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第70話 中学最後の冬

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夏も終わり、やがて冬が来た。


今年の夏もミズキと祭りへ行ったりとそれなりに充実できた。


蝉は役目を終えて蜻蛉達すらもいなくなった凍てつく冬。


週末を迎えた祐輝は家を出ると白い息を吐きながら自転車にまたがりグラウンドへ向かった。


ピッチャーにとって大切な冬のトレーニングは祐輝を高校野球で通用させるための大事な時間だ。


黙々とランニングを続けて下半身を強化しているが、相変わらず鈴木監督は突如怒鳴り散らしたりと散々だった。


そんなある日事件は起きた。



「もう帰るわ。」



驚いたナインズメンバーを見ることもせずにエルドは荷物を持って練習中だというのに家に帰ってしまった。


その日はエルドの奇行だと思われたが次の日も鈴木監督が意味不明な原因で怒り出すとエルドは荷物をまとめ始めた。


すると後輩達も荷物をまとめて帰る支度を始めた。


祐輝は困った表情でエルドに駆け寄ると訳を聞いた。



「こんなの練習じゃない。 いじめだ。」
「練習中に選手が帰ったらさすがに不味いだろ。」



祐輝はそういうと荷物をまとめ始めた。


練習中に選手が勝手に帰ったら監督としてさすがに不味いだろという意味で祐輝はエルドの肩をポンッと叩くと一緒に帰った。


その行動はやがて問題となり鈴木監督は保護者達から説明を求められたが監督と言いつつも20代前半の若者には保護者を納得させられる説明はできなかった。


激怒した保護者はいよいよ鈴木監督を辞めさせた。


後任には仕方なく大間総監督がついたが、産まれたばかりの娘との時間で練習に参加できるのは日曜日の僅か2時間程度だった。


時を同じくして小学6年生の体験入部が始まった。


今年もそれなりの人数が集まった小学生の中に大間総監督からも声をかけられる少年がいた。



「お兄さんみたいに頑張れよ。」



窪田優と名乗る少年の兄はかつてナインズのキャプテンを勤めていた選手の弟だった。


そして優の後ろで偉そうに大間総監督と話しているのが父親だ。


窪田コーチは少年野球でも監督を勤めていた事から大間総監督は安心して練習を任せてしまった。


しかしこれが運の尽きだったのかもしれない。


日頃からメールでやり取りしていた祐輝と佐藤コーチの息子雄太は窪田コーチが就任したと話すと「あいつやばい。」と返ってきた。


祐輝は雄太に電話をすると驚く事を話した。


なんと窪田コーチは自身の野球経験は中学1年生まででその後はテニスを楽しんでいたという。


仕事は芸能関係者で口が上手く、選手達はまんまと乗せられて窪田コーチの指導が正しいと信じてしまう。


だが結果は試合にはほとんど勝てなかったという残念な経歴を持つ人間だった。


祐輝は愕然として雄太との電話を終えた。


しかし祐輝には諦める事のできない夢があった。


そして夢の実現のためにある事を心待ちにしていた。


祐輝が家でじっと見つめる応募用紙には「東京都中学選抜チーム選考会。」と書いてあった。


例年東京都の3年生だけを集めて行われる東京都代表チームの結成。


祐輝はこの選抜チームにどうしても入りたかったのだ。



「越田とチームメイトかあ。」



間もなく行われる選考会に胸を躍らせていた。
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