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第39話 伝えたい事があるの!

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奇跡的に事故に合わなかったが非常に危険だった。


ベンチに座って大きく息を吸うと自動販売機で飲み物を買った。


そして気持ちを落ち着かせるとミズキを見た。




「ボール捕る時に大きな声出さないでくれよ。」
「ご、ごめんね・・・」
「それでどうしたんだよ?」
「つ、伝えたい事があるの! わ、私とさ・・・そ、その・・・つ、付き合ってくれないかなあって・・・」
「付き合う? だからこうして一緒にランニングしてだなあ。」
「違うの!!」





何処かのアニメキャラじゃないのだから当然祐輝だってわかっていた。


しかしそれでもはぐらかして逃げられるものならと思っていたがそうもいかなそうだ。


ミズキの顔は真っ赤だが目は真剣だった。





「わかったよミズキ。 ありがとうな。」
「え、ええ・・・」
「俺さあ。 どうしても中学生の間にエースと呼ばれる様になってさ。 倒したい化け物がいるんだよ。」
「や、野球の話し?」
「もちろん。 ミズキがそう思ってくれていたのは知ってたよ。 でもさあ。 俺の中学生活は人生で二度とないでしょ? だからどうしても倒したい。 越田って化け物をね。」






可愛らしいミズキよりゴッツイ越田。


祐輝は恋愛より怪童を倒したかった。


恋愛はこの先の人生でもできる。


しかし越田との戦いはこの3年間しかない。


祐輝は恋愛には手を出せなかった。





「で、でも・・・恋愛してても・・・」
「いや。 悪いね。 それはできない・・・」
「どうしてよ・・・」
「歴史が言っている・・・大望を成し遂げるには邪念を断てと。」
「意味わかんないよ・・・」
「ミズキの事を大切に思いながら野球にも集中はできないよ。 どっちかが適当になっちゃう・・・今の俺だと絶対にミズキを適当にしてしまうんだよ・・・」






祐輝は歴史を学ぶ中で気がついていた。


何か大きな事を成し遂げた者ほど。


その目的に向かって純粋に追いかけていた。


金や権力そして快楽に溺れると必ず本来目指している道を見失う。


織田信長の強さは?


坂本龍馬の凄さは?


山本五十六や栗林忠道が何故敵国のアメリカから称賛されたのか?


どの英傑達も異なる時代に生きたが共通する事があった。


邪念に飲まれなかった事だ。


時代の流れに抗って時には打ち勝った。


500年近くの時が経っても我々の暮らすこの日本で英傑とされるのはそれだけの偉業を成し遂げたからだ。


しかし彼らの生きた道がどれだけ苦難の連続で孤独だったか。


現代の日本人はきっとそこまで考えてはいないはずだ。


だが祐輝は違った。


毎日考えていた。


何が人を変えるのか?


怪童になるために佐藤コーチが教えてくれた道標。


野球が好きだから越田は練習をたくさんできた。


だから怪童へと化けた。


とっくに気がついていた。


歴史が大好きだから何処までも詳しく覚えられた。


その思いを野球に向けなくては怪童にはなれない。


だからこそ恋愛なんてできなかった。


ミズキほど可愛い女の子と一緒になれる機会なんてもう二度とないかもしれない。


しかし今はどうしても越田を倒したかった。





「ごめんなミズキ・・・」
「じゃ、じゃあさ。 その越田君を祐輝君が倒したら付き合ってよ・・・」
「考えておくよ。 倒せるかわからないし。 約束はできない。」
「うん・・・それまではこうして仲良くしていてくれる?」
「いいよ。 ランニング相手がいなくなるのは寂しいからね。」
「ふふふ。 グローブ入れるカゴがないと困る?」
「ふふっ。」





祐輝は自動販売機に行くとミズキが好きなコーンスープを買ってきた。


嬉しそうに微笑むミズキを見て祐輝はまた壁にボールを投げ始めた。


怪童を倒すためには甘えてはいられない。


自分の歴史の知識量を誰かと競った時に同級生に負ける気がしないのと同じだ。


越田は野球において中学生に負ける気がしていないはずだ。




「越田・・・」
「祐輝君! 越田君と試合する時教えてよ。」
「わかった。」
「越田君かあ・・・見てみたいなあ・・・」
「ゴリラみたいなやつだよ。」
「えーそっかーふふふ。」




1年生も終盤。


間もなく冬休みだ。


祐輝の成長は続く。
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