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第十八話 敵に回してはならない
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話し終えた後、ミレンディアは泣き出し、ルーエは無言になっていた。
その二人の反応の方が私には意外で、泣き出してしまったミレンディアをどう慰めたらいいか、とおろおろしてしまう。
ミレンディアは、スピネル様、なんてお酷い、とハンカチが涙で濡れて絞れるくらい泣きじゃくっている。
いつもきっちりしている化粧が崩れて台無しだ。
そんなミレンディアに自分のハンカチも差し出すルーエはさすが気遣いができると、出遅れた自分に少し歯噛みをした。
そしてようやくミレンディアを落ち着かせると、ルーエは優しく私に微笑んだ。
「姫様がスピネル様を見限るのも当然ですわね。大聖母になるというのは姫様からスピネル様への優しさの証だったのですね……お相手を傷つけることなく別れを切り出すという。……姫様はスピネル様をお厭いになってらしたのですね。今までずっとお似合いであると思っていた、このルーエの目が節穴でしたわ」
え、なに、なんか話が違っていない?
別にスピネル様に怒ってはいても、嫌っているわけではないし……。
「将来を添い遂げるべき相手からそのような暴言を受けても、王女として波風を立てるべきでないと黙って耐え忍び、誰にも言わずに帝国最高試験に通って鼻を明かすなんて……さすがステラ様ですわね。王女としての誇り高さも素晴らしいですわ」
え、それ、なんのこと? 私、暴言を吐かれたなんて思ってないのだけれど……。
あと、鼻を明かすつもりなんて全然ないし、それどころかスピネル様、私の合格の最大の協力者だし!?
スピネル様に言われたことって、そんなにひどいことと他の人には受け止められるの? それって私が王女だから? それとも女性ならもっと怒らなきゃいけなかったの?
……今更聞けないんだけれど。
「なるほど、そうなるとスピネル様に対してあの対応はいい気味ですわね。スピネル様はご自分の気持ちを1つも述べておりません。父君たちが決めた婚姻だから? それがなんだっていうのでしょう。女が聞きたいのはそんな建前ではございませんのに。相手に察してもらうことばかりして、自分の気持ちを述べることを怠るからこうなるんですの。いい薬になったでしょう」
「男性にはよくあることです。思い上がりもいいところですわね。愛されているということに胡坐をかいていて、気づいたら嫁が教会に駆け込んでいた、なんてよくありますしね」
教会に駆け込むというのは、この国で言うところの離婚するという慣用句だ。
なんか生々しい。
自分たちの婚約者との過去のなんやかやを、スピネルの行動を見て思いだしたのか、彼女たちの怒りを無駄に煽ってしまっているようだ。
「男はスピネル様だけではありませんよ。きっと陛下ならもっと姫にふさわしいお相手を選んでくださることでしょう」
二人そろって頷いて、私を慰めてくれるが。
「二人とも落ち着いて? 正式に破棄になったわけではないのよ……?」
「でも、略式に破棄なさったのも同然ですよ。ステラ様からスピネル様をお捨てになったのですから。とても格好よかったですわ」
先ほどの私の行動を思いだしているのか、ミレンディアがうっとりとした顔をしているが、ちょっとやめてほしい。
私から先ほどのことを、父に報告するつもりもないのだし。
そう言ったら、二人は私が口止めしたことを思いだしてくれたようだ。危なかった。
「もちろん私たちからこのことに関して、誰かに何かをいうことはございませんわ。ただ……」
「ただ?」
「スタイラス家ご子息に対する独り言を言ったり、それを立ち聞きされたりされたら仕方ないですわよねえ?」
それはそれは美しい笑顔で言う侍女たちを初めて恐ろしいと思った。
私は知らなかったのである。
女を敵に回してはいけないという本当の意味を。
元々あまり人付き合いが豊富というわけでもなく、もっとも身近な侍女とすら特に深い交流をしようとしてなかったツケが今回ってきたのだ。
私ではなく、スピネル様の方に。
「それに、司法庁の方にも噂を流しましょう。姫様が気がのらないのに無理に勧誘をしていると」
「それはやめてあげなさい……。あら……そういえば、司法庁……?」
確か……。
今の今まで忘れていたが、この間、大聖堂で会ったリベラルタスも司法庁に希望を出していると言ってなかっただろうか。
「入庁希望者は既にいるのに、私も勧誘?」
そんなことをしたら、特士の独占だと他のところから抗議が起きるに違いない。
しかもスピネルは婚約者という立場を利用して、無理に私に入るよう強いたと言われかねない。それが現実でもそうでなくても、だ。
一人入るものが決定している時点で、そんな危ない橋を渡ることもないだろうに。
スピネル様はどうしてあんなことを?
