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第80章 ペップと宮衛党

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エルドナとの出会いを経てペップの中で改めて芽生える士官としての自覚。



「それにしてもエルフ族の憲兵ってのはしっかりしてんだなあ。」




街を歩くと必ず見かけるエルフの憲兵。


礼儀正しく規律もしっかりしている。


見惚れるペップとルルの前にそびえ立つ立派な建物。


城に見えるが虎白が暮らしている本城に比べると少し小さい。


門の前には半獣族の兵士が立っている。




「この制服。 宮衛党か。」
「この間戦ったねえ。」
「せっかくだから挨拶していくか。」
「そうだねー!」




ペップは城門の衛兵に声をかけると城の中に入った。


城内は広く、多くの兵士が訓練していた。


そして半獣族だけの国民達まで暮らしていた。


帝都の中でこの宮衛党だけはまるで別の国だ。


エルフの憲兵の姿もなく、独自の勢力の様になっている。


物珍しそうにペップが城内を歩くと愛想のいい半獣族の国民達が挨拶してくる。




「なんかここいいなあ!!」
「同胞ばかりねえ!」
「あれ? 獣王隊?」
「どうも!」
「私はウランヌ。」




中佐の階級章が襟に輝いている。


ペップとルルは敬礼すると笑顔で敬礼していた。


ウランヌは突然の来客にも笑顔で接していた。




「精鋭獣王隊がどうしてここへ?」
「以前戦ったので挨拶に来ました。」
「あらそれは嬉しい。 獣王隊は強かったなあ。」
「あ、あの中佐?」
「ん??」




ペップは宮衛党との模擬演習で気になる事があった。


それはメルキータの奇襲だった。


何故あの時襲いかかって来なかったのか。


ペップと僅かな小隊しか夜叉子を守れずにいた。


メルキータが奇襲すれば勝機があったはず。

しかし動かなかった。




「どうしてなんですか?」
「うーん・・・恥ずかしい事かもしれないけどねえ。 メルキータはずっと苦しんでいるの。 アーム戦役での失態を。」
「訓練兵の頃に聞いた事ありました。 でもアーム戦役って言えば・・・」
「もう10年以上前ね。 それでもメルキータには切り離せない事なの。」




ウィッチの狡猾な作戦にはめられたメルキータは裏切り者となった。


虎白のおかげで宮衛党があって、優奈を守る軍隊になれた。


それなのに最初の戦闘で虎白を殺しかけた。


戦後になって自分がしてしまった事の重大さを自覚した。


それ以来、毎日夢に出てくる。


あの日の惨劇が。


虎白と白王隊が倒れていくあの惨劇の中には末の妹であるロキータもいたのだ。


完全に勢いを失ったメルキータ。


ペップはその話を聞いても不思議だった。




「んー。 でも宮衛党なんて一大勢力を持っているのに・・・やり直せないんですか?」
「本人がねえ。 私も立ち上がってほしいと思っているよ。」
「お頭に相談してみては? メルキータ様は誰かに背中を押してもらうべきでは?」


ペップの考えには一理ある。


何故なら宮衛党は基本的に大将軍達と関わる事がなかった。


それもメルキータの消極的な姿勢にある。


ペップは夜叉子ならメルキータの心の呪縛を払ってくれるのではと考えた。


ウランヌはペップの提案に感謝していた。


だが首を縦には振らなかった。




「気持ちは嬉しいけどねえ。 メルキータは会いたがらないの。」
「え、ええ・・・でもせっかく宮衛党は強いのに・・・」
「ありがとうねえ。」
「あ、あの中佐。 俺が会ってもいいですか?」
「メルキータに?」
「は、はい。」




困った表情でウランヌが黙っていると後ろからメルキータの声がした。


ニキータやへスタ、アスタを連れて歩いている。


ペップに気がつくと不思議そうに見ていた。




「な、なんで獣王隊が?」
「こちらはペップ中尉とルル少尉。 あなたに会いたいんだって。」
「な、何かこの間の模擬演習で無礼を?」
「い、いえ違うんですよ大佐・・・」
「じゃ、じゃあ?」





大佐という階級でありながら中尉のペップに対してもおどおどしている。


ペップはその態度が気に入らなかった。


宮衛党という強力な軍隊を持ちながらこの弱気な態度。



「あのちょっとお話しできませんか?」
「え、私と?」
「はい。」
「えー何? や、夜叉子は怒っているのか?」
「ですからー違います。 話したいんです。」



まるで投降した捕虜の様に怯えた態度だ。


夜叉子の兵士であるペップに怯えている。


ペップに会ってからずっと困り顔のウランヌがメルキータを引っ張る様にして城の中に案内した。


そして広い部屋でペップとメルキータは話しをした。




「え、えっと・・・」
「大佐。 どうしてそんな弱気なんですか?」
「弱気? いやあ・・・弱気というか、失礼のない様に・・・」
「弱気ですよ。 俺は中尉ですよ? もっとこう。 なんていうか。」
「偉そうにしたくはない。 私は偉くなんてないから。」





