上 下
13 / 140

第13話 お前はそれでも親友だ

しおりを挟む
祐輝は包囲網を敷かれている。


家では祐一の狂言に苦しみ、タイガースでは勝と取り巻きに苦しんだ。


しかし学校だけでは祐輝の力が活きていた。


祐輝を頼って集まってくる子供達。


人数は増えていくばかり。


そんなある日の事だ。


新宿小学校に転校生が現れた。


タイ人の転校生だ。


肌は黒く、少し悪そうな顔をしている。


名をゲーオという。





「ゲーオだって聞いたか? ゲロみたいだー! はははー!!!」





当然、勝の攻撃対象になった。


しかしゲーオは気にもとめなかった。


転向して数日。


勝と喧嘩をする祐輝を見つけた。


いつもの様に勝は逃げていった。


すると祐輝の元にゲーオは近づいてきた。




「君は転校生の。」
「ゲーオ。」
「そっか。 俺は祐輝。 よろしくな。」
「名前。 笑わないの? ゲロって言わないか?」




祐輝は不思議そうに一輝と顔を合わせていた。


ゲーオは冷たい目でじっと下を見ている。


きっと勝に馬鹿にされたんだと気がついた。




「つまんないよ。 ゲロとか・・・ゲーオだよね。」
「ありがとう。 俺、勝潰す。」
「ゲーオはポケットからカッターナイフを取り出した。」




青ざめる一輝は少し祐輝の後ろに隠れた。


祐輝は慌ててカッターナイフを取り上げた。


ゲーオは不思議そうにしている。


別にカッターナイフで祐輝を攻撃するつもりはなかった。


それなのにどうしてか。




「ゲーオ。 一緒に勝を倒そう。 でも武器はダメだ。 こんなの持ってたらゲーオが悪い事になるよ。 一輝のパパは警察官だよ。」
「そ、そっか・・・俺殴るの弱い・・・カッターナイフあれば勝てる。」
「カッターナイフを使ったら負けだよ。」




ゲーオは痩せ細っていて、更に小柄だった。


小学校3年生とは思えないほど小さかった。


ゲーオの家は貧困を極めていた。


母はタイ人で父はもはや誰だかわからなかった。


生きるために母は水商売の道へ進んだが、その間にできた子供がゲーオ。


ゲーオの心の中にある闇の深さは計り知れない。




「ゲーオ。 俺達がいるから。 友達だよ。 喧嘩するなら一緒に戦うから。 カッターナイフはもう使わないで。」
「う、うん・・・ありがと・・・」




その日はゲーオと別れた。


帰り道に祐輝と一輝は話している。


少し浮かない顔をしながら。




「うーん・・・」
「うーん・・・」
「やっぱり気になるよね・・・」
「そうだね・・・」
『カッターナイフかあ』




ゲーオの凶暴性。


子供の喧嘩の域を越えている。


どんな人生を送ってきたのか。


小学生の祐輝と一輝にはわからなかった。


ただ1つ言える事はゲーオを見捨てるつもりはないという事だ。




「またゲーオが刃物出したら俺は止める。 勝は消えてほしいほどムカつくけど死んでほしいとは思わない。 できれば何処か遠くに転向してほしい。」
「そうだよね・・・殺人事件だよ・・・でも子供だから逮捕されないかも・・・」
「え、そうなの?」
「昔父ちゃんが言ってた・・・」




ゲーオはそれを知ってか知らなくてか。


いずれにしてもカッターナイフなんて持ち歩く物ではない。


そして次の日。


授業の合間の休み時間に祐輝はゲーオの様子を見るために一輝を連れてD組を見に行った。


残念な事にゲーオは勝と同じクラスだった。


案の定、勝はゲーオをいじめていた。




「オロロロロロッ!! ああゲロ吐いちゃった・・・」
『ギャハハハハハッ!!』




祐輝と一輝は様子を見守る。


するとゲーオは持っていた算数の時間に使っていた定規をへし折って勝の喉元に突きつけた。


勝の額を手で抑えて喉元に定規が食い込んでいる。


へし折って尖っている定規はもはや凶器だった。




「ゲーオ!!」
「ゆ、祐輝!?」
「おりゃっ!!」




祐輝はゲーオを殴り飛ばして一輝と共に外へ引っ張り出した。


2人は落ち着かせるとゲーオとゆっくり話した。


休み時間終了のチャイムが鳴ったが3人は教室に戻らなかった。


少年達が不良の第一歩に足を踏み入れた瞬間だった。


しかしそれは大切な友達を守るためでもあった。




「授業サボっちゃったね。」
「いいよ別にどうせ理科は俺嫌いだし。」
「へへへ。 俺は算数が嫌い。 ゲーオは?」
「ぜ、全部。」




ゲーオは楽しげに話す祐輝と一輝を見ていた。


3人はその後しばらくして捜索の先生に見つかり職員室でこっぴどく叱られたが表情は明るく、時より目を合わせて笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

処理中です...