊体として浮かび上がってくるのを待っているが、一向に現れなかった。
「な、なんじゃ......拙者がかつて戦場で倒れた時には、直ぐに霊体になったぞ......何をしておる友奈!」
土屋は叫び続けている。しかし祐輝が霊体になれなかったように、友奈も霊体になることは考えにくいのだ。
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