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第62話 1対王の軍

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朝目を覚ますと祐輝は直ぐに起き上がって朝食を食べた。


そして越田との戦いの場に向かう。


母親の真美からは「しっかりね!」と送り出された。


ナインズBとキングスAの試合なんて誰も興味がないほど勝ち負けは歴然だった。


それは祐輝自身もよくわかっていたが、開会式で越田から言われた言葉は祐輝を更に奮起させた。


自転車で球場に向かう最中、ミズキが朝早いというのに道中で待っていた。



「おはよお。」
「こんな朝早いのに何時に起きたの?」
「6時かなあ。 祐輝君頑張ってね!」
「ありがとう。 行こう。 越田が待ってる。」



ミズキと共に球場へ向かい、祐輝はナインズBチームに合流してミズキは応援席に座った。


そしてグラウンドに入るとウォーミングアップを始めた。


対するキングスも凄まじい掛け声と共に足並みを揃えた関東3位の実力を見せつけるアップを始めた。


アップを終えると祐輝は健太と共にキャッチボールをしてある程度投げるとブルペンに入り、健太はレガースを着けて座った。



「カーブ捕れるまでやるぞ。」
「う、うん。」



祐輝は健太に向かって何球もカーブを投げ続けたが健太は捕れずに後ろにそらしてはキングスベンチにまで転がっていくボールを取りに行く始末だ。


キングスメンバーが呆れる様に笑っている中で越田だけはベンチからじっと祐輝を見ていた。


そして越田もレガースを着けると速田と投球練習を始めた。


祐輝は大きく息を吸って試合開始の時を待つ。


両チームのアップが終わりシートノックも終えるといよいよ試合開始だ。


ナインズは後攻だ。


プレイボールの声と共にマウンドへ向かった。


最初にマウンドに立ったのは祐輝だ。


キングスの先頭打者に対して祐輝は速いストレートを投げ込んだがさすが速田を有するキングスだ。


祐輝のストレートに振り遅れる事なくタイミングを合わせてくるが、祐輝のゆったりとしたフォームのおかげで何とかヒットにされずにファールにしている。


しかし球数を投げれば投げるほどにバッターはタイミングを合わせてくる。


ツーストライクノーボールに追い込んだ所でキャッチャーの健太はカーブのサインを出すが祐輝は首を振っている。


カーブは越田にしか投げないと決めていた。


ただでさえ健太は捕れるのかわからないのに頻繁には投げられなかった。


そして何よりも祐輝がカーブを投げたくない理由があった。


観客席で心配そうに試合を見ているミズキから少し左にはナインズAチームの先輩と佐藤コーチが応援していた。


あれだけ変化球は身体ができるまで投げるなと言っていたのにカーブなんて投げれば何を言われるかわからない。


そのために祐輝はカーブを極力投げない様にしていた。


ツーストライクでもファールで粘る先頭打者に祐輝はカーブを投げたいと思いながらも渾身のストレートで勝負した。


サインを決めた祐輝はゆっくりと振りかぶり投げた。



「ストライクッ!」



アウトコース低めに決まった渾身のストレートはボールになるかギリギリのコースだったが審判は見逃し三振とジャッジした。


まずはアウト一つ。


対する2番打者。


ネクストバッターサークルに控える3番打者には速田。


4番の越田もヘルメットを被り、祐輝との対戦を待っている。


ゆったりと足を上げて2番打者に向かって投げ込んだ。


ボンッと鈍い音と共に内野ゴロに転がったボールを後輩が何とか捕球して一塁に投げるが送球が乱れてセーフ。


ワンナウト一塁。


バッターは速田。


この怪童はピッチャーの才能は言うまでもなく、バッティングでも長打を打つことも多くおまけに足も速い。


越田との対戦までにランナーを溜めたくはなかった。


そして祐輝は打席に入る速田を見て深呼吸した。


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