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第67話 祐輝が見たもの
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絶対絶命のピンチを何とか2点リードで切り抜けたナインズAチーム。
ベンチからは佐藤コーチの「踏ん張らんかい!」という声が聞こえてくる。
息子と歩んだ野球人生の集大成なだけあって佐藤コーチの気合いの入り方は尋常ではなかった。
普段は会社員の佐藤コーチも出張の予定を断り、強引に有給休暇までもらってこの日を迎えていた。
息子のために出世まで断りこの場にいるのだ。
そんな姿を祐輝は確かに見ていた。
「羨ましいな。 あんな親父。」
「祐輝君はパパさんと仲悪いもんねえ。」
「もはや他人だよ。」
と言いつつも心のどこかで父親を求めている祐輝は佐藤コーチと雄太の関係が羨ましかった。
息子のために仕事まで休んでいる。
時には息子のピッチングに激怒してどつき回しているなんて事も何度も見たがそれでも祐輝は羨ましかった。
それだけ息子に向き合っている。
雄太も父親を尊敬してどれだけ厳しくされても真面目に練習をしてきた。
いつの日か今日の事は親子の最高の思い出になるのだ。
祐輝の空虚な心には熱く響くものがあった。
そしてナインズAとキングスBの試合はいよいよ最終回の7回を迎えた。
2点リードはしているがBチームといってもキングスはキングス。
何が起きるかわからない野球というスポーツにおいて確実に点差を広げておく必要があった。
ナインズAの攻撃は雄太から始まった。
ピッチャーが投げたストレートをフルスイングすると打球はあっという間に場外へと消えた。
特大ホームランに日頃は腕を組んで怖い顔をしている佐藤コーチも歓喜していた。
これで3点差。
しかしその後の攻撃は僅かにヒットが出たが得点には繋がらず3点差で迎える最後の守備だ。
「しっかり決めてこんかい!」と佐藤コーチは息子をピッチャーマウンドへ送り出した。
初戦を突破すると次はキングスAチームだった。
もし祐輝達が勝っていればナインズ同士の戦いになったが言うまでもなく不可能な話だった。
佐藤コーチと雄太はキングスの速田を倒すと言う夢を掲げていた。
そのために後アウト3つを取る事だ。
雄太はストレートをキャッチャーに向かって力強く投げていたがやはり疲労が溜まっている。
制球が定まらず、ファアボールでランナー一塁。
次の打者に対してはセカンドゴロになったがゲッツーを狙った二塁手は慌てたのか投げる前にボールを落としてしまい、ランナーは一、二塁。
ここで一度タイムが入り佐藤コーチ自らがマウンドへ走った。
そして雄太の顔をがっしり掴むと大きな声で「落ち着け!」と叫ぶと雄太の背中を何度も叩いた。
佐藤コーチはベンチに戻る時に観客席にいる祐輝と目が合うと指を指して「しっかり見ておけ!」と言い残してベンチへ戻った。
祐輝もいよいよミズキと会話すらせずに試合を見ていた。
タイムは終わり雄太はストレートを投げ込んだが綺麗に合わせられてヒットを打たれた。
二塁ランナーは一気にホームインして2点差にまで迫るとキングス応援席は最高潮になっている。
雄太はキングスの雰囲気に飲まれ、疲労も重なりまるで制球が定まらずにいた。
その後もデッドボールでまたしてもランナー一、二塁になるとバッターは4番打者だ。
セットポジションから投げられたストレートは初球からフルスイングされ、外野へと飛んでいった。
二塁ランナーはホームインして一塁ランナーは三塁へ進んだ。
いよいよ1点差だ。
三塁ランナーが帰ると同点で二塁ランナーが帰ればサヨナラ負けだ。
雄太はたまらずマウンドから一度降りると大きく深呼吸してロウジンバッグを触っていた。
気持ちを落ち着かせてセットポジションに入り、残された体力を惜しむ事なく出して投げ込むと打球は内野ゴロに転がりバッターランナーをアウトにした。
塁上のランナーは動かず、ワンナウト二、三塁。
そして雄太は次のバッターを三振に取るとツーアウト二、三塁だ。
後一つ。
後一つで親子の悲願である速田との対戦だ。
雄太はこの状況で何とワインドアップにしたのだ。
祐輝は目を見開いて驚くと「最高の先輩だな。」と呟いた。
まるで祐輝から勇気をもらったと言わんばかりのワインドアップだ。
力強く投げ込んだストレート。
しかしグラウンドには快音が鳴り響いた。
レフトへ飛んだ打球はワンバウンドして捕球した。
直ぐにホームへボールを投げたが三塁ランナーはホームインして遂に同点。
ここで次のバッターをアウトにできれば延長戦でナインズの攻撃のチャンスが回ってくる。
しかしサヨナラの大ピンチだった。
ツーアウト一、三塁。
雄太はそれでもワインドアップで投げた。
ストレートは低めに決まりストライクだ。
そして2球目。
雄太が投げたストレートはキャッチャーミットから大きくそれた。
キャッチャーは飛びついたがあと少しで捕球できずにボールはバックネットへ転がってしまった。
三塁ランナーは血眼でホームへヘッドスライディングした。
雄太がホームカバーに入りキャッチャーからのボールを捕球してタッチした。
「セーフッ! ゲームセット!」
サヨナラ負けだ。
唖然とするナインズ陣営と歓喜に包まれるキングス陣営。
雄太はその場で泣き崩れて動けなくなった。
ナインズAの夏は終わった。
疲労と緊張で手元に力が入り、暴投してしまった。
