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第87章 謎の軍隊と対峙

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野営地でののんびりとした生活は何の前触れもなく突如として終わりを告げた。



『ウラアアアアッ!!!』



赤い旗を掲げて突撃してくる大軍にペップは驚愕していた。


昨日まで仲良く遊んでいた難民達が突如として姿を消し、朝になれば赤い旗の軍隊が襲いかかって来ていた。


難民と過ごす時間は実に平和で歩哨の警備がかなり薄くなっていた。


謎の敵は警備が薄くなった事をいい事に攻め込んできた。




「難民はどこ行ったんだよ!」



ペップは叫びながら武器を取った。


突然の強襲に反撃が遅れた白陸軍は初動でかなりの被害が出た。


衝撃信管弾こそ使用はしていたが襲いかかる敵はまさに血眼だった。




「あんたら。 蹴散らしてやりな。」



夜叉子の一言で獣王隊は猛反撃を開始した。


せめてもの救いは周囲に多くの宰相達の私兵が存在していた事だった。


獣王隊を始め、竹子の白神隊に優子の美楽隊。


そして現在ローズベリーへ外交官として赴いているレミテリシアの正覇隊もペップ達の近くにいた。


白陸軍の一般兵を次々と倒す敵はいよいよ私兵達の前に現れた。



「ここで止めてやる!!」



ペップは歯茎を剥き出しにして敵を睨みつけていた。


そして私兵達も戦闘を開始して野営地は大乱戦となった。


この場所を突破されれば虎白達の司令部まで敵が入ってきてしまう。


しかしペップを始めとする私兵達の反撃は熾烈を極めた。


これにはたまらず敵も足が止まり、戦闘は更に激化していった。


地獄とも言える乱戦の中でペップは異彩を放ち続けた。


地面に足がついている時間がほとんどないと言っても過言ではないほどにペップは次々に敵を倒していた。


自慢の跳躍力で前に跳ねると敵の首元に噛み付いて負傷させると次へまた次へと敵兵の首元に噛み付いた。


まるで狂戦士だ。


獣王隊の凶暴性は敵兵を恐怖に陥れた。




「ガルルルルルッ! 何人でも来いよ人間が!」



生まれながらにして屈強な半獣族の肉体は多少の衝撃信管弾ではびくともしなかった。


獣王隊は敵を押し返し始めると周囲の私兵もそれに続いた。


白神隊のルーナが獣王隊の側面に押し進めると援護射撃を始めた。




「全私兵隊! 獣王隊を主軸とした防御陣形を展開せよ!」



ルーナの一声で私兵達は獣王隊の両側面を援護する形で反撃を始めた。


理由は簡単だ。


追い込まれた獣の強さは何よりも恐ろしいからだ。


突然の攻撃に驚いた半獣族は生まれながらに備えられた防衛本能が働き、凶暴性が増していた。


我を失ってしまうのが半獣族の弱点だが彼らは宰相夜叉子の私兵。


厳しい訓練で我を失わずに防衛本能だけを剥き出しにして戦う事ができた。


思考は冷静であり動きだけは凶暴そのもの。


ルーナという傑物はその一点の勝機を逃さなかった。


猛反撃が始まり数分もすると敵兵は士気が低下して背を向け始めたが驚く事に逃亡する兵士を敵軍の将校は拳銃で撃っていた。


前後どちらに進んでも撃たれるならせめて白陸軍を倒そうと死に物狂いで襲いかかる敵軍は次々に私兵の強力な戦闘力に翻弄されていった。


しかしそれでも敵軍は諦めなかった。


一体何が起きているのか。


一つわかる事はこの事件は必ず天上史に残ると言う事だ。


病室のベットで目を覚ます白斗は慌ただしい帝都の様子を見ていた。



「俺が刺されたのにも意味があるのか。 ペップのやつ大丈夫かな。」



心配そうに空を見つめる白斗は何が起きているのか確認するために叔母に当たる恋華の元へ向かった。


そして状況を説明されると更にペップが心配になった。


同時多発的に白陸軍が攻撃されているという事態において虎白の本軍の中に白斗の親友はいる。


居ても立っても居られない白斗は早々に本国を攻撃してくる謎の軍隊を撃滅する様に恋華に懇願した。



「あなたは黙ってなさい。 そもそも帝都まで敵が迫っているのはあなたと宮衛党の警備が甘かったせい。」



恋華には相手にされず、自分の責任を感じて部屋に戻ると妻のメリッサが地図を見ながら考え込んでいた。


何を考えているのか尋ねるとメリッサは敵の出現の経緯が不明だと不思議そうに地図を凝視している。


白斗はソファに座り込むと「ペップが心配だ。」とため息をついていた。



「そもそもあんな大軍が動いたら絶対わかるはずなんだよなあ。」
「賢いメリッサがわからねえなら俺もわからねえよ。 それに叔母上達でもわからなかったんだろ。」



白斗の言っている通り、知略に長けた恋華や夜叉子達でさえ敵の大軍の接近に気がつかなかった。


虎白の本軍には情報将校のサラまでいる。


宰相春花の空軍を偵察飛行をしていたのに誰も気がつかなかった。


一体敵はどうやってこの距離まで近づいて来たのか。


メリッサはどうしても腑に落ちなかった。



「夜叉子叔母さんの妹さんは地下に領地を持ってるってパパが言ってたけどまさかそこ通ったのかな?」
「それじゃ修羅子さんが裏切った事になるぞ!」
「だよなあ。 あーメリッサわかんないよおー。」