嫌な予感がしてならなかった。
その二人の反応の方が私には意外で、泣き出してしまったミレンディアをどう慰めたらいいか、とおろおろしてしまう。
ミレンディアは、スピネル様、なんてお酷い、とハンカチが涙で濡れて絞れるくらい泣きじゃくっている。
いつもきっちりしている化粧が崩れて台無しだ。
そんなミレンディアに自分のハンカチも差し出すルーエはさすが気遣いができると、出遅れた自分に少し歯噛みをした。
そしてようやくミレンディアを落ち着かせると、ルーエは優しく私に微笑んだ。
「姫様がスピネル様を見限るのも当然ですわね。大聖母になるというのは姫様からスピネル様への優しさの証だったのですね……お相手を傷つけることなく別れを切り出すという。……姫様はスピネル様をお厭いになってらしたのですね。今までずっとお似合いであると思っていた、このルーエの目が節穴でしたわ」
え、なに、なんか話が違っていない?
別にスピネル様に怒ってはいても、嫌っているわけではないし……。
「将来を添い遂げるべき相手からそのような暴言を受けても、王女として波風を立てるべきでないと黙って耐え忍び、誰にも言わずに帝国最高試験に通って鼻を明かすなんて……さすがステラ様ですわね。王女としての誇り高さも素晴らしいですわ」
え、それ、なんのこと? 私、暴言を吐かれたなんて思ってないのだけれど……。
あと、鼻を明かすつもりなんて全然ないし、それどころかスピネル様、私の合格の最大の協力者だし!?
スピネル様に言われたことって、そんなにひどいことと他の人には受け止められるの? それって私が王女だから? それとも女性ならもっと怒らなきゃいけなかったの?
……今更聞けないんだけれど。
「なるほど、そうなるとスピネル様に対してあの対応はいい気味ですわね。スピネル様はご自分の気持ちを1つも述べておりません。父君たちが決めた婚姻だから? それがなんだっていうのでしょう。女が聞きたいのはそんな建前ではございませんのに。相手に察してもらうことばかりして、自分の気持ちを述べることを怠るからこうなるんですの。いい薬になったでしょう」
「男性にはよくあることです。思い上がりもいいところですわね。愛されているということに胡坐をかいていて、気づいたら嫁が教会に駆け込んでいた、なんてよくありますしね」
教会に駆け込むというのは、この国で言うところの離婚するという慣用句だ。
なんか生々しい。
自分たちの婚約者との過去のなんやかやを、スピネルの行動を見て思いだしたのか、彼女たちの怒りを無駄に煽ってしまっているようだ。
「男はスピネル様だけではありませんよ。きっと陛下ならもっと姫にふさわしいお相手を選んでくださることでしょう」
二人そろって頷いて、私を慰めてくれるが。
「二人とも落ち着いて? 正式に破棄になったわけではないのよ……?」
「でも、略式に破棄なさったのも同然ですよ。ステラ様からスピネル様をお捨てになったのですから。とても格好よかったですわ」
先ほどの私の行動を思いだしているのか、ミレンディアがうっとりとした顔をしているが、ちょっとやめてほしい。
私から先ほどのことを、父に報告するつもりもないのだし。
そう言ったら、二人は私が口止めしたことを思いだしてくれたようだ。危なかった。
「もちろん私たちからこのことに関して、誰かに何かをいうことはございませんわ。ただ……」
「ただ?」
「スタイラス家ご子息に対する独り言を言ったり、それを立ち聞きされたりされたら仕方ないですわよねえ?」
それはそれは美しい笑顔で言う侍女たちを初めて恐ろしいと思った。
私は知らなかったのである。
女を敵に回してはいけないという本当の意味を。
元々あまり人付き合いが豊富というわけでもなく、もっとも身近な侍女とすら特に深い交流をしようとしてなかったツケが今回ってきたのだ。
私ではなく、スピネル様の方に。
「それに、司法庁の方にも噂を流しましょう。姫様が気がのらないのに無理に勧誘をしていると」
「それはやめてあげなさい……。あら……そういえば、司法庁……?」
確か……。
今の今まで忘れていたが、この間、大聖堂で会ったリベラルタスも司法庁に希望を出していると言ってなかっただろうか。
「入庁希望者は既にいるのに、私も勧誘?」
そんなことをしたら、特士の独占だと他のところから抗議が起きるに違いない。
しかもスピネルは婚約者という立場を利用して、無理に私に入るよう強いたと言われかねない。それが現実でもそうでなくても、だ。
一人入るものが決定している時点で、そんな危ない橋を渡ることもないだろうに。
スピネル様はどうしてあんなことを?
嫌な予感がしてならなかった。
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