泣き崩れる雄太に「立たんかい。」と声をかける震えた声の佐藤コーチの姿。
試合は終わった。
ベンチからは佐藤コーチの「踏ん張らんかい!」という声が聞こえてくる。
息子と歩んだ野球人生の集大成なだけあって佐藤コーチの気合いの入り方は尋常ではなかった。
普段は会社員の佐藤コーチも出張の予定を断り、強引に有給休暇までもらってこの日を迎えていた。
息子のために出世まで断りこの場にいるのだ。
そんな姿を祐輝は確かに見ていた。
「羨ましいな。 あんな親父。」
「祐輝君はパパさんと仲悪いもんねえ。」
「もはや他人だよ。」
と言いつつも心のどこかで父親を求めている祐輝は佐藤コーチと雄太の関係が羨ましかった。
息子のために仕事まで休んでいる。
時には息子のピッチングに激怒してどつき回しているなんて事も何度も見たがそれでも祐輝は羨ましかった。
それだけ息子に向き合っている。
雄太も父親を尊敬してどれだけ厳しくされても真面目に練習をしてきた。
いつの日か今日の事は親子の最高の思い出になるのだ。
祐輝の空虚な心には熱く響くものがあった。
そしてナインズAとキングスBの試合はいよいよ最終回の7回を迎えた。
2点リードはしているがBチームといってもキングスはキングス。
何が起きるかわからない野球というスポーツにおいて確実に点差を広げておく必要があった。
ナインズAの攻撃は雄太から始まった。
ピッチャーが投げたストレートをフルスイングすると打球はあっという間に場外へと消えた。
特大ホームランに日頃は腕を組んで怖い顔をしている佐藤コーチも歓喜していた。
これで3点差。
しかしその後の攻撃は僅かにヒットが出たが得点には繋がらず3点差で迎える最後の守備だ。
「しっかり決めてこんかい!」と佐藤コーチは息子をピッチャーマウンドへ送り出した。
初戦を突破すると次はキングスAチームだった。
もし祐輝達が勝っていればナインズ同士の戦いになったが言うまでもなく不可能な話だった。
佐藤コーチと雄太はキングスの速田を倒すと言う夢を掲げていた。
そのために後アウト3つを取る事だ。
雄太はストレートをキャッチャーに向かって力強く投げていたがやはり疲労が溜まっている。
制球が定まらず、ファアボールでランナー一塁。
次の打者に対してはセカンドゴロになったがゲッツーを狙った二塁手は慌てたのか投げる前にボールを落としてしまい、ランナーは一、二塁。
ここで一度タイムが入り佐藤コーチ自らがマウンドへ走った。
そして雄太の顔をがっしり掴むと大きな声で「落ち着け!」と叫ぶと雄太の背中を何度も叩いた。
佐藤コーチはベンチに戻る時に観客席にいる祐輝と目が合うと指を指して「しっかり見ておけ!」と言い残してベンチへ戻った。
祐輝もいよいよミズキと会話すらせずに試合を見ていた。
タイムは終わり雄太はストレートを投げ込んだが綺麗に合わせられてヒットを打たれた。
二塁ランナーは一気にホームインして2点差にまで迫るとキングス応援席は最高潮になっている。
雄太はキングスの雰囲気に飲まれ、疲労も重なりまるで制球が定まらずにいた。
その後もデッドボールでまたしてもランナー一、二塁になるとバッターは4番打者だ。
セットポジションから投げられたストレートは初球からフルスイングされ、外野へと飛んでいった。
二塁ランナーはホームインして一塁ランナーは三塁へ進んだ。
いよいよ1点差だ。
三塁ランナーが帰ると同点で二塁ランナーが帰ればサヨナラ負けだ。
雄太はたまらずマウンドから一度降りると大きく深呼吸してロウジンバッグを触っていた。
気持ちを落ち着かせてセットポジションに入り、残された体力を惜しむ事なく出して投げ込むと打球は内野ゴロに転がりバッターランナーをアウトにした。
塁上のランナーは動かず、ワンナウト二、三塁。
そして雄太は次のバッターを三振に取るとツーアウト二、三塁だ。
後一つ。
後一つで親子の悲願である速田との対戦だ。
雄太はこの状況で何とワインドアップにしたのだ。
祐輝は目を見開いて驚くと「最高の先輩だな。」と呟いた。
まるで祐輝から勇気をもらったと言わんばかりのワインドアップだ。
力強く投げ込んだストレート。
しかしグラウンドには快音が鳴り響いた。
レフトへ飛んだ打球はワンバウンドして捕球した。
直ぐにホームへボールを投げたが三塁ランナーはホームインして遂に同点。
ここで次のバッターをアウトにできれば延長戦でナインズの攻撃のチャンスが回ってくる。
しかしサヨナラの大ピンチだった。
ツーアウト一、三塁。
雄太はそれでもワインドアップで投げた。
ストレートは低めに決まりストライクだ。
そして2球目。
雄太が投げたストレートはキャッチャーミットから大きくそれた。
キャッチャーは飛びついたがあと少しで捕球できずにボールはバックネットへ転がってしまった。
三塁ランナーは血眼でホームへヘッドスライディングした。
雄太がホームカバーに入りキャッチャーからのボールを捕球してタッチした。
「セーフッ! ゲームセット!」
サヨナラ負けだ。
唖然とするナインズ陣営と歓喜に包まれるキングス陣営。
雄太はその場で泣き崩れて動けなくなった。
ナインズAの夏は終わった。
疲労と緊張で手元に力が入り、暴投してしまった。
泣き崩れる雄太に「立たんかい。」と声をかける震えた声の佐藤コーチの姿。
試合は終わった。
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