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第20話 野球の楽しさ

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祐輝は最終回の1イニングだけ登板している。


ノーアウトランナーなし。


ワンストライク、ワンボール。


先輩達が周りを守ってくれている。


キャッチャーはもう一度インコースに構えた。


試合はナインズが5点差で勝っている。


祐輝は強気だった。




「5点差。 ちょっと打たれたって負けはしないさ。」




大きく振りかぶってインコースへ思いっきり投げた。


回転数の良いストレートがバッターを通過する。


キャッチャーのグローブの中で快音がなる。




「ストライクツー!!」
「いいぞしっかり投げろー。」
「彼良いピッチャーですね。」




相手チームのバッターがキャッチャーに話しかける。


するとキャッチャーは何食わぬ顔してバッターに返答した。


「あいつはまだ1年」だと。


バッターの表情は豹変して祐輝を睨んでいた。



「1年・・・さすがにナメられるわけにいかないな。」




ピッチャーマウンドへ活き活きとしている祐輝は大きく振りかぶった。


キャッチャーの構える場所はアウトコース低め。


これは野球ではとどめの一撃だ。


アウトコースはバッターから一番離れたコースだ。


投げる側としてもコントロールの難しいコース。


そして祐輝は構えられたコースに投げ込んだ。




「ストライクッアウトッ!!!」




バッターは手も出なかった。


祐輝は初登板で三振を取った。


佐藤コーチからも拍手が出る。




「いいぞ! そのままあと2つアウト取って来い!」




祐輝は楽しくて仕方なかった。


そして次のバッターが打席に入る。


左打席のバッターは祐輝が投げると、突如バントの構えをした。


野球は打つだけがバッターの攻撃ではない。


バントといってバットを振り抜かずに、ただ構えてボールを当てる攻撃がある。


振り抜かないのでボールは目の前に落ちるか軽く転がる。


絶妙な位置に転がして、野手が捕球する前に一塁ベースを踏めばセーフとなる。


そのためには速い走力が必要となる。


祐輝にバントの構えを見せたバッターを見て制球が乱れる。


ストライクが上手く入らなかった。




「ボールスリー。」



もし次ボール判定になるとファアボールとなってバッターは一塁に出てしまう。


キャッチャーはそれでも祐輝にギリギリストライクになる際どいコースを要求していた。


そして祐輝が投げるとまたしてもバントの構えを見せた。




「ボールファアボール!」




ランナーは一塁に出た。


祐輝は次のバッターに向かって投げるとランナーは二塁へ盗塁した。


バッターは一塁に出ると「ランナー」となる。


言葉の通り走る役目を担う。


そして一塁から二塁へ走る事を「盗塁」という。


盗塁はピッチャーが投げた瞬間に走り、キャッチャーが二塁へ投げる前に二塁ベースに触れればセーフとなる。


祐輝はあっさりと盗塁された。


その後も制球が乱れ始めた。




「落ち着け・・・ストライク入らねえ・・・」




慣れない攻撃に慌てる祐輝。


するとキャッチャーが走ってきた。


周りから先輩も寄ってくる。




「落ち着け。」
「すいません・・・」
「盗塁されてもいいからしっかり投げろ。 三振をあと2つ取れば終わりだよ。」
「はい。」




そして祐輝は投球を続けた。


次のバッターには大きな当たりを打たれてヒットになった。


ランナーはホームベースを踏んだ。


これで5対1だ。


あと4点取られたら追いつかれてしまう。


そして次のバッターにファアボール。


次はヒット。


ランナーは一塁と二塁にいる。


そして次のバッターにはデッドボール。


ボールをバッターの体に当ててしまう事だ。


デッドボールは当たった時点で一塁への出塁が可能となる。


これで満塁。


ホームランを打たれれば同点だ。


汗をかいて慌てる祐輝。




「しっかりせんかオラッ!!! 男ならきっちりアウト取ってこんかいっ!!!」



ドスの効いた怒鳴り声がグランドに響く。


佐藤コーチが鬼の形相で見ている。


大きく深呼吸をして祐輝は投球した。


バッターはボールをバットに当てたがヒットにはならず、野手が捕球してキャッチャーに投げて直ぐに一塁へ送球した。


これをホームゲッツーという。


ランナーは存在する場合のみ、ファーストに投げるのではなくランナーが進む塁へ投げる。


満塁ならキャッチャーへ。


そしてキャッチャーがホームベースを踏んで一塁へ投げた。


試合は終了した。
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