連日の様に状況が移り変わっている中で確かなのは何か異様な勢力が存在しているという事だった。


しかし誰もがその正体にまで辿り着けず、次に何をしてくるのかわからなかった。


頭を抱えるメリッサの横で白斗は親友の事が気になって仕方なかった。




「ペップ。 お前やられたりしてないよな・・・」



虎白からの問いに即答で「本国に戻る」と言い放った白斗だが、今では北側領土が心配で何も集中できずにいた。


恋華から命令がない限り、白斗は動けなかった。


特に何もできずに帝都をウロウロと歩いている。


すると白王隊の兵士が血相を変えて白斗に向かってくる。




「殿下!! 何をなさっているのです護衛もつけずに!」
「やる事ないんだよ。」
「それでも今は危険ですからせめて宮衛党の護衛だけでもつけてください!」
「あーもううるせえなあ。」



白王隊の兵士を振り解いて城の中にある自分の部屋に戻っていく。


若く勇ましい青年は白陸の力になりたいが恋華は白斗を動かすつもりがなかった。


城の中で恋華は恋人にして側近の紅葉と話し合っていた。



「宮衛党が戦わずに逃げて来たのは問題だった。」
「うん。 白斗が刺されたのも原因だけどそもそも護衛なしに夜に彷徨くから悪いの。」



せっかく初戦では活躍したのに台無しになってしまったと恋華と紅葉は話していた。


まだまだ爪が甘い若き皇太子がもっと後の皇帝としての自覚を持つのはいつだろうか。


恋華はため息をついて今後の事を考えていた。


戦場で奮戦するペップもある事を考えていた。



「白斗は国で敵をやっつけたかな。」



国に戻った親友の事が心配だった。


予想外の連合軍に苦戦しているんじゃないか。


まさか負けて捕まっていないだろうか。


考え始めるとキリがなかった。


やがてペップの攻撃は雑になり、隙が見え始める。


1人敵を倒すと隙だらけのペップの背中目掛けて銃剣を突き立てて走ってくる。


気がついていないペップは無防備だった。


するとサガミが敵兵を倒してペップの顔を平手打ちする。



「気抜いてんじゃねえぞペップ!!」
「はっ!?」
「何考えてるか知らねえが今は目の前の敵だけ倒せ!!」
「は、はいっ!!」



サガミに助けられたペップは考える事をやめた。


しかし親友の事が頭から離れないという心境は変わらなかった。


そこでペップは考え方を変えた。




「大丈夫だよな。 白斗は強いもんな。 見てろよ白斗! 俺だって強いんだぞ!」




ペップは敵兵を1人倒すたびに「どうだ白斗。」と考えた。


その事によってペップは戦いに集中できた。


しかし敵兵は減るどころか増えているかの様に次々に私兵達に襲い掛かってくる。



「はあ・・・はあ・・・」



まるで減らない敵の波にペップもいよいよ呼吸が荒くなりフラフラとよろめき始めた。


その光景を見たサガミはペップの首根っこを掴んで後方へ押しのけた。


「少し休め!」と言い放って戦闘に戻ろうとするサガミの腕を掴んでペップは首を振った。




「ま、まだまだ・・・」
「初めての実戦で無理しすぎるな!」
「俺は行けます!」
「たまには俺の命令を聞け!」



そしてサガミに腹部を蹴られて後方に吹き飛ぶと大の字で倒れた。


空は青く美しかった。


終わりの見えない過酷な戦闘を空はどう思って見下ろしているのかとペップは見上げていた。


美しい青空の下で響き渡る怒号と剣戟。



「戦争のない天上界かあ。 お頭。 そんな未来来ますかね。」



大の字で横たわるペップの元へルルが駆け寄って来た。


「やられたの?」と目を見開いて心配そうにしていた。


「大丈夫。」と言いながらルルの手を借りて立ち上がるとゆっくりと歩きながら戦闘へ戻った。


早朝から仕掛けて来た敵の攻撃は、気がつけば既に昼になっていた。


5時間以上も乱戦が続いている。


双方の負傷者で溢れかえる戦場はあまりに残酷で目も当てられない。


白陸の一般兵にはとても耐えられる戦闘ではなかった。


次々に一般兵はその場に倒れて気絶していく。


その状況にあっても私兵だけは奮戦を続けていた。


しかしペップを含む多くの私兵達も既に限界にまで来ていた。




「はあ・・・はあ・・・」
「はあ・・・サガミ大尉・・・」
「さすがに苦しいな・・・」




ペップは既に立つ事すら苦しそうだ。


歴戦のサガミですら呼吸が上がり肩の力がすっかり抜けていた。


昼を過ぎたがまだまだ敵軍は襲い掛かって来た。


推定でも100万人は敵がいる中でまともに戦闘ができているのは僅かな白陸軍と私兵だけでせいぜい30万前後だ。


他の白陸兵は既に気絶している。


敵の勢いはそれでも止まらなかった。




「はあ・・・サガミ大尉・・・」
「なんだ?」
「し、死んでも通さねえ。 死んでも負けねえ。」



ペップはサガミの腕を掴んで必死に訴えている。


負けたくない。


呼吸は上がり口も開き唾液が滴るペップはそれでも瞳だけは闘志に満ちていた。


サガミはペップの頭をガシガシ撫でると大きく息を吸って武器を握り直した。



「当たり前の事言ってんじゃねえ。 行くぞ。」



そしてまた迫る敵軍を迎え撃つのだった。
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