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第15話 それでもあんたには野球頑張ってほしい

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祐一は驚きのあまり沈黙したが少しすると立ち上がり言った。



「そうか。 じゃあもう好きにしろ。 金は出さねえ。 勝手にやれ。 俺は二度とお前の野球には関わらない。」




断絶ともいえる親子関係。


祐一は祐輝のユニフォーム代も道具代も出さなくなった。


真美はそれでも祐輝に野球をやってほしかった。


その理由は祐輝の日常にあった。


学校では喧嘩の毎日。


家では歴史のテレビを見るか、歴史シュミレーションゲームをやるだけで特に話もしない静かな子だった。


真美は祐輝の未来を案じていた。


祐一の隣に行って真美は心配そうにしていた。




「あの子は不良かヲタクのどっちかになっちゃうよ・・・」
「知るか。 好きにしろ俺は関わらない。」
「本当にいいの? ヤクザになっても?」
「知らん。 勝手にしろ。」




祐一はそれ以来完全に祐輝と関わらなくなった。


新宿の真ん中にある持ちビルで暮らす祐輝は裕福なはずだったが金の全ては祐一のものだ。


野球をするお金も全て真美がパートをして稼いだ。


もうすぐ小学校も卒業式だと言うのに。


中学入学までの数カ月間、真美は働き続けた。


そして月日は流れて祐輝は卒業式を迎えた。


忌々しい勝との6年間も終わりだ。




「なあ勝。」
「???」
「最後にタイマン張ろうぜ。」
「は? キモいわー。 もう二度と会わないだろうな。 じゃ。」





祐輝の地獄の様な6年間は終わった。


親友の一輝も祐輝に別れを告げる事なく去って行った。


何も楽しくなかった。


1人で家に帰っていると後ろから名前を呼ばれた。


振り返ると駆け寄ってきた。




「中学もよろしくねー。」
「頭良いのに私立行かなかったの?」
「うん。 別に頭良くないよー。 私立はもっともっと頭の良いお金持ちの子供が行くんだよー。」
「そっか。 金か。」




ミズキは中学進学を祐輝と同じ学校にした。


学年で一番成績の良いミズキは私立に行かなかった。


ランドセルを背負ってニコニコとしている。


祐輝は無表情で下を向いて歩いている。




「祐輝君は中学でも弱い人を助けるの? 野球やるの?」
「助ける・・・さあね。 野球はやるよ。」
「野球やるんだー! 私も野球知りたいんだよねー。 マネージャーやってみようかなー。」
「いや。 地域のクラブチームだからマネージャーとかない。 悪い。 俺やる事あるから先に帰るな。」
「あ、う、うん・・・中学でもよろしくね!」




ミズキは少し寂しそうにして1人で家に帰っていった。


そして祐輝は家に帰ると何も言わずに部屋に戻った。


ベットに座って頭を抱えていた。


卒業アルバムを開いて6年間を振り返る。





「一輝・・・元気でな・・・お前がいてくれたから野球続けられた・・・でも一輝のいなくなってからの時間は苦しかった・・・」





涙を流して頭を抱えている。


誰よりも信じていた。


ずっと一緒に野球できると思っていた。


しかし両親の関係で引き裂かれた。


祐一が憎くて仕方なかった。




「なんであんな奴が俺の親父なんだ・・・一輝・・・」




祐輝の心は荒み始めていた。


誰かを助けても何も得はしなかった。


結局離れていった。


勝の攻撃対象に選ばれたのもみんなのためだった。


しかしここに祐輝と子供達の「考え方の差」が生まれていた。


歴史を勉強していた祐輝は他の子供より精神年齢が高かった。


子供達は祐輝に感謝していたが、毎日が楽しければそれで良かった。


中学で別れたからさようなら。


小学生なんてそんなものだ。


祐輝にはそうではなかった。




「中学は俺1人でいい。 歴史を勉強していきたい。 先人達の知恵がほしい。」




友人を作るつもりはなかった。


恋愛にはもっと興味がなかった。


好きな事は古の英傑達が生きた証を読む事だ。




「まあもういい。 それより長篠設楽原に行きたい。 織田、徳川の鉄砲隊3000人で武田の騎馬隊1万を倒せるなんてあり得ない。 どんな地形だったのかな。 天候は? ああ・・・信長に聞いてみたい。 どうやって倒したのか。」




長篠の戦い。


歴史の教科書で誰もが一度は耳にする戦い。


そこには織田、徳川の鉄砲隊で武田の騎馬隊を倒したとある。


ほとんどの子供はそれで終わりだが祐輝には疑問があった。


豊富な歴史の知識があるからこそ疑問だった。




「機関銃でもないと無理だ。 火縄銃にそんな精度はない。 母ちゃんに連れて行ってもらおう。」
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