上 下
98 / 140

第98話 お前よく見ておけよ

しおりを挟む
道具を大切にする千野の姿勢は祐輝を更に惹きつけた。


親から買ってもらった大切なバットを自分に任せてくれているという気持ちはただの舎弟以上のものを感じていた。


やがて敵地であるグラウンドに入ると3年生達は準備を始めた。


ユニフォームに着替えてウォーミングアップを始めると相手高校を圧倒するかの様な息の合ったランニングを魅せた。


ランニングを終えるとキャッチボールを始めるためにグローブを取りにベンチへ戻ってきた。


祐輝は素早く千野の水筒を手渡して飲んでいる間にスパイクを足の前にさっと置いた。


すると千野は水筒を祐輝に渡すとスパイクを吐き始めたが祐輝はその場に片膝をついて動かなくなった。


千野はスパイクをかかとまで履くと地面につま先を何度か当ててしっかりと履くために祐輝の肩に手を置いてバランスを崩さない様にしていた。


祐輝は千野の手すりになるために片膝をついて動かなかった。


右肩をガシッと掴んでスパイクをしっかりと履くと祐輝の胸をドンッと叩いてグラウンドへ走っていった。


その光景にけんせー達1年生は絶句していた。




「祐輝やべえよ。 奴隷やん。」
「舎弟だからね。」




すると2年生が千野を真似て祐輝に手を伸ばしてきて「水筒取れ」と偉そうに話してきた。


だが祐輝はまるで見えていないかの様に平然と2年生の横を通過して試合の応援の準備を始めた。


あまりに生意気な態度に激怒した2年生は祐輝の右腕を掴んだ。


その時2年生は戦慄した。


「触るな」と無言の圧力をかけて睨みつける祐輝の目は16歳の少年の目ではなかった。




「て、てめえ・・・」




そんな情けない言葉しか出なかった。


祐輝は2年生から目を離さなかった。


今にも襲いかかりそうな威圧感を放ち、騒然となる。




「俺は自分が賭けたいと思った人にしか従わないんで。」
「先輩だぞ。」
「じゃあ先輩らしい事したらどうですか?」




祐輝の眼力と言動は「お前じゃ俺に釣り合わない」と言っている様だった。


だが千野と祐輝の間に何があったのか知らない2年生からすればただの怪我人1年坊主だ。


生意気で仕方のない祐輝の態度に怒りを顕にしていたが、これ以上刺激すると本当に襲いかかって来るかもしれないという恐怖もあった。


すると遠くから千野が「早く来いよ2年!!」と怒鳴っていた。


救われた様な表情で「すいません!」と走っていった。




「雑魚が舐めんなよ。」
「祐輝ヤンキーすぎるって。」




大熊やけんせーはあまりに生意気な態度を取るものだから連帯責任を恐れて祐輝に反抗しない様に話していた。


だが祐輝は聞く耳を持たずに平然としていた。


そして試合が始まると祐輝は千野を見ていたが、一度近づいてくると千野は得げに「よく見ておけよ」と笑うと試合へ臨んだ。


初めて見る千野達3年生の試合だ。


祐輝はかつて東京選抜というレベルの高い世界を見た。


はたして先輩方はどれほどの実力なのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい笑顔の裏には

花籠さくら
ミステリー
「うわ、あぶなっ」 「ちょっと、太陽さん大丈夫ですか?」 「大丈夫、大丈夫!!」  あっちに行ったりこっちに行ったり、足取りがおぼつかない俺をレイカさんが腕を組んで支えてくれる。

道とその後

天仕事屋(てしごとや)
経済・企業
生きているうちに 試したいことが山ほどある

愛する誰かがいるんなら私なんて捨てればいいじゃん

ヘロディア
恋愛
最近の恋人の様子がおかしいと思っている主人公。 ある日、和やかな食事の時間にいきなり切り込んでみることにする…

あなただったら、いいなあ

らいち
恋愛
束縛されることに興奮する桃子は、偶然人気者の健司が自分のジャケットの匂いを嗅いでいるところを見てしまう。気持ち悪い光景だが桃子はそれに興奮し、健司に好意を持った。 そしてだんだんと接近してくるストーカー行為に胸を躍らせていたのだが……。 ※他サイトで掲載済 タイトル変えています

不自由な織田信長

荒木免成
歴史・時代
 織田信長はお忍びで森蘭丸と共に相撲見物に出かけ、そこで己の生き様と価値観とについて豪放に語る。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

詩花 愛憎の花

葵冬弥(あおいとうや)
ライト文芸
最初は花を愛でていたはずなのになんでこんなに憎いのだろう。

あめ しずく ピチャン

天仕事屋(てしごとや)
絵本
雨の日の 細やかな音たちを 楽しんで

処理中です...