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第35話 祐輝VS怪童!!

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越田が放った長打は何処までも遠くへ飛んでいった。


フェンスを越えてホームラン。


1年生が3年生の中村からあっさりとホームランを放った。


越えたの次の5番打者を外野フライに打ち取って何とか2失点でしのいだ。


しかしイニングが進むごとにキングスの猛攻は激しさを増して中村もいよいよ力尽きた。


3回までに4失点。


中学野球は9回までではなく7回で終わってしまう。


既に前半戦が終わったが4対0だ。


エース中村も降板して二番手の2年生雄太がマウンドに立った。


しかし容赦のない猛攻を前に雄太は懸命に投げたがやはり失点してしまう。


6回までに更に3失点。


7対0だ。


ナインズは速田からヒットすらろくに打てずにいた。


完全試合になってしまう。


せめてヒット1本。


せめて0点で抑える。


しかしキングスの猛攻を前にナインズは満身創痍。


雄太も制球が乱れて甘く入ったボールを確実に外野に打たれていた。


何とか踏ん張りいよいよ最終回。


マウンドへ向かったのは祐輝だ。




「先輩に根性見せたらんかい!」
「はい!」
「思いっきり行けや!!!」




佐藤コーチに背中をバシンッと叩かれてピッチャーマウンドへ行く。


いつも練習ではマウンドに立っていたがやっぱり違う。


初登板の日も感じた。


何故か気温を感じない。


不思議なほどに静かだ。


まるで自分だけ別の世界にでもいるかの様にピッチャーマウンドとは不思議な場所だった。


大きく息を吸ってマウンドの土を踏む。


もはや勝ち負けは関係ない。


関東3位の強豪を相手に何処までできるのか。


佐藤コーチは言っていた。




「野球は1人でやるもんじゃねえか。 そうだよな。 みんなでこのイニングだけでも0点に抑えるんだ。」




エース中村も雄太も崩されてしまった。


日頃憧れている先輩2人がまるで通用しない。


しかし恐怖心はなかった。


それ以上に関東3位の強豪と戦える貴重な経験。


祐輝の気分は高揚していた。




「よし!」




キングス最後の猛攻だ。


しかも先頭バッターは3番の速田からだ。


速田の次に待つのは越田。


祐輝は越田との対決が待ち遠しかった。


だがまずは怪童速田との対決だ。


バッターボックスに入ってすっと構えている。


落ち着いた表情で祐輝を見ている。


その威圧感を前に祐輝は自分の足が少しだけ震えた事を感じた。


足を上げて祐輝は思いっきり投げた。


速田のフルスイングはバットをかすめてファール。


鋭い打球が一塁方向へ飛んでいった。


そして2球目。


振りかぶってから祐輝は力の限り投げ込んだ。




「ストライクツー!!」




インコースに入ったストレートに速田は手を出して来なかった。


ツーストライクで追い込んだ。


あと1つストライクを取れたら速田を三振に取れる。


しかし相手は怪童。


そう簡単には行かなかった。


3球目はボールに外れて4球目。


アウトコースへのストレートが若干真ん中に寄ってしまった。


すかさず速田はフルスイング。


しかしこれもギリギリの所で一塁線切れてファール。


そして5球目。


思いっきり投げた。


カーンッ!っと甲高い快音が響き祐輝は前を見ると既に速田はいない。


打球は何処へ飛んだ?


振り返ると打球は弾丸ライナーでセンターに飛んでいたがセンターを守る先輩が何とかキャッチ。


速田を打ち取った。


安堵した表情でキャッチャーの方向を見るとそこに立っていたのは2人目の怪童越田。


同じ1年生の怪童だ。




「初めましてだ越田。 これからお前とは長い付き合いになるな。」




マウンドで一言つぶやいた。


祐輝の口が動いていたからか?


あるいは何か感じるものでもあったのか?


バッターボックスでじっと見つめる越田の口角は少しだけ。


上がったのだ。


これは祐輝が怪童に挑む記念すべき1球目だ。


大きく息を吸い込んで空を見る。


青く美しい空が祐輝と越田の対決を見下ろしている。




「さあ行くぞ越田。」




ゆっくりと振りかぶった。
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