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第19話 エースへの階段

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ピッチャーというポジションは主役とも言える。


投球次第で試合は動く。


味方が攻撃で何点取ってもピッチャーが打たれ続ければ試合には勝てない。


そしてエースとはどんなピンチでも耐えて0点に抑えるもの。


祐輝は中村の背中を見ていた。


すました顔で投球してはまるで打たれずにアウトを3つ取ってベンチに戻ってくる。






「すげえな。」
「う、うん・・・さすが3年生。」




祐輝は健太と共に3年生の試合を見ている。


いつの日か自分があの場に立てるのかと不安にもなりながら立ってみたいという好奇心もあった。


佐藤コーチはチラリと祐輝を見た。


すると手招きしている。


脱帽して佐藤コーチの前に立った。




「中村の次。 お前行け。」
「えっ!?」
「洗礼を受けて来い。 大丈夫だ。 周りは3年生だ。 打たれても取ってくれる。 胸張ってこんかい!」
「はい!」
「雄太。 キャッチボールしてやれ。」




他人事の様に見ていた3年生の試合も次の守備が最終回。


エース中村は完投する事なく、祐輝に最後のマウンドを渡した。


突然の指名に緊張する祐輝は2年生の先輩雄太とキャッチボールする。




「大丈夫だよ。 自信持っていけ。」
「自信って言われても・・・」
「とにかくキャッチャーの構える所に思いっきり投げろ。 最初はそれで十分だよ。」
「はい。」




ベンチから少し離れた「ブルペン」というピッチャーが投球準備をするスペースでキャッチボールをして体を温めている。


ナインズの最終回の攻撃は終わり、最後の守備に入る。


佐藤コーチはベンチから体を乗り出して祐輝を指差してピッチャーマウンドへ行けと合図している。


祐輝はピッチャーマウンドに走った。


初めて見るマウンドからの景色。


周りを見るといつもは怖い3年生が笑顔で見ている。




「思いっきり投げてこい。」
「はい!」




そこは聖域の様に野球では神聖な場所だ。


グランド唯一土が盛り上がっている。


ピッチャーが投げやすい様になっている。


グランドでたった1人だけ。


人より高い場所にいるのだ。


守備に着く8人は3年生。


そのマウンドに1年生の祐輝は1人送り込まれた。


佐藤コーチからの洗礼か。


まだ変化球すら投げられない。


マウンドに立ってボールを握った。


前を見ると3年生のキャッチャーがうなずいている。


相手チームのバッターがバットを構えて祐輝の球を待っている。


大きく息を吸って。


大きく吐いた。


そして振りかぶり足を上げた。


その瞬間。


祐輝の中にあった緊張は消えて音すらも消えた。


キャッチャーだけがしっかり見える。


祐輝は力一杯投げ込んだ。


快音を鳴らしてキャッチャーミットに吸い込まれるストレートは周囲をどよめかせた。




「ナイスボール! そのまま投げてこい。 十分だ。」




1年生とは思えない力強いストレート。


相手のバッターも3年生だ。


最終回の守備。


アウトを3つ取ればナインズの勝利。


そして2球目。


キャッチャーは右バッターのインコースに構えた。


インコースとはバッターに近い位置だ。


反対にバッターから離れた位置をアウトコースという。


そしてインコースへの投球とは勇気のいる投球だ。


バッターに当ててしまうかもしれない。


そう思い、投球が甘くなり打たれる事も珍しくない。


2球目にして3年生キャッチャーはインコースを要求した。




「投げてみろ・・・」




祐輝は振りかぶって投げ込んだ。


シューッとボールが高速回転する音を出している。


バッターは祐輝のストレートに驚いて体を避けた。




「ボールワンッ!」




ピッチャーはキャッチャーに向かって3球ストライクを投げればアウトを1とつ取れる。


ストライクゾーンと言われる枠組みが決められており、審判の判断で枠組みにボールが通過すればストライク。


外れた場合はややこしいが「ボール」という判定を下される。


ボールは4球投げるとバッターは一塁に出てしまう。


ヒットを打たれた事と同じだ。


祐輝のストレートはボールとなったが強気な投球に3年生キャッチャーはうなずいていた。




「へっ。 楽しい・・・生まれて初めて思った。 野球楽しいな。」




父親の祐一と断絶関係になってでも始めた野球。


祐輝が初めて本当に楽しいと思った瞬間だった。
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