永遠に絡みつくアーム戦役での事。


しかしもう10年近く経過している。


いつまでもこの様子では宮衛党が成長できない。


下を向いて黙り込むメルキータ。




「大佐。 アーム戦役での事ですよね? 俺はその当時はいませんでしたが。」
「いなかったなら話さないでくれ。」
「いやですから。」
「お前に何がわかるんだよ!! 優奈姫様を殺すと言われて・・・あれしかなかったんだ!! だから後悔しているんだ! 私のしてしまった事は取り返しがつかない・・・だからこうやって反省して・・・」
「10年もですか? 反省じゃなくて怖いんですよね?」
「黙れ!!! 衛兵! お見送りしろ!!」



宮衛党の兵士がペップの隣に立っている。


そして出口に案内しているがペップは動く様子がなかった。


ウランヌは呆れた表情で衛兵を下がらせている。





「ちょっとメルキータ。 そんな言い方ないでしょ。」
「もう放っておいてくれ。 ウランヌ。 お前が総帥をやってくれ。」
「大佐!! 恥ずかしくないんですか? ウランヌ中佐がどんな気持ちであなたに忠誠を誓っているのかわかっているんですか!!」





あの戦争から10年以上が経つ。


しかしメルキータの後悔は消える事なく、向上心もなくなっていた。


そんな宮衛党を支えるのがウランヌだった。


誰もがわかっている。


ウランヌこそが総帥に相応しいと。


だがウランヌはメテオ海戦で救ってもらった命をメルキータに預けていた。

自分が総帥なんてあり得ない。


昔の様に勇敢なメルキータに戻ってほしかった。


だがメルキータはペップの話に耳を貸さずに追い返してしまった。


追い返されたがペップはもう一度宮衛党へ入ろうとしていた。


ルルは困った表情でペップを見ている。




「大佐で大組織の指揮官なのにあんなのダメだ。」
「もう止めようよー。 他に行って遊ぼうよ。」
「ダメだ。 もう一度行く。」




ペップは門から動かない。


その頃ウランヌはメルキータを説得していた。


まるで話を聞こうとしないメルキータだったがウランヌは諦めなかった。




「彼は獣王隊だけど同じ半獣族だよ。 心配しているだけよ。 話だけでも聞いてあげて。」
「・・・・・・私に何をしろと?」
「だから話を聞いてあげて。」





メルキータは渋々ペップを呼び戻した。


部屋に戻るとペップは椅子に座ってメルキータの顔をじっと見ていた。


下を向いて何も言わずに黙り込んでいるメルキータに困り顔のウランヌがため息をついた。




「大佐。 失敗は当然します。 俺だって訓練で親友を失いました・・・でも俺は彼らのためにもっと成長しようと思っています。」
「は、はは・・・それは立派だな。」
「大佐は頑張らないんですか?」
「もう迷惑かけたくないんだ。」
「成長しなくては迷惑かけますよ。」




今日までにペップは何度も失敗して多くの獣王隊に迷惑をかけた。


大好きな夜叉子にだって。


それでもペップは必死に成長してきた。


まだまだ半人前だがこうしている今も成長している。


メルキータは20年以上もの時間でほとんど成長していなかった。


ペップはその弱気な姿勢が許せなかった。




「しっかりしてください。 宮衛党は強い。 自信持ってください。」
「ありがとうな。」
「はい?」
「私の事を気にかけてくれて。 同じ半獣族だからか?」
「それもありますが・・・あなたは憧れでもあります。 半獣族の総帥なんてカッコいいじゃないですか。」




無邪気な笑顔で笑うペップに唖然としている。


いつからか。


メルキータは忘れていた。


こんなにも純粋に笑う事を。


大きく息を吐いて天井を見ている。


そして隣に立っているウランヌの顔を見た。




「私にもできるかな・・・」
「もちろん。 メルキータは総帥よ。 ねえ中尉?」
「はい!! 必ず。 失敗したって諦めなければ大丈夫です。」
「そうか。 嬉しかった。 純粋な笑顔を見せてくれてありがとう。」




メルキータはペップを見送ると敬礼した。


そして城に戻っていくとソファに座ってため息をついた。


ウランヌが隣に来るとミルクを入れて一緒に飲んでいた。




「純粋だったな。」
「少しは元気もらった?」
「まあな。 嬉しかったよ。 本当に。」
「まずはここからね。 自信持って。 堂々としていればいいの。 虎白様はメルキータに任せたんだから。」




誰もが道半ば。


ペップだって白斗だってそうだ。


虎白でさえ道半ばだ。


メルキータはしっかり歩まなくてはいけないと思った。


そして行動に移せればいい。


彼女の苦しみは彼女にしかわからない。


だが目を背けてはいけない。


メルキータはもう一度総帥として歩む覚悟を持てたのだ。
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